君が私にくれたもの
視界が悪い。
これでは、どこかで足を踏み外したり転倒してもしょうがない。
スピードを抑えながら冬子は走った。
スレイブのナビがなければ、右も左もわからないだろう。おおよその位置を把握しながら、蒼ハルを探す。
まるで往く手を阻むように、白くぼけながら紫の霧が広がる。
本当に厄介なものだ。
この特有の霧という災害は、冬子を悩ませた。
自然破壊の進んだこの地球の怒りや嘆きのような霧。
時折、発生しては人間を死に至らしめる。それ故、街にはシェルターがいくつも点在している。
霧の発生は、もはやどうしようもなく。かわりに人間は、天気予報でのチェックや早めの警報でそれから逃れてきたのだか……。
本当に、いよいよ何も見えなくなってきた。
視界に映るのは何もない世界。
まるで、私だけがこの世界の異物のように立っていた。
君はどこにいるのだろう。
冬子は、ぼんやりと手を伸ばす。
伸ばした手をきつく掴まれた。
冬子はぼんやりと顔をあげた。
「だめだよ。そんなことしたら」
驚き、跳ねたように顔をあげる。
そこには、まだ少年と呼ぶには少し幼い男の子がいた。
そして、まだ自分も少女と呼ぶにはまだ若い容姿をしていた。
ああ、なんて愚かな。
私は、私に哀れみを向けた。
私は彼の手を振りほどきはしたが、私は逃げなかった。咎めるなそうすればいいと思ったからだ。なぜなら、ここは私の知る星ではない。罰するなら、どうとでもすればいいのだ。
今度は、その男の子が驚いた顔をする。
「それ、欲しかったの?」
「別に」
「お腹すいてるの?」
「別に」
「ねぇ。じゃあ、外で待っていて。僕が買ってくるよ」
「いらない」
「だめだよ。だって君、同じことするかもしれないでしょ。お願い、外で待ってて。それに、ちょうど僕もお腹が空いてるだ。ついでだよ」
はじめて会う彼は、優しい微笑みを私にくれた。
それは、いまから三年前のことだった。