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第一章 強襲 7

 仄かに明かりの灯る道をひたすら歩いて行く。どうやらアントラメリアもロックヘッドもここまでは来ていないようだ。警戒しながら、なるべく早足で洞窟の出口へと歩みを進めていく。


「ねえ、ユウト、ふと気付いたんだけどさ。僕たちあの人の娘さんの名前は聞いたけど、容姿とかそういった特徴みたいなのは全く聞いてないんじゃないのかい?」


「あっ!そういえばそうだな……」


 かといってここから戻るのも敵と遭遇する危険がある以上控えておきたい。


「帰りにもう一度寄った時に確認しましょう。」


「ああ、そうだな。」


 しばし沈黙、ひたすら先に進む。この周辺は障壁もしっかり残っているし、あの時のような異臭もしない。後どのぐらい距離があるかは分からないが、このまま洞窟を抜けられるような気さえしてくる。


「おや、水場が近いね。ユウト、もうすぐ地底湖の上を通るよ。なかなか見れるものじゃないからしっかり見て目に焼き付けておきたまえよ。」


 たしかに初めて見るな。目に焼き付けろとまで言うんだから結構すごいんだろう。心なしかリリィクも楽しみにしているように見える。


「勇人、上から覗き込んでもいいですが、落ちないように気を付けてくださいね。」


 そこまでの物が見れるということだろうか。いやがうえにも期待が高まってしまう。


「右手の壁が切れたらそこから先が地底湖さ。さあ、行こう!」


 ゼオが張り切って先頭を歩いて行く。珍しい事もあるもんだ、と思いながら後に続いて地底湖を見渡せる場所まで到達する。


「おお……」


 眼下に広がる湖には大小様々な蛍輝岩が水上だけでなく水中にも点在していて幻想的な風景を作り出している。時折魚が水面を跳ねては飛沫を散らし、さらにそれが光を反射して輝き、そして消えていく。


「これはたしかにすごい。」


 感嘆の声もそこそこに、俺は湖に見惚れてぼーっと眺めてしまっていた。


「あれは……大きな魚でしょうか?」


 リリィクが指差した先の水面が波打っている。どうやらこちらに向かって何かが泳いで来ているようだ。気になって覗き込んでみたが、すぐに後悔した。水の中に居た何かと目が合って慌てて体を起こす。デジャヴ、確か以前にこんな経験があった。しかし、今回は流石にそこに引き込まれるわけにはいかない。


「逃げるぞ!急げ!」


 リリィクとゼオも慌てて俺の後に続く。俺達が走り始めてすぐに水中からそれは飛び出して、物凄い速度で空中を飛びながら俺達を追い掛けて来る。


「あははは、見つけた!見つけた!!見ぃつけたぁっ!」


 アントラメリアは叫びながら湖の水を大量に集めると、一気に圧縮して放出してくる。ちょうど地底湖を抜け、道が蛇行を始めたおかげで辛うじて直撃は避けられたが、余波が足元を流れていきこけそうになる。さらには進行方向の地面までもが水に濡れてしまい滑りやすくなってしまっていた。


「逃がさないよ、これで!」


 その手が電気を帯びているのが見えた。


「感電させる気か!?」


 咄嗟に二人の腰の辺りに手を回して動けないように固定し、前方にいつもより強力で広い障壁を発生させ加速の体勢に入る。人を抱えて使ったことはない、一か八かだがやらなければ死ぬ!


「風纏え!その身を守り迸れ!アクセラレート!」


 自分だけでなく、その周囲まで保護して加速するイメージ。思い切り踏み込むと一気に加速して曲がり角にぶつかりそうになる。


「形を……」


 障壁に意識を集中して衝突の際に曲がれるように変形させる。一瞬のことだったがなんとかうまくいった。だが、道は蛇行を続けている。濡れた地面は青白くスパークしていてとても着地できそうにない。踏み込めたのは一回だけ。いつもより勢いが付いているとはいえ、流石にそろそろ失速してしまいそうだ。しかし、障壁で二人を守ることには成功している。このまま次の手を試すしかない。


