特別な君の声
妹は頭にタオルをかぶせながらお風呂から出てきた。
とてとてとオリオンも後ろからついて来た。
ソファーで本を読んでいる僕に近づいてきて、隣で寝転がる。そして、可愛いポーズで見上げてくる。僕はそれをチラッと見る。
う~ん、天使か。
「どうしたんだ、妹よ」
「ハルちゃん。ハルちゃんは、じゃあどっちを応援するの?」
「日曜の試合のことか」
可愛いポーズでオリオンも見上げてくる。
お前も、可愛いなぁ、おい。
「か、神崎さんだよ」
僕は静かに返す。
「だよね~」
ニャッと妹は笑う。
「神崎さんが負けたらいいのにとか思わない?チャンスだよ」
やめろ、悪魔の囁きは。
「負けたらいいなんて思わない。僕は応援する」
いつも、凛として強い瞳の君が好きだから。
「でも、相手は強いんでしょ?普通に考えたら勝てるわけないよね」
「彼女が負けてもいいんだ。でも僕はずっと応援するよ。だって頑張ってるんだから、誰かが応援してあげなくちゃ」
彼女は美して、賢くて、みんなの人気者で。
僕が応援なんてしなくていいのかもしれない。
僕が頑張れと声を張り上げても、たくさんの人の声の中で小さな小さな声は決して君には届かないかもしれない。
でも、僕はいつも頑張ってる君を見てきたから。
君に僕の声が聞こえなくても、僕は君に頑張れって叫ぶだろう。
「そう。だから、私はハルちゃんが大好き」
「えっ、なに?」
「ハルちゃん、あのね。いいこと教えてあげる。ハルちゃん声は特別なんだよ」
柔らかい髪を揺らしながら、妹は起き上がる。
「どこが?」
「純粋で優しくて、とても綺麗。キラキラしててお星様みたい」
「そんな馬鹿な」
「ほんと、ほんと。私だったら、どこにいてもハルちゃんを見つけられるよ。そんなハルちゃんに応援してもらえる神崎さんは幸せだね」
「僕の声は届かないよ」
「そうかな。ハルちゃんは特別なんだよ」
僕は妹の顔をまじまじと見た。
「あ、アイス食べるか?」
「えっ、もう食べたよ?」
「僕の分もあげるよ。リコもお兄ちゃんにとって特別だから」
今度は妹がまじまじと僕を見た。
「ハルちゃん、大好き」
満面の笑みで妹は僕に笑い掛けた。
試合は、意外にも長丁場になった。
苦戦を強いられ、負けるのは誰が見てもわかっていたがそれでも一歩の引かない彼女の姿があった。
歓声は湧きあがり、どちらの応援の声も響いていた。その熱のこもった会場で僕は声をまだ出せないでいた。あまりの歓声に尻込みしてしまったからだ。
あ、いま足が少し滑った。
危ない。
思わず僕は口を開いた。
「が、頑張れ!!!!!!!!!!!!!」
周りにかき消された僕の声は無音で届くことはなかった。
なかった。
なかったはずなのに。
瞬間、君と目が合った。
澄んだ美しい青い瞳が僕を見たような気がしたんだ。




