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第五章 消され往く真実 4


 落石の処理は遅々として進まない。少しどかせたと思っても気付けばまた積み上がっている状況だ。パーキュリスが何かしていたという線はあったが、今分かるのはそうではなかったということだけだ。


「ふん、利用していたというならいらなくなれば廃棄でもするんじゃないのか?」


 ミューが少々物騒な事を呟いたもんだから、パーキュリスを捕らえている場所へは容易に足を運べない。まあ、話を聞こうにも未だにうなされながら目を覚まさないそうだが……


「現状、アタシ達に出来ることは地道に岩をどかしていくだけ……んぅ、ホントにこれ無くなるのかな?」


「愚痴っても仕方ないよ。さあさあ、どんどん働きたまえよ。」


 休憩所ではゼオが自由に動けないなりに色々と手伝っている。リリィクとココは現状とこれからについて屋敷に籠って話し合っている。俺は身体を動かしたかったのもあるし落石処理を手伝っている。


 今更だが、ここの人達の身体能力は高い。初めに機械人形に聞いていたように気功を用いた格闘技術に優れているだけでなく、足場の悪い場所をよく移動するからだろうか、重い岩を持っても重心の移動がスムーズでとても効率のいい身体の動かし方をしていると思う。対して俺の方はといえば


「キリくんキリくん、あんまり無理しなくいいからね?ほら、そこのちょっと小さめのやつから始めよう!」


「小石じゃないか!」


 あまり大きいものは運べないし長時間運び続けるのもカスタード達みたいにはいかない。これは良い鍛錬になりそうだ。


「肉体の鍛錬……なるほどそういう考えもあるのか、中々に興味深い。」


「……悠々と岩を浮かせて雑に運んでいる奴には言われたくないな……」


 エーテルをうまく使って岩を浮かせてスイスイと運んで行くのはミューだ。こっちが息を切らせながら岩を運んで行く間に彼女はひょいひょいと大量の岩を移動させていく、正直羨ましい……


「む、なんだその目は?これぐらい君にも出来るだろう?風を使え、風を。」


 確かにできないこともない。が、まだ熟練が足りない。試しにやってみた時には周りに強風が吹き上げて苦情が出てしまった。戦いの中で無理矢理障壁で覆って移動手段にしていたのとはイメージが全然違う。周りに影響が出ないようにするにはまだまだ試行錯誤が必要のようだ。


「……ふん、鍛錬の有無で実力に差が出るのは良いことだな。」


 ふと岩を運ぶのをやめてミューが自分の両手をじっと見る。まるで自分はそんなことはないとでも言いたそうだ。


「ああ、そう言いたいところだ。結局、私の力はエーテル次第で上がりもすれば下がりもするからな。いいおもちゃだよ……」


 よく考えてみれば彼女のことは詳しく知らないな。まあ、記憶が無いと言っているから彼女自身も詳しいことなんてわからないんだろうけど。


「そういえば、方針変更するんだってな。」


「方針……ああ、他人の記憶を読み取ることに関してか。確かにそのつもりだが……何故それを?」


 誰から聞いた?と言いながら睨みつけられてしまった。そこに関しては俺も知りたいところだ。いつの間にか知っていたような気さえしてくる。


「……ああ、エーテルか、余計な事を……」


 一人で納得したように頷いて作業に戻っていこうとする。


「どういうことだ?」


「どうもこうも、エーテルからのサービスだそうだ。アルシアが君との合流を促したから面倒を避けるために情報を植え付けておいたと、そういうことだ。ふん、人の迷惑なんぞ考えもしないで好き勝手にやる連中だよ、まったく……」


 エーテル、賢者様と話した時もそうだった、たしか夢で話し掛けてきたリクシーケルンも意思があるかのように話していた。結局エーテルって一体何なのだろうか。


「エーテルが何か、か……それは私も知りたいところだ。少なくとも便利な発光物体という訳ではないだろうよ。ちょうど良い、ここの一件が片付いたら問い質すつもりだ。君とも情報共有できるようにしておこう。」


「問い質すって……話せるものなのか?」


「ああ、普通に話し掛けてくるぞ。」


 本当に一体どういう存在なんだ……


「ふん、エーテルの話なら後でいくらでも聞かせてやる。今はさっさと作業を進めるぞ。私もこの先に居る雷龍には会ってみたい。……記憶に繋がるかもしれないからな。」


 そう言って先程の様に黙々と岩を運び始めてしまう。少し機嫌が悪そうにも見える。いくらでも聞かせてやるとは言われたものの、実のところあまり話したくない事なのかもしれないな。今は俺も作業を続けよう。


 しかし、どれだけ岩を運んでも一向に無くなる気配はない。気付けば当然のように最初の状態にまでまた積み上がっている。尋常ではない事態に頭をよぎるのは天上の意思。彼女は、彼女達はずっと俺達を見ていたんだろう。


 リクシーケルン、ここに来て唐突に姿を現した別勢力とも言えるが、その全てが未知数だ。俺をエーテル特異体にしてまで守らせようとする「彼女」という存在も気になるが、シンプルに世界の均衡というのも気になる。


 この世界に来て何度も耳にしたストラーと、それとの戦いで記憶を失ったミュー、エーテルはこの二人に固執しているようなことも言っていたか。どうやら水面下で今もその争いは続いているんだろう。ストラーが残れば世界は恐怖と絶望に沈むと言っていたが、それを防ぐために俺みたいな人間が必要……その点に関しては疑問しかないな。


 確かに夢の中で俺の考えを伝えはしたが、基本的に俺は状況に流されてしか生きて来ていないと思っている。この世界に来てから、いや、元の世界で父さんや七美が居なくなってからは特にそうだ。自発的に動いているように見えても結局のところ流され続けている。


 ……それでも、前に進めているだろうか?進んでいると胸を張っていいだろうか?今はまだ分からないけど、バーゼッタを取り戻してこの争いが終わった時にはきっと……


「キリくん、大分難しい顔してるけど大丈夫?疲れたならあっちで少し休みなよ。」


「ああ、いや、少し考え事を……うっ!」


 唐突に鼻を衝く異臭。これは、この臭いは!


「うえぇ、何これ……」


 カスタードだけじゃない、周りの皆も顔をしかめている。勘違いなんかじゃない!しかし、ロワール自体は封鎖されていたはず。ここでこの臭いがするということは……


(我々に近付いただけならばこうすることもなかったが、リクシーケルンの名を騙った以上は制裁を免れない。代償として利用するだけさせてもらったが、それだけでは禊は終わらぬ。……さあ、君はどう動く?どう乗り越える?君の可能性を私に……我々に見せるのだ!)


「リクシーケルン、何処に居る!」


 答えは返らない。封鎖が解けていれば通信も回復しているはずだがその様子もない。どうやら彼女たちはとんでもない物を送り込んで来てくれたようだ。


「ユウト、これは!」


「ああ、間違いない。アントラメリアだ!」


「異質な感じ……エーテル特異体だな。場所は……あっちだ、急ぐぞ!」


 ミューに促されて駆け出す。おそらく行き先はパーキュリスの所だ。あいつを助ける形になるのは気が進まないが、彼女を止めなければ間違いなく被害はそれだけでは済まないだろう。急がなければ!


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