プリンス登場
タンッ。
タタタン。
トン。
ダンッ。
軽やかな音。
ステップが体育館に響く。
細身ながら、しっかりとした筋肉がついた体。すらりと伸びた身長。整った顔。茶色い髪の少年は、意図もたやすくダンクと決める。
瞬間、周りから黄色い声援が巻き起こる。
爽やかな汗と流し目をこちらに向ける。着地と共に、再び歓声が巻き起こる。
そのゴールで試合が終わった。
それから、黒髪の少年に気付いたのか彼はタオルをひっかけながら体育館を後にした。
人気のない校舎裏にで来ると、二人はどちらからともなく会話が始まる。
「神室、久しぶりだな。何か用か?」
「ああ、冬子様からの伝言だ。たまには、顔を出せよ。祐希」
祐希と呼ばれた少年は、不服そうだ。
「冬子にはいつも会ってるだろ?それに最近は冬子は帰りが遅いか、先に帰れとばっかりだ。俺だって、ちょっとは遊びたい」
そう言って、抗議する。
「いいか?冬子様の言うことは絶対だ。それと自分の使命を忘れるなよ、祐希」
「それより、なんで冬子は遅いんだよ?」
「それはクラス委員をやっていたりだな。あと、生き物係というものもやっているそうだ」
「なんだよ、それ。クラス委員はわかるけど。生き物係なんて、冬子がやる意味あんのかよ?」
「冬子様がお決めになったことだ」
「へぇ。それって、一人で?」
「いや、クラスメイトと二人でだ」
祐希は顔を顰めた。
「男?」
「どっちでもいいだろ?」
「男だな」
そう言って祐希は睨む。
「いいか、冬子様がお決めになったことだ。くれぐれも口を出すなよ」
神室は釘を刺した。
「そいつの名前は?」
「碧ハルだ。くれぐれも……」
念押し途中で、祐希は軽ハイハイと返事を背を向ける。
「なぁ、神室。俺は、この学校では冬子の彼氏ってことなんで」
「おい。くれぐれもちょっかい出すなよ」
誰もいなくなった、校舎裏で神室は呟いた。
「だから、子供は嫌いなんだよ……」
僕は、うかれていた。
嬉しい事があったからだ。
彼女が猫を水路に落とした理由はわからない。でも、猫の心配をしていた。やっぱり優しい人なんだ。
なんとなく、嬉しくなったのんだ。
「ちな、ナンバーワンって誰か知ってるか?」
「んっ?」
聞いてなかった。
ハルは顔をあげる。
「あっ、ごめん何だっけ?」
僕は遠坂と昼食中だった。
「だから、男の人気は神崎冬子だろ。女性の人気ナンバーワンは誰だと思う?」
弁当を食べる僕の手が止まる。
「誰?」
「俺」
「殴るよ」
「まぁ、冗談はおいといて。神室って奴もモテるらしいけど。一番は、祐希要だろ」
「祐希?」
誰だ。
顔が思い当たらない。
「スポーツ万能、成績優秀、容姿端麗のクールなイケメンだよ。まったく世の中、不公平だぜ」
「へぇ」
「まぁ、神崎に釣り合うのはあいつくらいだが」
「えっ?」
不思議そうに、遠坂の顔を見た。
「あいつ、神崎冬子の彼氏なんだよ」
僕は箸から米を落とした。
神崎さんに彼氏?
彼氏?
それって、あれ。
英語で言うと、ボーイフレンドだ。
えっ?
本当に?????
いや、米。
動揺しながら、米を拾おうと考えていると耳に雑音がした。
悲鳴のうな黄色い歓声だ。
昼休み中の教室のドアを開けて、男が入っていた。
とんでもない美形だ。
「おい、碧ハルって奴いるか?」
彼は背が高く、綺麗な茶色の髪に、意思の強そうな瞳だった。少女漫画によく出る王子様みたいに、めちゃめちゃかっこよかった。
僕は彼のあまりの美男子に動揺して、箸すらも落としてしまった。