攻防戦
新聞、宗教の勧誘、セールスなどなど。
僕は断固として断ることにしている。
そして、それは今日もやって来た。
僕は玄関のドアの向こうの人物像を確認して、光の速さでドアを閉める。
「間に合って……」
あと一歩というところで、阻まれる。
僕は玄関のドアを閉め……。られずにいた。
「だから、毎日毎日なんなのさ」
静かな攻防戦が幕を開けた。
「だから、間に合ってるって」
ギギギッと閉める力と開けようとする力で変な音が出ている。
「だから、俺は新聞でも勧誘でもキャッチセールスでもないだろうが」
相手も必死だ。
「すいません。キャットフードも間に合ってるんです」
「残念だったな。今日はキャッフードではない」
イケメンが、キラリと笑顔を作る。
「じゃあ、何の用なの?」
ハルはイライラしながら聞き返す。
「いや、用ってほどじゃないんだが。たまたま通りかったのでな」
「いや、マジでお帰り下さい」
「ハルちゃん、意地悪しないで入れてあげれば?」
「ニャッ」
撃退に手間取っていると妹とオリオンが覗きにきた。妹とオリオンはこいつに甘かった。なんせ大事な金、いや餌鶴だから。
「はいはい、わかったよ。僕の負けだよ」
仕方なくドアを開ける。すぐさま祐希くんは中に入ってくる。
「お邪魔します」
本当に邪魔ですが。爽やかな笑顔で祐希要は、微笑を浮かべる。
「かなちゃん、お茶入れるから。手を洗ってきてね」
妹に頷くと、祐希くんは奥へと消えて行った。
「我が妹よ……。甘やかしたら駄目だぞ」
「はいはい。でもオリオンのおやつも持って来てくれるし。お茶ぐらいはね?経済的に助かってるし」
可愛い妹は、クリッとした瞳で僕を見る。
「いや、そうだけどね。あれは、神崎さんの彼氏なんだよ。なんで、頻繁に訪ねてくるの?気まずいよ」
「さぁ?暇なんじゃないの」
「いや、だから何で?」
「んっ~、じゃあ。ハルちゃんに何か話があるんじゃないかな」
「えっ、ないよ。ないない」
ハルはブンブンと首をふる。
「そうかなぁ?たとえば、神崎さんと喧嘩とかして……」
ドキッ。
「クラスメイトのハルちゃんになんとかして欲しくて来てるとか」
「ううっ、なんかありえるな。それは……」
僕は憂鬱になった。
「僕、まだ失恋が癒えてないんだけど?」
「告白もしてないのに?大人になりなよ、ハルちゃん。あんな、顔面美形男に勝てるわけないんだからね」
「ごめんね。ふつうの顔で」
「そんなハルちゃんの顔が、私は好きだよ」
りこはフフッと笑う。
それは、けなしてるのか誉めているのか?
妹は、綺麗な色の紅茶を入れてくれた。
それを祐希くんは、嬉しそうに飲んでいる。
「で?」
「で?ってなんだ」
「何しにうちに?もしや、神崎さんの喧嘩とかしてないよね?」
「べ、べつに喧嘩なんかしてないやい」
ツンデレか?
「ただ、ちょっと怒ってはいるがな」
それは、喧嘩ですよ。
「仲直りしたら?」
「ど、どうやればいいんだ」
「謝ったり?とか?」
「もう、それはやった」
妙な間があく。
「あっ、そう」
恋愛初心者の僕には無理だわ。
りこがパウンドケーキを持って、キッチンから出てきた。
「じゃあ、お詫びにデートに誘ったら?素敵なデートをして、美味しいものでも食べれば機嫌もなおるよ」
ナイス。
さすが、僕の妹だ。乙女心をわかってる。
「そうなのか?」
「女の子ってそういうものなの」
祐希くんは何かを思案している。
「そうか、そうすることにする。どこにデートに行ったらいい思う?」
妹はソファーに座りながら。
「そうだな。お洒落なカフェとか、映画館とか、美術館、植物園なんてのもいいかもね」
それはいい。僕も、神崎さんと行ってみたい。なんてね。
「りこちゃんならどこがいい?」
「私?私だったら、植物園とか行ってみたいな。お弁当とか、持って」
でも、こんな時代だ。
映画館も美術館も植物園もエリート達のもので、僕達には手が届かなった。
お金持ちの祐希くんはなんとも思わないだろうけど。
ハルは小さくため息をついた。




