グラジオラス
私は選ばれた人間だった。
欲しいものは、みんな持っていた。ないものは、手に入れた。
自分の力で。
それはこれからもかわらない。
私は選ばれた人間だから。
羨望、名声、権力。全ては、私のためにある。
一輪の美しい花を手に取った。その花は剣の形に似ていた。
それを握りしめて、私は廊下を歩く。彼女を探して。
私の準備は整った。
さぁ、あなたに会いにいきましょう。
神崎冬子は、学校の廊下を歩いている曲がり角で祐貴に出会った。体操服を着ていたので、バスケットとやらの練習をしていたのかもしれない。
「祐貴か……」
冬子を見つけて、祐貴は近寄ってきた。
「冬子様」
「また、スケットか?」
「はい、人数が足りておりませんでしたので」
「そうか。クラスメイトとは仲良くやれているのか?」
「そうですね。スポーツを通して、男子生徒とはそこそこ。女子には遠巻きにされてますが、嫌われてはいないはずです」
「そうか。問題は起こすなよ」
「はい」
彼女の歩調に合わせながら、祐貴はついてくる。
冬子は淡々と歩く。
「私は、お前は見目麗しいと思う」
「ありがたきお言葉です」
「だから、女子に嫌われるどころか好かれていると思うのだ」
「はぁ」
祐貴はよくわかならいという表情をした。
「我々は、彼氏彼女という間柄だ。お互いそのほうがよいという判断からだが、無用な嫉妬は受けたくないと思っている」
「はい?」
「離れて歩こうと言っている。こういう姿を快く思わないものに見られたくはない」
「碧ハルですか?」
まだ祐貴は、くっついてくる。
「いや、彼はそんなふうには思わないだろうが……」
「んっ?」
冬子は話の途中で、足を止める。
視界が急に暗くなったからだ。これは人影だろうか?
冬子は顔を上げた。
逆光でよく見えないが、階段の上に誰か立っている。
「あら、仲がよろしいですこと」
斜めにポーズを決めながら、艶やかな黒髪を揺らす少女がいた。
あれは、旭菱楓だったか?
ぼんやりと冬子は思った。
「さぁ、受け取りなさい。海外から取り寄せたものですわ」
何かが投げ落とされた。
ぼんやりと見ていたので、その物体は地面に落ちた。
拾った方がいいのだろうか?
白い指先を伸ばして、それを拾う。
黄色の綺麗な花だった。
「旭さん、これが何か?」
困ったように冬子は尋ねる。
「差し上げますわ。でも、その代わり試合に私が勝ったら祐貴くんを頂いてもよろしくて?」
「えっ、それは……」
鋭い瞳が冬子を射抜く。
「いいえ、返事は結構。私はすべてを手に入れますわ」
再び斜めに美しくポーズを彼女は決めた。
「なぜなら、私は旭稜楓ですもの!!!!!」
立ち尽くしながら、冬子は本当に困ってしまった。




