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悲しい夢





 まだ幼い私は知能テストでハイスコアを叩き出した。


 その真っ白い部屋の中で、私は一人立っていた。

 大人達は私を出迎え、沢山の拍手を送る。



「おめでとう」

「おめでとう」

「素晴らしい」

「おめでとう」


 パチパチと拍手が響き続ける。

 何がおめでたいものか。私は心の中では毒を吐いた。


「有難うございます」

 私は礼儀正しく会釈をした。


 それからはもう地獄のようだった。

 勉学、運動、礼儀作法、ありとあらゆるものを学ばされた。

 嫌とは口には決して出さなかった。

 なぜなら、私の地位は低かったからだ。


 私は皇女ではあったが、妾の子でもあった。それでも、万が一のことが起こるのでは。起こってほしいと願う親族や成り上がりたい家臣の欲望のまま、私は育てられた。

 

 そんな万が一は、ありえない。

 そんなことは、戦争でも起こらなければありえないことだった。




「あら、おねーちゃま」

 長い廊下を歩いていると、可愛らしい鈴の鳴るような声がする。

 振りかえると淡いピンクのドレスを纏った、金髪の美しい少女がいた。

 親戚のレナードだった。

「あら、可哀想なこと。またお勉強なのね」

「ええ、レナードは?」

「私はお茶会よ。だって、私はお勉強は嫌いだもの。政治にも興味ないですわ」

 金髪が揺れて、ふわっと風に舞う。


「本当に、お可哀想。正当な血でなかったばっかりに。ねぇ、あなただって、わかってるでしょ?高い知能も運動神経も礼儀作法も意味ないわ」

 

 自分でも嫌ってくらいわかっていることだ。

 それでも、そうしなければ妾の娘はこの王宮では生きてはいけないのだ。


「そうね、ではレナードごきげんよう。私は、午後の剣術の授業が残っているので」

 冷たい目を彼女に向ける。

「あら、そう」

 すぐに、こちらへの興味は失せ取り巻き達の輪に戻っていく。



 もし、私の知能が低かったら。運動神経が悪かったら。

 周りから期待されなかっただろうか?少し歯車が変わって、王宮などに連れて来られなかったら?今とは違う自分になれていただろうか?


 

 そんなことを思ったのは、もうずいぶんと昔のことだ。







 いい匂いがする。

 何の匂いだろう?




 白いカーテンレースが揺れる。

「おはよう、神崎さん」

 その声はひどく心地よく、とても優しい。


「今日はクラス委員の仕事で遅くなるって言ってたよね?」


 まわりを見ると机の上には、先ほどまとめた資料があった。気が緩んで一瞬寝てしまったようだ。

「碧ハル?碧くん。なぜここに?」

「もしかしたら、まだ教室にいるかなって思って。僕、昨日カレーライスを作ったんだけど」

「カレーライス?」

「そう、めったに作らないから。神崎さんにも食べて欲しいなって、お弁当に詰めてきたんだけど渡すタイミング?クラスだと声かけづらくて、もしよかったら食べて欲しいな」

「お腹は、空いている……」

「よかった」

 ほっとしたようにハルは鞄から、弁当を取り出した。


「でも、神崎さんが居眠りなんてめずらしいね。夢とか見てた?」

「ええ」

「どんな、夢?」

「さぁ、よく覚えてない」


 たぶん、悲しい夢だろう。


「おっ、美味しい」

「でしょ」

 冬子はカレーを食べながら、微笑んだ。

「碧くんはいい匂いがする」

「えっ、カレーの匂いかな?」

 ハルは恥ずかしそうに、制服のくんくんと嗅いだ。




 それを見て、冬子はもう一度ふふっと笑った。







 


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