「突風よ、全てを薙ぎ払い進むべき道を示せ!」


 障壁を球体に変形させ突風の魔法を自分の後方から発動、障壁ごと一気に吹き飛ばした!強引だがこれでかなりの距離を稼げると思いたいが、さっきのように高速で飛んで来られるとおそらくすぐに追い付かれてしまうだろう。


「勇人、着地しましょう!」


 この辺りまでくれば地面は乾いている。細い通路内であまり強力な風の魔法は使わない方がいいというのを思い出して解除する。


「姫様、すぐに後方に障壁を!」


 即座にゼオの指示が飛ぶ。リリィクがそれを受けて障壁を展開させた直後、大量の骨が通路を無視して壁を突き破り荒れ狂いながら襲いかかって来た。


「ユウト、もう一度球体の障壁を!前回みたいに横から来るかもしれない!」


 あるいは上から、もしくは下からという無茶だってやりかねない。細心の注意を払いながら障壁を張る。またしてもゆっくり後退するしかなくなったが、今回はゼオを背負わなくていい分余裕がある。ゼオ自身も神経を研ぎ澄まして状況把握に努めてくれている。なんとか隙を突いて大きく後退させることができれば


「最悪、道を塞いででも行く手を阻んでやる!」


「ええ、最後の手段はそれでいきましょう!」


「でもまずは相手の力を削がないと、それすら抜けられてしまうかもしれないよ。なんとか反撃しないと!」


 そうこうしている内に骨の奔流が収まる。もしかするとまた光の壁が来るかもしれない。何か強力な一撃をお見舞いできれば……


「……勇人、魔道砲を使いましょう。」


「なっ!?待ってくれ、こんな狭い場所であれを使えば……!」


 現状俺達が有する火力の中で頭一つ飛び抜けたまさに必殺の一撃。もちろんソリドの時のようにアントラメリアが防ぎきることも考えられるが、洞窟の狭さによって威力が集中する分行動不能にすることは可能だろう。だが、あの火力だ。下手すると洞窟全体が灼熱地獄になりかねない。


「こちら側は障壁を張って全力で防御します。勇人はなるべく地底湖に撃ち込むようにしてみてください。ある程度の軽減は出来るはずです。」


「しかし……」


「ユウト、ゆっくり歩いて近付いてきてるよ。少しこっち側に寄って撃てば真っ直ぐ地底湖に突っ込むはずさ。……周りへの影響を考えるのは君らしいと言えるけど、でも、今はそれじゃ駄目なんだと思うよ。僕なんかが言えたことじゃないかもしれないけどさ。」


 ゼオもリリィクも覚悟を決めているようだ。だが、やはり躊躇してしまう。もしこの一撃のせいで洞窟全体が灼熱で包まれたら生き物たちが死滅してしまうかもしれない。そうなったらガルバルトだって無事でいられるか分からない。たとえ地底湖で軽減できたとしてもどれほどの効果が見込めるか分からない。


「勇人!」


「くっ、やるしかないんだな……」


 散々心の中で言い訳したものの、要するに俺は未だに心の奥底であの炎に恐怖を抱いているんだろう。何度か撃ちはしたものの、やはり身に余る力だ。だが、もう四の五の言ってはいられないようだ。アントラメリアの姿がうっすらと見え始めた。不機嫌そうな表情で何かをブツブツと呟いている。


「大丈夫です、私が付いていますから……」


 そうだ、そもそも彼女がいないと撃てやしない。彼女が撃てというなら、俺はそうするだけだ。ゼオが指示した場所に立ち魔道書の白紙のページを開き、浮かび上がる文字を見る。右手を真っ直ぐアントラメリアに向けて詠唱を開始する。リリィクは障壁を張りながらそっと俺の手に自分の手を添えてくれた。


「地を穿ち、天を焦がせ。我が手に宿りしは炎の息吹。紡ぎ出すは火炎の砲弾。」


 突き出した手の先に熱い力が収束してくるのを感じる。それと同時に詠唱する俺の声にリリィクの声が重なって、そして、同時に最後の一文を読み上げる。


「焼き貫け、紅蓮の魔道砲!!」


 轟炎の柱はうねりながら瞬く間にアントラメリアを飲み込むとそのまま地底湖へと直撃、湖の水を激しく蒸発させていく。こちら側への影響はほとんどない。さっきの攻撃を防いでいる時にも思ったが、リリィクの障壁はやはりちょっとやそっとでは絶対に破れないほど強力なんだな。ゆっくりと一筋の軌跡を残しながら消えていく魔道砲を眺めながら一息つこうとして……


