月うさぎ
駆け出した彼女の背中は頼もしく。
流れる髪は柔らかく風に揺れる。
まるでカモシカのように駆けていき、その姿はすぐに見えなくなってしまった。誰も行ってくれないなら、いよいよ私が探しに行くところだった。
「でる幕なしか……」
ポツリと呟く自分に内心驚く。何故なら凄く安心した気持ちなったからだ。彼女なら何がなんでもハルちゃんを連れて帰ってくれるだろう。
ハルちゃんのこと大好きな私だからわかる。
彼女もハルちゃんのことが好きだ。恋愛感情かどうかと問われれば、わからない。でも私には、とてもハルちゃんのことを愛おしく思っているように感じるのだ。だが、特に嫉妬のようなものは感じなかった。
それは、自分の妹たる地位が確固たるものだからだ。
あと、それと。
彼女は本当に美しくて、人離れし過ぎているからかもしれない。
「わっ」
りこは小さく声で驚いた。
「ど、どこに行ってたの。心配したじゃない」
掴まれな腕を見ながら、りこは顔をあげる。
そこには、走ってきたのか息のあがった祐希がいた。
りこは改めて思った。
なんという美形。
長い睫毛に、憂い帯びた表情。
いつもハルちゃんしか見ていてなかったので、眼中になかったがよく見るとこの人も?宇宙人も。凄く綺麗だ。
女性がほっておかないのもよくわかる。
こんな美形ばかりの宇宙人の星が空の彼方にあるなんて、なんという楽園。
「えっ、なに?」
「なんでもないよ」
「まさか、蒼ハルを探しに行ったんじゃないかと思って」
「まさか、まさか。いくら私が天才で可愛くても霧には敵わないわ。カナちゃんは心配性ね」
ニコリとりこが微笑む。
「あ、あのさ。ごめんね。なんかいろいろ巻き込んで」
「いいのよ。もし、私が逆の立場だったら同じようなことしてたもかもだし。
それに。最初は驚いたり、怒ったりしたけど、カナ……」
りこは言いなおす。
「えっと、祐希くんも、冬子さんも、神室くんも話して見ると外見とかそういうのは置いといて、優しいもの。私、宇宙人って恐いって思ってたけど。少し違ってたよ。だから、そんな顔しないで。いままで、知らない土地で心細いかったよね。私でよかったら私の持てる力で助けになるわ」
「りこちゃん」
たぶんそうだ。
ハルちゃんだって、もし冬子さんが宇宙人ってわかっても何もかわらない。
ハルちゃんだって、きっと同じように彼らを助けようとするだろう。
「あっ、でも。オリオンは元に戻してね」
「わっ、わかったよ。有り難う、りこちゃん」
いつの間にか、宇宙人の友人が出来るなんてね。
私は、ハルちゃんと夜空を眺めた日のことを思い出した。
「宇宙人?」
りこは首を傾げた。
「そんなのいるわけないじゃん」
二人でベンチに座りながら星を眺める。
「いやいや、りこ。こんなに沢山の星があるんだ。うさぎだって、宇宙人だって絶対いてるって」
「いや、確実にうさぎはいないと思うよ」
「妹よ。きっと僕らがわからないだけで、きっとこの星のどこかにいてるんだよ。それってすごく素敵だよな」
そのキラキラした目にりこはそれ以上は何も言えなくなってしまった。
「僕はもし、宇宙人に会ったら言うんだ」
わくわくしながらハルちゃんが話していたのを思い出す。
「ようこそ地球に」