ざわめき
伸ばした手は空を切る。
それは掴めない紫の霧。
「なんだこれは」
思わず冬子は口を開く。
それは見たことのないような濃度の霧だった。
「これは良くないタイミングですね」
淡々と相馬が言う。
「いや、不孝中の幸いかもしれぞ。生徒達はみな、テントの中だ」
少し冬子は考える。
「ジュリ、慌てず慎重に行動しろ。他のクラスの実行委員を集めて、避難指示を出せ。教員にも連絡をして、誘導させろ。ここから一番近いシェルターをスレイブに探させ、各生徒のスレイブにも情報を飛ばせ。避難は迅速にだが、パニックを起こさぬように。人員が足りなければ私達の親衛隊も使え。任せられるか?」
「仰せのままに」
ひざまずいて、ジュリは命令を受けいれる。
「冬子様はどうされるのですか?」
「私は宇宙船に行く。あの規模の宇宙船だ。この霧に気が付いていない可能性がある。奴らも連れてシェルターに避難する」
叫びながら冬子は走り始める。
この霧は非常に有毒である。
我々の体は頑丈ではあるが、それでも人間種の派生。この霧が、影響がないとは言い切れない。あまり晒されればわからないだろう。
まだ霧が広がる前に避難させなくては。
宇宙船の中は安全ではあるが、霧が濃くなり出る機会を失いかねない。今度は、別の危険がある。
日本政府に見つかるという危険が。
久しく忘れていた。ざわざわという焦燥感に冬子は襲われたのだった。




