The微妙スキル
静まりかえった放課後の資料室。
二人は集まっていた。
神室は、空中に指でスラスラと四角を描く。
「スレイブ!」
正面に薄いブルーの画面が現れる。
椅子に座っていた相馬が立ち上がった。パチパチと小さな拍手をしながら。
「完成だな。冬子様もお喜びになる」
「ああ、これで安心して三学期や進級を迎えられる。それにこれから、精度を磨いていく」
「たいした技術ではないように見えるが?使い物になるのか」
「いずれそうなる。そう見えるのは、俺達の体に適正がないからだ。しかし、地球に来てから我々の体内のナノマシンも進化してスレイブも使えるようになってきた。もしかしたら、これから応用できるかもしれないぞ。それに俺達にはすでにスキルないだろう?代わりにこれを物にしたい」
その言葉に相馬ジュリは、目を伏せた。
「スキルは、惜しいことをしたと思う。だが、あの時は冬子様の命を優先させた。まぁ、でも。私はあと一つなら残っているがな」
「相馬はそうでも、俺には一つも残ってない。もしもの時に備えて、身を守る手段が欲しい。このスレイブはこの星では最高の技術なんだ……」
神室は悔しそうに唇をかんだ。
ババーン!!!!!!
なんの予兆もなく扉が開く。
「遅かったな、祐希」
「あ、ああ。まぁな」
「その後ろに隠してるものはなんだ」
素早く、神室はそれを取り上げる。
「にゃーる???」
それは、にゃーると呼ばれる猫の人気の高いおやつだった。
「なぁ、祐希。薄々気が付いていたんだが……。お前、碧ハルに猫の餌届けてるのばれてるよな?」
「い、いや。そんなことは……」
「じゃあ、なんだこれは。碧ハルが猫の菓子でもよこせと言ったじゃないのか?」
「馬鹿言え。あいつは、ちょっといい奴だ。俺のことも黙ってくれている」
「バレてんじゃねぇか」
胸倉を掴んで、祐希を揺さぶる。
「まぁ、待て。俺のスキルは知ってるだろ、神室」
そして、祐希は語り始める。
それは、数日前のこと。
蒼ハルの家に猫の餌を持って行ったときのことだ。
「有難う、かなちゃん。お茶でも飲んできなよ」
「うわっ、また来たの?祐希くん」
そう言われながら、俺は家にお邪魔してさっそくソファーに座っていた。兄妹は、俺に出す茶菓子の相談をしながらキッチンに消えていった。
テレビを見ていると、オリオンが俺の足元にやって来た。
俺を見て、なにやら言いたげな様子だった。
「いや、ちょっとまてぃ!!!!!!!!!」
「なんだよ」
「いや、いや、いや。なんでお前は家に上がってるんだ?」
青筋を立てながら、神室が言う。
「はは、お茶の誘いがあったからだろ?」
「違うそうじゃない」
そして、再び祐希は語り始める。
猫の言葉などわからない。だが、オリオンは俺に何かを伝えようとしているのはわかる。
まぁ、俺に不可能はないがな。
「スキル。ヒーリング発動!」
オリオンに力が作用した。
『ゆうきくん、いつもごはんありがとう』
「ああ、かまわん。それより、なにか用か?」
『うん。あのね、このテレビでやってるやつ。にゃーるがたべてみたいんだ』
「そうなのか?」
『でも、ハルちゃんとりこちゃんにはよくしてもらってるからわがままいいたくないんだよ。でも、たべたい。ゆうきくんおやつもほしいよ。にゃーる食べたい』
「そうか、わかった。俺にまかせろ」
『ゆうきくん。ありがとう』
オリオンは尻尾をパタパタ振った。
「と、いうことだ」
「何がだよ?」
神室が、胸倉を掴む。
「ちなみに、俺のスキルは一度使うと半年は使用不可だ」
「お前のは、スキルじゃない。微妙スキルだ。お前こそ、そのスキル奪われたらよかったのにな。マジで」
「まぁ、そう怒るな。敵もそんな微妙スキルいらんだろう」
相馬が仲裁に入る。
「ところで、祐希。冬子様と仲直りできたのか?」
「ああ、いつの間にかな」
「そうか、それはよかった」
「よくないだろ!碧ハルにバレてるじゃないか、冬子様だって怒っ……」
ハッと神室は扉の方を見る。
そこには、神崎冬子が静かに立っていた。
「冬子様!!!」
「話は聞かせてもらった、祐希。では、私の指示がすでにばれているということだな。ということは。碧くんはもう私のことを許しているようだし、私が届けようと思うのだが猫の餌を」
「えっ?冬子様がですが?」
神室が狼狽する横で、祐希が言い返す。
「い、嫌です」
「なぜだ」
「俺の仕事です」
「それはもういい。お前ばかり家に行ってずるいではないか」
「冬子様、本音が」
相馬がなだめる。
「でも、冬子様。碧ハルはもう怒ってないけど」
「けど、なんだ」
「オリオンは怒ってましたよ」
ガガガガガッガーン!!!!!!!!!
その瞬間、冬子に雷鳴が響き彼女は膝を折った。
「冬子様、お気を確かに」
「じゃ、俺はにゃーるを届けにいきます」
「えっ、は?ちょっとまてぃ、祐希!!!!」
神室の制止も虚しく、祐希の姿はあっという間に見えなくなった。




