チケットの行方
僕は玄関のドアを開けた。
ガチャ。
そして、閉める。
「お帰り下さいませ」
玄関のドアを閉め……。閉められない。
ギギギギギッ。
ほんと、神崎さんも祐希くんも力強いな。
「ちょっと、待て。植物園のチケットを用意したんだ」
「よかったね。なら早く神崎さんに渡せば」
「渡せるわけないだろ。冬子は怒ってるんだ。だからお前が渡してくれ」
「そこまで面倒みきれないから」
ギギギギギッ。
「待て、待て。りこちゃんの分もある」
「えっ」
ハルは動きを止める。
「それって、くれるの?」
「ああ」
ドアの隙間から、祐貴くんはチケットを差し出した。
それを見て、僕は玄関を開けた。
僕にはとても、手の届かないものだったから。
妹を連れてってあげたい。
情けなくも、手を伸ばしかけた。
その時、背後から声がする。
「あっ、かなちゃんだ。入りなよ」
「妹よ。だから甘やかしたら……」
「お邪魔します」
「あっ、おい」
またやってしまった。
用意されたコーヒーを祐希くんは、美味しそうに飲む。
「これ、りこちゃんのチケット」
「えっ?」
妹は渡されたチケットを不思議そうに眺める。
「行きたいって言ったろ?」
爽やかキラキラフェイスで祐希は微笑む。
「いらない」
「えっ?」
「だって、一枚だけでしょ?ハルちゃんと一緒じゃないと行かない。だから返す」
爽やかキラキラフェイスが歪んでいく。
「なんで?」
「なんで?って。ハルちゃんと一緒じゃないから楽しくない」
祐希くんはキッと僕を見る。
今のは僕のせいではないぞ。
「じゃあ、もう一枚用意する」
「いらないよ。ハルちゃんには私から神崎さんに渡してあげてってお願いするから。だから、これ返すよ」
「と、ゆうことだ。妹の頼みだしかたない。そのチケット預かるよ。僕から神崎さんに渡しとく。さすがにこれで仲直りできるだろう?」
祐希くんは納得いくような?いかないような顔で帰って行った。
「ハルちゃん、かなちゃんって変わってるね」
「そうだな。まぁ、エリートってそんなものなんだろう」
まぁ、これで祐希くんが家を訪ねてくることも減るだろう。
「ハルちゃんもお人よしだね」
「そうだな」
「りこもチケットよかったのか?」
「うん、私はいいの」
そこだけは、ちょっと惜しいような気もした。
政府の管理する植物園には、綺麗な色とりどりの花があるのだ。
一般人には縁のない場所だ。
僕はりこに、花や蝶々を見せてあげたかった。
寒くて冷たい季節。
霧の災害。
貧富の差。
そんなものばかり見て大人になって欲しくなかった。
いつもの放課後、僕と神崎さんはチューリップの様子を観察していた。
よし。ハルは深呼吸する。
「あっ、のさ」
緊張する。
「どうしたの?」
僕は封筒に入ったチケットを差し出した。
「知り合いに貰ったんだ。植物園のチケット。二枚あるから、彼氏と行ってきたらどうかなって?」
「どうして蒼くんがそんなことを?」
神崎さんは不思議そうな顔をした。
「いや、なんか。喧嘩してるとか噂で聞いたんだよね。仲直りのきっかけになればいいと思って」
ちょっと、苦しい言い訳だな。
でもこれで行くしかない。
「いらない」
ええええええええええええええ。
「いや、なんで?なの?」
「別に植物園に興味ないから。祐希と行くのも面倒よ」
いやいやいや。
君たち本当に付き合ってるの?
「いや、でも。せっかくだし。なかなか植物園なんていけないよ。僕が行きたいくらいだから」
僕は食い下がる。
「そうなの?」
「そうだよ」
神崎さんはそう言って、僕からチケットを受け取った。
「えっ?」
そして、僕にもう一度返す。
「じゃあ、碧くんがいけばいい。二枚あるし、そうだ妹さんと行けばいいのではないか?」
有難う!!!!嬉しい。
でも、そうじゃないんだ。
「いや、僕は神崎さんに行ってほしくて」
神崎さんは、その美しい瞳で僕を見る。
「碧くんは、私に行ってほしいのか?」
「うん」
「では、ジュリに用意させるわ。私と碧くんと妹さんで行けばいいでしょ」
「ん??????」
違う。そうじゃない。
「じゃなくて、僕は祐希くんと行って欲しいんだ」
「そうなの?」
うっとおしそうに、神崎さんが答える。
君たち本当に付き合ってるの?
「では、ジュリに祐希も分も用意させる」
「あっ、うん???」
なんかこれじゃない。
「じゃあ、いつ行こうかしら。そうね、次の日曜にしましょう」
「僕はいいけど。でも、祐希くんの予定は?都合悪いんじゃないかな?」
「そんなことは知ったことじゃないわ。じゃあ、日曜で決定ね」
あれれれれれ????




