幸せの宝石箱
そこには、日常とは切り離された空間が広がっていた。
切り絵のように美しい世界。
完璧な空調管理が施され、見たこともない花々が咲き乱れる。まるで夢のような世界。そんな庭園を二人は歩く。
りこは祐希の手を軽く払った。
「かなちゃん」
「あっ、ごめんね」
ハルちゃんと離れてしまった。こんなことはひさしぶりだ。学校以外、ほとんどの時間と休日を過ごしてきた。だから変な気持ちだ。別にひとりで何もできないわけじゃない。だから、私は大丈夫。植物園の中だ。そのうち合流するだろう。りこは心の中で思った。
「りこちゃん、あの売店でアイスクリームを買ってあげるよ」
神妙な顔をしている私に祐希くんは気を遣って声をかける。
「いらない。甘いものは食べるけど、そんなに好きじゃないの」
私としたことが、なんとも微妙な空気を作ってしまった。それに、ハルちゃんがいないと上手く笑顔が作れないや。
「でも、有り難う。ごめんね」
「そう?」
祐希くんは、無理強いはしてこなかった。
「でも、かなちゃん。彼女とまわった方がよかったんじゃないの?」
「冬子はすぐ怒るから怖い」
「そう?」
「でも、嫌いという意味じゃない。凄く尊敬はしてる。この命差し出してもいいくらいだ」
いや、それはどういう関係なの?
二人は、ただ無言で花を見て歩く。いつもの街の風景とは大違いだ。とても綺麗だ。しばらく進むとベンチを見つけた。
「休もうか」
「そうだね」
りこはベンチに腰を下ろしながら尋ねる。
「神崎さんの彼氏なんでしょ?」
「そうだよ。でもそうじゃない」
「どういうこと?」
「俺の使命は、冬子を守ることだ」
本当にわからない。
「それなら、一緒にいた方がいいんじゃないの?」
「心配するな。冬子は強い」
「りこちゃんこそ、なぜ碧ハルと一緒にいるんだ?」
「えっ?妹だからだよ」
かなちゃんは、不思議そうな顔をした。
「それは、どういうことだ?遺伝子が似てるってことか?だから一緒に暮らすのか?」
なんか、祐希くんて変な人。そういえば、ハルちゃんも神崎さんはかわってるって言っていたような気がするな。
「そうだよ。でも私もハルちゃんを守るために一緒にいるの。私は子供だけど。いつかハルちゃんを守るんだ。だから、一緒にいるんだよ」
「どうして?」
「どうしてって」
そうだな。
どうしてかな?
いや、そんなことはわかってる。
「ハルちゃんは、私の命を助けてくれたから」
あの日、ハルちゃんに貰った命。だから、全部ハルちゃんのだ。
りこはしまったと口を塞ぐ。
でも、かえってきたのは意外な言葉だった。
「そうか、俺も……。冬子様は、俺の命の恩人だ。だから、俺は冬子様を守ることにしたんだ」
「様?」
しまったと言うような顔で、祐希くんは言い直した。
「冬子だ。彼氏なんだぞ。様なんてつけてないさ」
「そうだよね……」
なんだ聞き違いか。
なんとなく、しばらく花を眺めていた。二人でほんやりと。
夢のように美しい景色だった。
ああ、こんな綺麗な花が見れる。
こんな優しい匂いがする。
ぜんぶ、ハルちゃんに会えたからだ。
りこは自分の幸せを強く噛み締める。
この幸せを宝石箱につめて全部閉まってしまいたかった。




