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第六章 ロワールを発つ 5


 一夜明けて、俺達は今からロワールを発つ。急な決定だったが、状況を鑑みれば急ぐのは必然だろう。


 ロワールは国を挙げてバーゼッタ奪還に協力してくれることになった。だが、戦力的にはもう一声ほしい。というわけでロワールが準備を進めている間に俺達はラトラへと協力を仰ぎに行くことになった。


「何故か通信が途絶していてね……アリスも呼び戻されたそうだし気になる……リリ姉さん、くれぐれも気を付けて……」


「ええ、ココもこちらの事、よろしくお願いします。」


 ココはまた深くフードを被ってしまっている。あの時見せてくれたのは特別だったんだな。


「じゃあ、気を付けて。アルトラの事もよろしくね。」


「ふん、アルシアの所までだ。それぐらい頼まれなくても連れて行ってやる。」


「では、よろしくお願いしますね、伽の守人。」


 雷龍にアルトラを託されて渋々手を繋いでいるミューを見るのはどこか新鮮な気持ちだ。ミューは俺達に付いて来るらしい。それがストラーに近付く為の一歩だと言っていたな。そして記憶を取り戻す為にも一番の近道になるだろうとも。


「勇人、付いて行けないのは心苦しいけど、無理はするなよ。お前に何かあったら母さんに何と言ったらいいか……」


「そういう心配は向こうに帰れるようになってからしてくれ。俺は大丈夫だから……」


 ミューが少し反応したのが視界の隅で見えた。彼女は意外と気にしているのかもしれないな。あまり話題にはしないようにしておこう。


「うぅ、ゼオくぅん……」


「うっ、苦し……っ!と、とりあえず離れたまえよ!」


 と、言いつつも引きはがそうとはしない。君たち抱き合うのはいいんだけど、小さな子もいるしあまり刺激が強い事は控えめにしたらどうかな!


「はぁ、これはこれは……」


「アルトラ……あんまりまじまじと観察しなくていいからな……」


「えっ!?私そんなつもりは!」


 こうやって二人を見てると別れを惜しむカップルのように見えるが、そうじゃない。そうじゃないんだ!


「リカステドラータ様!いけっ!」


「そのまま押し倒せっ!!」


「うおおおおおおおっ!!」


 だから何でこの国の人達はこんなにはっちゃけてるんだ……


「ああもう、カスタード、これから僕達と一緒に来るんだから!いくらだってこういうこと出来るんだからとりあえず!……はっ、いや、何でもない!何でもないから何も言ってないからっ!!とにかく離れたまえよ!勇人も姫様もそんな顔で僕を見ないで……」


「あーはいはい、ごちそうさまでした。」


「しばらく甘味が喉を通りそうにありませんね。」


 聞いてるこっちが恥ずかしくなる失言をありがとう。というかこいつ昨日あの後何をしてたんだ?


「勇人、それは私もとても気なりますが、そっとしておきましょう。ちょっと羨ましいですが……」


「いや、違う違う!姫様何か勘違いしてるよ!ユウトも邪推はやめたまえよ!ほら、カスタードも何か言いたまえよっ!」


「んぅ、ゼオくんったら昨晩はあんなに……」


「あ、駄目、喋らないで、誤解、広がる、よくない……」


 まあ、からかうのはこれぐらいにしておこう。おそらくのゼオの反応からしてそんなに大それたことはしてないはずだ。


 カスタードもこれから先は同行してくれる。それはとても心強い。昨日社に着いた時には既にカスタードを同行させることが決まっていた。それを知らせるために父さん達は俺達を捜していたらしい。その理由はとても強引で、でも、この国らしいというかなんというか……


「岩の下から団長が見付からなかったから国外に居るかもしれない、だから副団長として捜して来い……かぁ。ホント、皆無茶苦茶だよ……でも、ありがとね。」


 おそらく彼女は真実に気付いている。その上でそういうことにして、何事もなかったかのように俺達に付いて来てくれる。


「こっちこそありがとうな、カスタード。」


 さて、いつまでもここで話し込んでいるわけにもいかないな。皆の顔を見渡して、示し合わせたわけじゃなかったけれど一度頷き合って一斉に一歩を踏み出す。


「さあ、出発しよう。行き先は森の賢者様の小屋。そして、東天のラトラだ。」


 こんなにも多くの人に見送られるのは初めてだ。皆の期待を背負っているんだなと思うと、踏み出す一歩一歩に力強く踏みしめる感覚が伝わってくる。この先どんなことが起きようとも、皆と一緒ならきっと乗り越えられる。そんな気持ちが俺を前へ前へと押していくような感覚。これならどんなことがあっても心が折れることはない!






 ……そう思っていた。


 俺は彼女の呪いについて、結局の所自分の考えられる範疇でしか考察出来ていなかった。


 ……だからといって、もっと有益な情報が得られていたとして、どうしたってあの出来事は俺の身に間違いなく降りかかってくることになる。おそらくそれが俺に与えられた最大の試練、そうに違いないんだろう……。


 乗り越えられなければ、それは永遠の訣別となる。




俺は…………



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