表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/121

曇り空





「シクシクシクシク」

 僕は鼻をすすりながら、リビングの食卓で情けなく泣いていた。 


 妹が心配そうに僕を見ている。

「ハルちゃん、そんなに泣かなくても……。漫画でしか見ない泣き方だね」

「グスッ……」


「その、神崎さんに振られたの?」

 僕は顔を伏せたまま泣く。

「シクシク」


 あまにり僕が泣くもので、妹は酷い振ら方をしたのかと思って心配している。

「……って」

「えっ?ごめん。よく聞こえなかった」


 蚊の鳴くような声だったので、妹が聞き返す。

「こすって」

「えっ?こすって?」

 僕もう一度言う。


「殺すって」

「よく意味が分からないないわ」

 そして、困惑する。


 当然だ。

 僕だって、振られただけならまだしも殺すって何???????

 そんなに僕のこと嫌いなの?????


 好きな人に、そんなこと言われたら漫画みたいに泣くしかない。

 僕はまたシクシク泣き出す。


「ハルちゃん、何か嫌われるようなことしたの?」

「そんなのしてない。よ……」

「あやしいなぁ」

 

 妹を見て、僕はまた妹を見る。

「したかも、嫌われること……」

 あああああああああああ、僕の馬鹿。

 ビンダを喰らわせてしまったのだから。


 そりゃあ、嫌われる。

 そして、殺したくもなるだろう。


 いや、それにして酷すぎない?


「ハルちゃん」

「なんでしょうか?」

「ハルちゃん、泣いていても仕方がないよ。もう終わったんだから気にしない。それに、ハルちゃんが酷いことしたって理由があったんだよ。だって、私。妹だからわかるよ」

「我が妹よ」


 

「でも、まぁ。恋は終わったんだから、勉強に集中できるじゃない?ね?」

「はい」

「殺すって言われたなら、もう彼女には近寄らない。ハルちゃんには、高嶺の花だったのよ」

「そうするよ」

「りこ」

「うん?」

「りこ。有り難う。それと、僕の妹で有り難う」


 僕は涙を拭いた。

 そうだ。泣いてる場合じゃない。

 僕は妹を守らなければ。そのために勉強して、立派に就職するんだ。妹がいて本当によかった。


 笑って見せると、妹も満面の笑みを見せた。


「今日は私がごはんを作ってあげるね」

「うん」

 まだ僕の胸はチクチク痛むけど、立ち直れそうだ。











 誰もいなくなった教室で冬子は後悔していた。

 ああ、やってしまった。


 あんなこと言うつもりではなかったのに。





 私には秘密がある。


 誰にもバレるはずはない。

 だが、いつもとは違う自分を見られて内心焦っていたのだ。


 

 いつもなら澄まして顔でやり過ごすのに。

 何故、詰め寄るように聞いてしまったのか。


 よく考えれば、碧くんは人に言いふらすような人間ではない。


 何を聞きたかったのかというのか?


 私がこわいかと聞きたかったのか?

 私が嫌いになったかと聞きたかったのか?

 

 この感情は、わからない。





 碧くんの足が、一歩下がる。

 私は逃げられると思った。


 そう思って、指を伸ばした。


 怯えた顔が。困惑した顔が苛立たしかった。

 そんな顔で私を見るな。


 軽く首を掴んだつもりだった。

 しかし、それは大きな音を立てた。彼の体はドアに叩きつけられた。

 非力過ぎて、私は驚いた。


 そして、彼はもっともっと驚いていた。


 逃げられると思った。

 逃がしてはいけないと思った。

 こんな私を見られたのだ。

 黙らせておかないとと思った。 


 私は口を開いた。

 思っていた言葉と違っていた。


 黙っていて欲しいの、と可愛く頼むべきだった。

 碧くんの怯えた表情を見て思った。


 やってしまったと。

 ああ、嫌われてしまったと。




 そのあと、碧くんは逃げるように教室から走り去る。ああ、とんでもないことをしてしまった。




 その時、私は思ったのだ。もしかしたら、私は彼に昨日の誤解を解きたかったのではないだろうか。


 ああ、そうか。

 私は、あの星が好きな少年に嫌われたくはなかったのだ。

 なのに、心と理性がチグハグで整理できなかったのだ。






 誰もいなくなった教室で神崎冬子は立っていた。




「ごめんなさい。怖がらせるつもりじゃなかったの……」

 ああ、ただ謝ればよかったのだ。



 そんなことに私は今頃気付く。

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公はきもくて最低だ。 例え同じ学校でも、いきなり赤の他人、しかも女の子の顔を殴ったなんて、同じ人間としてはどうかと思う。 なんなんだこいつは。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