「っ!駄目だ、二人とも!逃げ……」


 不意にゼオが叫んで俺達を突き飛ばす。その瞬間、いくつかの白い塊が俺達の間を通り抜けて行った。


「あは……あははは、もう少し、もう少し強く……ねえ?さっきの、もう少し強く出来るよね!そうしたらきっと逝けちゃうねえ……どうやるんだろう?こうかな?」


 ボロボロになったアントラメリアが笑いながらゆらゆらと近付いて来ている。周囲の温度が上がってきているが、まさかとは思うが詠唱なしに魔道砲級の魔法を撃つこともできるのか!?


「いえ、それは出来ないはずです。魔道砲には適性を持って、尚且つ呪文を詠唱出来る者にしか使えない制限が存在します。どのような原理でその制限が働いているのか解明出来てはいませんが、少なくともあの方が撃とうとしてもエーテル自体が反応を止めるはずです。」


 過去に試した人がいるんだろう。確信を持って口にされたリリィクの言葉通りに温度の上昇は止まり、困惑した様子のアントラメリアは立ち尽くすだけだった。


「なんで?メリアに出来ないことなんてあるの?……あはは、ねえ、君達はやっぱり何か違うね!きっと……きっときっと、君達ならメリアを殺してくれるねえっ!」


 その手が虚空を払うと無数の骨が何処からともなく彼女の後方に集まって来る。またしても膠着状態に陥るしかないのか?


「いや、それ以上に厄介な状況になりそうだよ。聞こえるかい?」


 ゼオに言われて耳を澄ます。


「これは、まさか!」


 何かが這いずって来るような音。かなりの速度があるようだ。どんどん近付いて来る。ふと壁の下部で歩道を形成していたライン見ると、魔道砲の熱で動作を停止してしまったと思われる障壁発生装置の並び。今にも骨を撃ち出してきそうな彼女の方に視線を戻すと、案の定それはもうすぐそこまで来ていた。


「なんだ、君まだ生きてたんだ?死体が見つからなかったからがっかりしてたのに、杞憂だったね。」


 不意に後ろから現れた影を見上げ急に冷静になるアントラメリアだったが、一瞬にして叩き潰されると更に天井の岩を崩され生き埋めにされてしまった。俺達が最後の手段としてやろうとしていたことをいとも簡単にやってくれたのはありがたいが、どうも言葉が通じる相手ではないようだ。道が塞がる前にこちら側に素早く移動すると鎌首をもたげて俺達を威嚇してくる。


「ユウト、もう少し進めば開けた空間がある。ひとまずそこまで走ろう!」


 たしかに狭い通路ではこの大蛇相手には不利だ。


「いや、二人ともこっちに!さっきみたいに一気に加速してそこまで行くぞ!」


「わかりました、任せます!」


 二人がしがみついたのを確認して障壁を展開、一気に踏み込んで加速する。間一髪、さっきまで立っていた場所に頭突きが叩き込まれるのを避けて通路を奥へと突き進んでいく。幸いアントラメリアほどの速度は出せないようだ、カーブを何とかやり過ごして数回加速を掛け直したが追い付かれることはなかった。このまま進めば開けた空間どころかロワールまで行けるんじゃないだろうか?そう考えたが、どうもそううまくはいかないらしい。


