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余計なお世話




 

 神崎冬子には関わらない。



 

 教室で顔を合わすも、僕は視線を反らす。そして、静かに自分の席に座る。

 彼女も目を合わようとはしなかった。

 これでいい。

 これは、普通のことだ。僕が彼女と挨拶を交わさないことなんて、この教室では些細なこと。


 声を掛けて貰っていたのが幸運だっただけなのだ。







 僕の悲しい背中なんかお構い無しで、無神経なクラスメイトが挨拶してくる。

「はよ。なんだお前、ついに振られたのか」

「おはよう。そうだよ」


 仲間が出来たと思ったのか、何故か遠坂は積極的に話しかけてくる。

 そして、いつの間にやら昼休みになった。


「一緒に食べようぜ」

「いいけど」

「手作りかよ」

「妹が作ってくれたんだ」

「おっ、いいね」


 昨日はいろいろあって、弁当など作る気になれなかったのだ。優しい妹が、おにぎりを、律儀に握ってくれたのだ。本当に良い妹だった。


「一つ貰っていいか?」

「んっ」

 沢山あったので、僕はおにぎりを差し出した。


 興味本位で、遠坂はそのおにぎりを手に取り口に入れた。


 そして、止まった。

 五分くらい止まった。

 何故。



「どうした?」

「俺はおにぎりというものの概念を考えていたんだ」

「なんのために?」

「このおにぎり、甘いぜ」

「そうか」


「これはおにぎりじゃない」

「米を握っているだろ?おにぎりだろ」

「形はおにぎりだが、味がおにぎりじゃない。そして、お前は何故普通に食べている?」

「おにぎりだから?」

 ハルは首を傾げる。


「そうじゃない。まずいって言ってるんだ」

「妹の作った物はなんでも美味いんだよ」


 驚愕の表情で遠坂が僕を見てくる。

「お前、シスコンか?」

「そんなわけないだろ?おにぎりが気に入らないなら、今度学食おごるから」

 こんなところで騒いで、神崎さんに見られるのは嫌だった。

 僕は、静かに穏やかに昼食を取りたいのだ。


「なんかラッキー。いいのかよ」

「いいよ。パンのお礼だ」


 遠坂から食べかけのおにぎりを受け取る。

「でも、料理が下手とかベタだな。王道の妹だな」

 ちゃかすように遠坂が笑う。

「僕の妹は、料理美味いよ」


 またしても、遠坂が驚愕の表情をする。

「お前、味覚音痴か?それは、糖の塊だぞ」


「ちょっと甘いおにぎりだよ」

 遠坂は呆れながら僕をを見ていた。





 そんなこんなで、淡い初恋は終わり。すべからく日常に戻っていくはずだった。だったのに。


 ほんのすこし、僕の身の上を話そう。


 僕の家はあまり裕福ではない。

 この時代、昔は曖昧だった貧富の差は歴然だったりする。だから生きていくには、家柄かもしくは才能か、努力でなんとかするしかなかった。

 そうしなければ、あっという間に貧困層にまっ逆さまだ。

 まだ僕が子供とはいえ容赦のない世界を肌でヒシヒシと感じていた。


 妹を養っていくためには、僕は才能を振り絞ってに努力に努力を重ねるしかなかった。だからこの学校に入ってからも、率先して担任に頼まれる雑用をやってきた。心象をよくして卒業までの内申点を稼ぎたかったからだ。

 卑しい考えだが、僕と妹の未来のためなら僕はなんだってやる。



 なんだってやるのだが……。



 どうしてこうなった?





 僕はジョウロとスコップを持って、学校の中庭の小さな、気持ち程度にできた花壇の前にいた。そして、その僕の隣には関わるまいと思っていた人物。





 神崎冬子が立っていた。




 なぜだ???????

 Why????????



 










 

 

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