糖分
夢を見た。
顔はよく覚えてないが、僕と同じくらいの年齢でかっこよかった。
非常に身軽な少年だったように思う。
いまでも、手を捕まれて走ったのを覚えている。
僕もあんな風になれたらよかったのに。
まどろみの中は、ハルはぼんやり目を覚ます。
「しまった。永眠するところだった」
もう夜も遅いだろう。
それでも霧はいっこうに消えてはくれなかった。スレイブで作った薄いフィルターも溶けるように消えてしまった。
やはり技術の差があるのだろう。日々、頑張っているとはいえスレイブを使い始めたのはまだ最近。うまくは使えない。
本当にまぬけな話だ。
好きな女の子を庇って、死ぬならわかる。だが、彼女を助ける前に崖で足を踏み外すなんて恥ずかし過ぎるだろ。やはり、どうにかしなければ。
崖にもたれかかりながら、ハルは立ち上がる。
「ファイト~。一発」
そして、崖を登り始める。
ザーザー。ザー。
そして、勢いよく滑り落ちる。
「うん、わかってた……」
僕の非力な腕力では、登ることも出来ない。せめて、オロナミンCがあれば話は違っていただろう。昔の日本人はあれで崖を登っていた聞く。
もうマジでほんとに。誰かの救助を待つしかないが、僕の体力にも限りある。なにかないか。なにか。
ハルは身の回りを探る。
「こ、これは」
ポケットから出てきたものは、チョコだった。
嬉しいけど、これじゃない。
これじゃないけど。
ハルはそのチョコを口に入れる。
「糖分。うまい」
思わず、顔がにやけてしまう。そういえば、お腹すいてたな。妹がオリエンテーションに行く前に持たせてくれたっけ。さすが、僕の妹。
可愛い妹の笑顔を浮かべながら、ハルは暖かい気持ちになった。
「よし。頑張って家に帰るぞ」
なんだか力がみなぎってくる気がした。