あさひりょうか
私は、美しい。
気高く、賢く、美しい選ばれた人間。
尊敬され、誰からも愛される。何もかもが、自分の思い通りだった。
そう。
あの女が現れるまでは。
早朝の清潔な空気と共に彼女は学校に足を踏み入れる。
艶やかな黒髪をなびかせ、凛とした緑の瞳の美少女。
やまとなでしこを絵に描いたような、雰囲気を纏わせてながらも騎士のように強い自信にあふれた足取りだった。
その後ろには、護衛のように取り巻きが控える。
「神崎冬子?誰ですの?」
「はい、二年Cクラスの生徒です。クイーンと皆に囁かれております」
「クイーンですって?」
「はい、勉学も運動も大変優秀で人望もあるそうです」
「でも、それが私に何か関係あるの?」
彼女は眉を吊り上げた。
「一年の頃は物静かな優等生くらいだったのですが、だんだんと勢力をましております。取り巻きの数も増えて……。杞憂とは思いますが。次期生徒会長との声も。少々厄介です」
「馬鹿を言いなさいな」
立ち止まり、美しい髪をたなびかせ振り返る。
「旭稜楓以外にクイーンはなんてものはありえなくてよ。覚えておきなさい」
「も、申し訳ないありません」
取り巻き達は萎縮する。
なんて腹立たしいかしら。
神崎冬子。
最近、この名をよく聞くのだ。
神崎、神崎、神崎、神崎、神崎と。
旭家は、日本で五本の指に入る財閥だ。私はその家の長女として生まれて、それにふさわしく生きてきた。この名門校でもその名を馳せるつもりだ。なのに、皆に口々にその女のことを誉め称える。
ああ、本当に目障りだ。
同じ学年なので、顔くらいは知っている。
薄い水色の長い髪。深い青い瞳。白い肌の綺麗な女ではあった。
どこか人形を思わせるような雰囲気の弱そうな女だった。帝王学も学んだことのない女であろうに。生意気な。
いつか思い知らせてあげるわクイーンと呼ばれるに相応しいのは私だとね。
ポッと緑の小さな芽が生えた。
「わぁ」
僕は感嘆な声を上げる。
「すごいや、神崎さん。花の芽が出たよ」
「すごいの?」
不思議そうに、神崎さんは僕を見た。
「そうだよ。たいていは枯れてしまうんだ。空気汚染が酷いからね。きっと、花を咲かすまでには枯れてしまうけど」
「前に画像で見たチューリップというのは見れないの?」
「うん。あれは、まだ土壌汚染される頃の映像なんだよ。でも、国立科学植物園や政府管轄の庭園なんかでは花が見れるよ。数は少ないけど。僕も本物はまだ見たことないんだ」
「そう、残念だな」
「僕も神崎さんにチューリップを見せてあげたかったよ」
神崎さは僕の目を覗き込む。
「碧くん」
「んっ?」
「聞いてみたかったのだけど、私のこの喋り方は変かしら?時々、あなたといると以前の自分のように横柄な喋り方になってしまうの。気になるなら、統一するわ」
たまにちょっとツンな話し方をすることかな?
「なんか、王様みたいで威厳があるね」
そういえば、神崎さんのあだ名はクイーンだったな。なんて思い出す。
「僕はどっちも神崎さんでもいいと思うよ。君は君なんだから」
「そうか」
神崎さんは、静かに呟いた。
「では、このままで」
「うん」
僕も静かに答えた。




