表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/121

嵐のまえの静けさ



 次の日も彼女は来た。



 そして、その次の日も来た。

 その次の日も、次の次の日も来た。



 彼女は、ただ静かに僕の作業を見ていた。毎日、僅かながら僕達は言葉を重ねる。彼女は重い口を開いてたずねる。


 本当はそれが聞きたかったのかもしれない。





「碧くん」

「どうしたの?」

 神崎さんは僕の眼を見ないで聞いた。


「あの猫は、どうなった?」

 でも、僕は神崎さんを見た。


「オリオンなら僕が飼ってるよ」

「君が?」

「うん、名前を付けたんだ。オリオンて名前だよ」

「そう……。なの」

 表情を少し歪める。


「ご両親がいないそうじゃない?生活は大丈夫なの?」

「知ってるの?」


「担任から聞いたわ」

 神崎さんは言葉を濁す。


「大丈夫だよ。そんなに贅沢な暮らししてるわけじゃないし、学校も奨学金で通ってるからね。猫一匹くらいなんとかなるよ」

「なら、いいのだけど………。そういえば、スレイブ使ってたわね」

 彼女は話題を変えた。


「うん。僕は人より努力しないとね」

「あれは、三年生の範囲だわ」

「とはいえ、まだ画像を反映できる程度だよ。絶対に僕は落第出来ないからね。予習してるんだ」

 落第でもしようものなら奨学金もただの借金になって、妹にも苦労させてしまう。だから、僕は優秀な成績でこの学校を卒業しなければ。

 成績は普通だけど。

 まだのびしろもあるはず。と、思いたい。





 神崎冬子が校門に行くと、親衛隊が待っていた。


「お待ちしておりました、冬子様」

 お辞儀をして、それからジュリは手を伸ばす。

 冬子は鞄を渡した。


「ジュリ、頼みたいことがある」

「はい、なんなりと」


「猫という物についてなのだが、餌、日用品、病気など、生涯どれくらいの出費になるか、すべて調べて欲しい」

「明日にでも資料をまとめておきます」

「頼んだぞ」

 そして、冬子は後ろに控える男にも声を掛ける。


「神室、スレイブの件はどうなっている?」

 眼鏡をかけた、黒髪の美少年が顔を向ける。


「はい、順調に」

「あれは、三年の課題だと聞いていたのだが……。クラスメイトの碧くん、あと頭角を現してきた他の連中もチラホラ使い始めている。スレイブ、統合思念体だというが、私達が使えないとなると目立つので避けたい。地球人は適正によってそれが使えるらしい。形だけでいい。使えるようにしろ。ここに来て数年、我々の体内のナノマシンもこの環境に馴染んできたはずだ」


「かしこまりました」

 深々と神室は、頭を下げる。


 そして、冬子はふと気が付いた。


「あいつはどうした?」

「祐希ですか?なんでも、バスケットの試合に応援に呼ばれたみたいです」

「人気者だな。だが、戯れがすぎる。たまにはこちらに顔を出せと言っておけ」

 やれやれと冬子は肩を落とした。


「冬子様、ですが顔なら毎日合わせているのでは?」

「顔は合わせてるが、公衆の面前では込み入った話は出来ない」

 それを聞いて、神室は納得する。


「わかりました。では、俺から」

「頼むぞ」

「ですが、少しあいつが羨ましいですね」

「そうか?」


「あいつは感受性が高く、一番この生活に馴染んでるような気がしますね」

 それには冬子も納得した。


 だが、そこまで馴染めとは言っていない。




 彼等と私達は体内の構造が違うのだから。地球人の振りは出来ても、地球人にはなることは出来ないのだから。それなりの距離は取るべきだ。





 冬子は溜息を吐き、肩を落とした。

 あいつは、本当に手がかかるのだ。






 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