昔語り
生き物係は今日はお休み。
祐貴は、やぼ用。
神室は、スレイブ研究。
神崎冬子は、相馬と二人で下校する。
「二人きりと言うのも、珍しいな」
「はい、そうですね」
学校では、沢山の取り巻きがいる冬子も外に出ればついて来るのは彼らだけである。
まぁ、寮までついてくるような馬鹿者はいないのだが……。
「冬子様、そういえばフェンシングのルールはご存知ですか?」
ふと相馬が話掛けてくる。
「あまり詳しくはない。体育の授業もないしな」
「そうですね。学問に特化した学校ですから。なんでも昔と比べて簡易化したみたいですよ」
「そうなのか?」
冬子は首を傾げ、相馬が淡々と話す。
「はい。電子化技術を施したステージの上で、剣術で相手に攻撃を入れるだけのようです。体に剣先が当たったというのは、ステージの空間で自動でカウントされます。三十分の制限時間の中で相手の体に攻撃を入れた数が多い方が勝者です。もしくは、相手の敗北宣言、再起不能を持って終了します。細かいルールもありますが、簡単に説明致しました」
「そうか。あの、旭という者は強いのか?」
「はい、世界大会の経験もあるそうですよ」
「うまく負けるのが難しそうだ」
「勝ってしまってもかまいませんよ」
真顔で相馬は言う。
それを聞いて、冬子はふふっと笑う。
「冗談」
相馬は冬子に僅かに微笑を浮かべた。
「いえ、私は冬子様が勝ちたいと思ったのならばそのようにしていいかと思いますが」
「やめてくれ」
冬子は、足を進める。
「王宮剣術がなまりましたか?」
「そうだ。それにもう、負け癖が付いてしまっている」
相馬は冬子についていく。
「そうですか」
「ですが冬子様にはお力があるのですから、勝ちたいと思ってもいいのではないでしょうか?」
「負けるための試合だぞ」
美しい顔を少しばかり歪ませて、冬子は困る。
「そうでしたね。出すぎた真似をいたしました」
「いや、構わない。私にズケズケと物を言うのはお前くらいだからな」
冬子は髪をふわりと風に揺らしながら、相馬を振り返る。
「いつも私の傍にいてくれて感謝している」
「当然のことです」
誇らしげに相馬は答える。
「お前とは長い付き合いだな。年はいくつだったか?」
「はい。今年で二百歳でございます。冬子様のことは母上様に生まれるまえから頼むと任されておりましたので、いつまでもお傍におります」
相馬はキリッと答える。
「それは、頼もしい。ほんとうにな」
この星に来てから、わからないことだらけだった。
冷静を取り繕っていても、彼女がいなければここまで統率は効かなかったであろう。彼女が隣にいたからこそ、私は堂々としていられたのだ。彼女には感謝しかない。
相馬ジュリは、私達の中では最年長。
私と神室が同い年であり、祐貴はまだ年若い。
冬子はまた笑いが込み上げてきた。
あの頃の、苦労も今思えば懐かしい。
「ふふっ」
「どうかなさいましたか?」
「なんでもない。この生活も慣れたなものだなと感じただけだ」
青い瞳はこの街を映す。
この穏やかな時間を冬子はとても愛おしいく思い始めていた。




