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第一章 強襲 6

 彼の脚の骨を繋ぎ合わせることは成功した。今は静に横になっている。物凄い表情はしていたものの彼は声一つ漏らさずに耐え切ったのだ。だが、私の身体が陽の光に弱い事に変わりはない。たとえ体内にあろうとも日光を感知して崩壊する可能性は大いにある。


「それでもいいです。この洞窟の中で僕が足手まといにならないのなら……」


「もしもの時は俺達がいますから大丈夫です。」


 彼らは強い。おそらくこれから先何があってもそうそう心が折れることはないのだろう。そして、仲間を見捨てることもないのだろう。だからこそ、そんな彼らだからこそ頼みたいことがあった。


「娘さんを捜してほしい、ですか?」


「ああ、私がこの身体になった頃、娘も同じようにストラーの実験対象だった。もちろん私達だけでなく多くの被験者が地下の牢獄に閉じ込められ、様々な物と合成させられていた。その中でも希少な龍種との合成に完全ではないにしても成功した者が三人。私の娘リュレーゼとゼディリアの姉妹。姉妹の方は今でも元気にやっているはずだ。なあ、お嬢さん?」


「ええ、そうですね。」


 彼女は少し複雑そうな表情を浮かべて頷く。その姉妹と彼女は大いに関係がある。たしか、ルーデロッテとルアココだったか。状況はともかく生きていることは聞いている。そのうち会ってみたいものだ。


「あの牢獄から逃げる時、どうしても娘の事を見付けることができなかった。日差しの中では体はどんどん焼けて蒸発していく。私は奇跡的にここにたどり着いて、後に賢者様、アルシアに会うことも出来た。だが、どんなに方法を探ろうと日中で歩くのは困難を極めてな。アルシアから色々と情報は入ってくるが、どうしてもストラー側の新しい情報は入って来づらい。トーマと接触できたこともあったが特に有益な情報は引き出せなかった。そこで君達だ。君達は今トーマに命を狙われているようだが、その刺客の大半は、刃脚にしても霧四肢にしても、かつて私と同じあの牢獄に居た被験者達なのだ。うまくすれば情報を引き出せるかもしれない。その点に期待してお願いする。どうか娘を捜し出してくれ。そして私がここで生きていることを伝えてくれ。」


 我ながら随分と一方的なお願いだとは思ったが、彼らはお互い目配せすると無言で力強く頷いてくれた。


「ありがとう。……これを渡しておこう。」


「これは、ペンダント……?」


「ああ、娘が、リュレーゼが大きくなったらプレゼントすると約束していたものだ。きっとそれを見ればあの子も気付いてくれる。無くさないでくれよ?」


 示し合わせたわけではなかったが、全員ほぼ同時に飲み物を飲んで一息ついていた。


「よいしょっ……と。うん、僕も動けるようになったし任せてもらって大丈夫ですよ!」


 合わせる様に起き上がったゼオが軽く飛んだり跳ねたりして動けるアピールをしてくる。


「おお、そこまで動けるか!これは予想以上の成果だな。いやあ、試してみるものだな、ハッハッハ!」


 たが、うっすらと汗をかいているのが見てとれる。おそらく痛みに関しては相当な我慢をしているのだろう。痛み止めの効能がある薬草を調合して飲ませてはいるが、治療中の様子から見ても途轍もない痛みがしているはずだ。アルシアから事前に得ていた情報では臆病者との事だったが、どうやらここに来るまでにしっかり成長しているようだ。


「さて、それはともかくロワールに行くなら急いだ方がいいかもしれないな。何やら異様な空気に包まれてしまっている。おそらくトーマが先回りして刺客を送り込んでいるはずだ。ストラー側に居る人物で現在私が確認できているのはパーキュリスと名乗る人物。あいつならば大胆な作戦と姑息な手段でロワールを乗っ取ろうと考えているはずだ。だが、どうも違う名前が噂として聞こえて来ている。もしかするとあの被験者ではない新しい人物かもしれん。」


「情報ありがとうございます。」


 帰りにまた立ち寄ると言い残して立ち去ろうとする彼らを引き留めようとも思ったが、こちらにも少々事情がある。無事を祈ると声を掛けて彼らを見送った。




「……あー、ようやく行ったか?はあ、やれやれ、なんで俺様がこそこそ隠れないといけないんだか……」


 奥の収納へ隠しておいたゼフュールがのそのそと這い出して来る。そう、彼は何故か普通の人間に戻ってしまい森の中を行くあてもなく彷徨っていたので、アントラメリアに捕捉される前に保護していたのだ。


「贅沢を言うな。彼らに見つかったらますます信用なんてしてもらえんだろうが。」


 せっかくなので新しいお茶を注いで渡す。


「ああ、すまねぇ。けど猫舌だから熱いのは飲めねぇよ。後でゆっくりいただくぜ。それよりも、良かったのか?あのペンダント渡しちまって。たしかトーマの野郎はてめぇが誰かに殺されたってリュレーゼに吹き込んでたはずだぜ?ペンダント持ってるの見たら激昂して襲い掛かってくるんじゃねぇの?」


「ああ、いいんだ。仮に彼らが力尽きることがあっても、それが娘の手に渡ればここに居ると分かるようにメッセージを掘りこんでおいた。」


「用意周到じゃねぇか。まあ、俺様はあいつらがどうなろうが知ったこっちゃない。厚かましいかもしれねぇがここで安穏と過ごさせてもらうのが正解さ。」


 我々のような存在が普通の人間に戻るとどうなっていくのか、それを探る為にも彼は貴重なサンプルになる。丁重におもてなしするとしよう。


「ああ、しかしタダ飯が食えるとは思うなよ?いろんな作業はしてもらう。」


「はいはい、やりますよぉ。ハッハァ、何なりとお申し付けをってな!」


 どうやって戻ったのかも探らなければいけない。彼らには悪いが今はこちらの方がはるかに重要なのだ。まあ、無事帰って来たなら今度は食事でも出して労ってやるさ。


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