ホップステップ
翡翠の瞳の少女の艶やかな絹のような手をとる。
「ほんとにあなたっ人は」
そして、小さくお辞儀をして踊り出す。艶やかな黒髪は風に揺れ、見る者を魅了する。
「ごめんね。心配かけて」
ハルは謝りながら、ステップを踏む。
「いいですわ。無事でなりよりです」
「有り難う」
ハルは微笑みながら感謝した。
「何がおかしいのですか?」
「いや、僕は幸せ者だなって。優しい人が多いから」
旭は眉を潜める。
「あなたのクラスだけですわよ。その関係はいずれ変化してくるでしょうけど」
旭は、ステップを踏みながら音楽に合わせる。
「学校に帰れば、本格的にスレイブの実技。授業のカリキュラムも早くなりますわ。クラス対抗や生徒会長選挙、また個人成績の有無。三年にあがる頃には何人かは落第してるでしょうね。ここは競うためのフィールドであることにをお忘れないよう。あなたがいま成績を維持出きるの努力の賜物でしょうけど、これからですわ。怠けていた生徒達が努力をし出すかもしれない。あなたもこの国のトップに並びたいならば甘さを捨てることですわね」
軽やかなステップで旭はくるりと回る。
「旭さんこそ。僕にそんなアドバイスしていいの?」
ハルもステップを踏みながら踊る。
「いいのですわ。あたは、友達ですし。それに私も、まだまだ伸び代がありますのよ。財閥の令嬢の意地をいずれ見せて差し上げますわ。それに近々、編入生も入るという噂です」
「去年の話ですが。学校の統制も一段と進み、実質うちの学校が日本のトップ躍り出たのは知ってますわよね」
「まぁ、それは……」
「同列の学校の優秀な人材が我先にと私達の学校に続々と編入してきてますわ。勿論、最難関の試験を突破してね。私達もうかうかしてられませんわ。特に財閥の連中には、おきおつけあそばぜ」
「財閥の?旭さんと同じような人達のこと?」
「ええ、系譜は違いますが。日本の財閥はご存知?」
「あんまり詳しくないよ」
「旭グループの会長を祖父に持つ私。あとは、橘。霧島。西園寺。マキリ。この5つが日本を支える財閥ですわ。いずれあなたも日本を支える一員になりたいのならば、こういうことも覚えておくと宜しいかと。身の振り方で潰されることもあれば、取り立てて貰えることもありますから」
「マキリ……」
ハルはポツリと呟いた。
「どうかされました?」
「ううん。参考になったよ。旭さん、優しいだね」
「べっ、べつに、ただの自慢ですわ。勘違いしないでくださる。ところで、今回の主役はどこに行ったのかしら?」
「神崎さんのこと?」
「オリエンテーション。美味しいところは全部取られてしまいましたわ。ですが、感服ですわ」
「実行委員で走り回ってるよ。いま、あそこの木陰にいるよ」
「でしたら、行ってさしあげたら?」
「えっ、僕?」
「他に誰がいますの?」
「フォークダンスに誘っていては?一番の功労者が最後の夜を楽しめないなんてあんまりですわ」
「僕が?」
「だから、他に誰がいますのよ」
「断れたら?」
「友達になれなんですわよね?」
「うん。たぶん」
「たぶんってなんですのよ。兎に角、ダンスに誘わないなんて男の風上にもおけませんわ。いってらっしゃいな」
音楽が、終わり。また次の音楽の準備が始まる。
僕は、旭さんに背中を押されてフォークダンスの輪から一人外れた。
視線に移るのは、水色髪の美しい僕の友人。