「熱っ!ユウト、障壁が綻んでるよ!」


「一旦止まりましょう!」


「す、すまない……」


 さっき付け焼刃で編み出した魔法だからだろう、まだ十全とは言えなかったようだ。しかし、通路はもう少しで抜けられる。追い付かれる前に迎撃の態勢は整えられそうだ。


「ゼオと私で左右から牽制します。その間に勇人は呪文の詠唱と発動を!」


「ああ、わかった!」


 大雑把だが今はこれで良い。通路から現れたロックヘッドが一気に俺達へと突っ込んでくる。


「いくぞ!移ろう風よ、我が手に集え。翻り真空の刃と化せ、敵を捉え斬り刻め!真空裂衝、ウィンド・スラッシャー!」


 俺達の攻撃はそのまま当たるかに思えたが、直前で大蛇がとぐろを巻くと攻撃はあっさりと弾かれてしまった。


「ぬめり?違う、鱗が……っ!」


 ゼオの分析を聞く前に大蛇は身体を振り回し全員まとめて叩き飛ばしてしまう。咄嗟に障壁を全員に張るのは間に合ったが、それぞれ違う方向に大きく離されてしまった。


「鱗だよ!高速で動いて空気を振動させて、瞬間的に障壁みたいなのを生成しているんだ!」


 その声に反応してか、大蛇はゼオに狙いを定めた。一気に距離を詰めるとお得意の頭突きを繰り出し叩き潰そうとする。


「甘いよ!」


 大振りの頭突きをゼオがかわすには幾分か余裕があったようだ。着地して素早く深く踏み込むと、鱗が無く無防備であろう目にレイピアを深々と突き立てる。


「うわっ!」


 レイピアが突き刺さったまま痛みで暴れ出す大蛇に弾き飛ばされ壁に叩き付けられたゼオだったが、辛うじて体勢を立て直すとこちらに向かって駆けて来る。


「ごめん、武器がないと何にも出来ない!」


「いや、十分だ。やるじゃないか!後は俺達でなんとかする!」


 外からが駄目なら、あのレイピアをさらに深くまで突き刺すか、あるいは何か別の……


「……そうか!リリィク、俺が合図するまで何とかそいつを引き付けてくれないか!」


「何か思い付いたんですね?了解です、勇人!」


 ミューがやっていたことを思い出す。応用と称して見せてくれたものの中から、迸る電撃を。


「……やれるさ、きっと!」


 ゼオがちょうど俺の所までたどり着いた。後ろに回るように促して、両手を突き出して障壁を展開する。


「移ろう風、二輪、我が手に集え。翻り真空の刃と化し互いの身を削れ!」


 風の斬撃魔法を二つ発生させぶつけ合う。空気が渦を巻き、衝突し合い、次第にそれらは電流を帯びてうっすらと光り始める。


「……もう少し、まだいけるはずだ!風よ、閃光を紡ぎだせ!いざ、その身に雷を宿せ!」


 二輪の風の刃が激しく輝き周囲にも電流が迸り始める。その迸りを束ねて相手を撃ち抜くイメージを描く。もう一息……


「勇人、ロックヘッドがそちらに!」


 おそらくこちらを脅威と認めたんだろう。リリィクがどれだけ攻撃しようとも目もくれず、俺めがけて突っ込んでくる。好都合だ!電流の迸りは目も眩むほどの輝きにまで達している!


「貫け、紫電一閃!ライトニング・ブレード!」


 放たれた雷の刃は真っ直ぐレイピアを貫くと、そのまま大蛇の体内に侵入し一瞬で中身を焼き尽くしてしまった。地面に倒れ伏した大蛇はピクリとも動かなくなり周囲に香ばしい香りを漂わせ始める。


「……やった……」


「うん、喜んで一息つきたいところだけどね、急いでここを立ち去ろう。」


「ええ、他のロックヘッドが集まってきては対処しきれません。」


 そういえば助けに来る習性があるんだったな。


「レイピアは……うーん、これはちょっと触れないかな?向こうでなんとか調達できると良いけど……」


 電流を帯びたうえに高温で熔け出しているレイピアをあっさりと諦めゼオが先頭切って走り出す。


「出口は近いです。行きましょう、勇人。」


「ああ。」


 ふと、遠くで岩が崩れるような音が聞こえた気がした。別のロックヘッドが来たのだろうか?それともアントラメリアが岩の下から復活でもしたんだろうか?どちらにしろ距離はある。お互いに鉢合わせてまたつぶし合ってくれれば外に出て来ることもないだろうし一安心なんだが……


「考えても仕方がありません。今は雷龍様の元に急ぎましょう。」


 そう、俺達だけではどうしようもない。魔道砲とさっきの雷を撃ったことで俺の消耗も激しい。二人も同様のはずだ。今は急ぎロワールにたどり付き、助力を仰ぐことだけを考えよう。


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