命の重さ
神崎冬子には関わらない。
その彼氏こと。祐希要にも関わらない。
僕がここ最近、神に誓ったことだった。
僕は目を疑った。
二度見する。
いや、三見した。
玄関の前に、背の高い美少年が立っていた。
茶色いサラサラの髪。クールビューティな彼は、颯爽と立っていた。仕事終えた後のようにやり遂げた感をだして。
「えっ?」
見間違えるはずもない。
神埼さんの彼氏だった。
そして僕は見てしまった。玄関前に彼が、キャットフードを華麗に置く姿を。
お前かよ!!!!!!!!!
見間違いであってくれ!!!!!!!!
ヤバい。
帰ってしまう。ハルは咄嗟に声を掛ける。
「あっ、あの。君、祐希くんだよね。何をしているの?ですかね?」
とりえず、くんをつけてみる。
「キャットフードを置いているんだ。見てわからないのか」
残念、見間違いじゃなかった!!!!!!!!!
クソッ!!
「あっ、お前は!碧ハルじゃないか!!!なんで此処にいるんだよ」
今頃、それ気付いたのか????
「僕の家の前なんだけど」
「なんだと!お前の家の前だと」
祐貴は、自分で置いたキャットフードを見る。
それは、僕の台詞ですが。
「お前、キャットフード食べるのか???」
「僕は猫か!」
「じゃあ、なんでキャットフードを?」
僕が知るか!!!!!!
ハルは心の中で叫ぶ。
「あっ、祐希くん。悪いんだけど、それ持って帰ってくれるかな?」
「なんでだ?」
「なんでって……」
神崎さんの彼氏からの施しなんて貰えない。
とにかくなんか嫌!!!!
「とにかく、これ持って帰って。受け取れないよ」
僕は、キャットフードを抱え上げ祐希くんに押し返した。
「いや、それは困る」
僕の方が困るんだけど。
「とにかく、これ持って帰ってよ!」
祐希くんの胸に、それを押し付けて僕は家に入り玄関のドアを閉める。
「はぁ、なんなんだよ。もう」
まったく意味が分からないよ。
なんで、神崎さんの彼氏が猫の餌を???
神崎さんが頼んだの???
しばらくして、携帯が鳴った。
「りこ?」
携帯に電話をする。
「あっ、ハルちゃん。小学校の行事で遅くなっちゃた。もうすぐ着くよ。晩御飯レーションでいいよね?」
妹の可愛い声が聞こえる。
「うんうん。気を付けて帰ってくるんだぞ」
妹からの電話を切って、ハルは、恐る恐る玄関をそっと開けてみる。
キャットフードと彼の姿は消えていた。
よかった。
そして、妹が帰ってきた。
ちょっと濡れていた。
「おかえり、りこ。雨か?」
「うん。キリギリセーフ」
ニコッと妹が笑う。
オリオンも嬉しそうに短く鳴いた。
いつも通りの団らんが始まる。
「ねぇ、ハルちゃん。結局、犯人わかったの?」
温めたレーションを食べながら、妹が聞く。
「わかった。神崎さんの彼氏だった」
「へぇ。なんで?」
「なんでかわからないよ?」
「神崎さんが頼んだのかな?」
「そうだとしても、なぜ彼氏に持ってこさせる?」
「重いから?さぁ?でも、まっいっか」
「そうだな。僕は妹とオリオンがいれば幸せだよ」
「おおげさだな、ハルちゃんは」
嬉しそうに妹は笑う。
「でもそういえば、帰ってくるとき。マンションの前で雨に降られながらキャットフードを抱えた学生さんが立ってたよ。なんか、ハルちゃんちの学校の制服に似てたな。あと人が彼氏だったりしてね」
「まっさかぁ、ははははは」
「だよね~」
僕は、スープをこぼしそうになった。
「ちなみに。まだ立ってたりするかな?」
「どうかな?霧の出てきてたし、雨も凄いし、もういないんじゃない?」
「そうだね、はは」
「変なこと聞くね、ハルちゃん」
「そ、そう?ところで、りこ?コンビニでデザート欲しくないか?」
「こんな雨の日に?いいよ」
僕は妹の言葉を遮る。
「僕は妹のためにスイーツが買いに行きたいんだ!!!!行かせてくれ。止めてくれるな!!!!!!」
「ハルちゃん。どこ行くの!!!ハルちゃ~ん!!!カムバック!!!!」
僕は家を飛び出した。
お願いです。そこに立っていないでくれと思いながら、外を走る。
激しい雨の中、見つけてしまった。
水も滴る美少年だった。
あああああああ!!!!!!
なんで、僕見つけちゃんうんだよ!!!!!!!
仕方なく近づき、僕は話しかける。
そして、傘を差し出す。
「なんで、まだいるの?」
「キャットフードを届けるのが使命だ」
「神崎さんに頼まれたの?」
「そんなことは言えない」
「わかった。とにかく、風邪ひくよ。これ、傘。祐希くん?」
「俺はお前に、このキャットフードを受け取るまで帰らない!!!!!」
いや、なんでよ?
そして、祐希くんは僕に真剣な眼差しを向ける。
「このキャットフードは、俺の命より重いんだ!!!!!」
「いや、なんでだよ!!!!!!!」
その後、僕はビショビショのキャットフードを抱えながら、家に帰ることとなる。




