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第五章 消され往く真実 3



【バーゼッタ城・中庭】




「しかし、酷い有様だなこれは。」


「龍弥様、足元にお気を付けを。」


「ああ、お前もな、ナナ。」


 機械人形達が暴れ回った中庭の調査。彼女の事を警戒しているあの野郎らしい、と言えばそうだ。彼女に関して少しでも情報が欲しいようだ。それはこちらも同じだからこそ素直に従っているが、大量に散らばっている彼女の残骸を漁るのはあまり気分のいいものじゃない。


「しかし、どれもコアに相当すると思われる部分が貫かれていますね。」


「ああ、これじゃ有益な情報は得られないかもな。」


 パーキュリスがどうなったか分かるまでの時間潰しみたいなものだが、ロワールの封鎖も解けていないからか肝心の情報が未だに来ない。まあ勇人達の事だ、きっと乗り越えてくれているだろう。そうなると次はナナを向かわせることになる。出来ればそこで内密に勇人達との接点を持ちたいが……


「ああ、こちらにいらっしゃいましたか。」


 誰かが近付いて来る。龍のような二本の角、彼女は


「ドラグアグニルか、俺達に何か用か?」


「はっ、実はお二人にご相談がありまして、よろしいでしょうか?」


「ああ、いいぜ。」


 断る理由もないだろう。断って下手な言い訳でもすれば怪しまれることにもなるからな。


「もし、パーキュリス殿が敗れた場合、ナナ殿が向かわれると聞きました。そこで、もしよろしければ私も連れて行っていただければと思いまして。」


 まずいな、下手に断れないぞ。


 こいつは頭の角が示しているように普通の人間じゃない。……まあ、こちら側の奴等はほぼ普通の人間じゃないんだが……。中でも彼女は龍種という強い力を宿している一人らしい。詳しいことは俺には分からないが、強いということだけは分かる。単純な力だけでもそうだが、『撃喉』と冠しているように声……音に関する能力を持っている。ガルオムも声を放出して攻撃に使っているが、その使い方に関しては彼女の方が上かもしれない。


 勇人達を倒すのが目的なんだから戦力は多い方がいい。そして、彼女はアントラメリアやヒナマリアスと違って性格的に勝手な行動はしない。つまり、普通に断る理由がない。


「……龍弥様?」


「ああ……うん、いいんじゃねえか?戦力は多いに越したことはないからな。」


「はっ、ありがとうございます!必ずやお役に立ってみせます!」


 どうやら本当に用はそれだけだったらしく、礼を言うとさっさと退散してしまった。


「ふう……」


「なんとか、しないといけませんね……」


「ああ、どうしたもんか……」


 彼女は音に関する能力故かは分からないが耳がいい。もちろん日常的にそうではないらしいからこうした話も出来るんだが、戦闘中、特に集中している時は周囲でどんな音がしていようとも全ての言葉を聞きとってしまう。おそらく勇人達と対峙している時に耳打ちなんてできないだろう。


「少し考えがあります、任せてください。」


「わかった、任せる。が、無理はするなよ。」


 無闇に動けないところがもどかしいな。こちら側の情報が得られなくても問題ないなら俺が無理矢理動いてもいいかもしれないが、まだあの野郎が何か隠し持っているかもしれない。慎重に動くべきだろう。


「いずれにしろもう一息、って感じだな。」


「そうですね……あれ?龍弥様あそこ……」


 ナナが中庭の一角を指さす。中庭といえば機械人形の部屋への入り口もあったはずだが、あれとはどうも違う。


「何だこれ?」


「扉のようですが、ビクともしませんね……」


 叩いてみれば奥で反響するような音が返ってきた。大きな空間、何か部屋か通路のような感じだろうか?どこか開くための装置なり取っ手なりはないだろうか、そう思って周囲を探っていると


「あら、探し物かしら?」


 不意に声を掛けられて焦る。機械人形だ。


「あ、ああ、なんか妙なもんを見付けてな……」


 まったく気配を感じなかった。ナナも冷や汗をかいているようだ。捜索に夢中になっていたからか?それにしても俺はともかくナナが気配を感じないなんて……


「それを見付けたのね。いいわ、教えてあげる。そこはかつての実験場へと続く道。ストラーの話は当然知っているでしょう?」


「ああ、ここに来てから散々聞かされたからな。」


「そのストラーの実験場がそこにあったのよ。もっとも今は朽ち果てていて危険だし、特に有益な物もないからそうやって封印してあるのよ。もうほとんどの人はそこの存在すら知らないんじゃないかしら?」


 扉にそっと手を触れて懐かしむような顔をする。


「私が生まれた所でもあるけれど、あまり良い思い出はないわね……。さて、離れましょうか。私はあまりここに居たくないわ。」


 有無を言わさぬ口調に圧されて扉から離れたが、何か違和感のような物が拭えなかった。


「身体のパーツの修復に時間がかかってしまったから今の状況が良く分らないわ。どうかしら、教えてくれるついでに少しお茶でも?」


「ああ、俺は構わないぜ。」


「では、私もご一緒します。」


「ふふ、じゃあ私の部屋に案内するわ。付いていらっしゃい。」


 誘われるままに付いていく。何も悟られないように今の状況を伝えてそれで終わりだ。少しの休息と考えれば特に気を張ることもなかったな。


 そもそもここまで警戒する必要があるのかと言われれば、正直杞憂かもしれないとは思う。それでも得体が知れないのは確かだ。勇人みたいに彼女との交流があったわけでもない。今しばらくは現状維持で行こうと思う。




 ……違和感……機械人形……あの扉……。後日ふとあの辺りを散策していた時、あの扉に向かって行く足跡が若干残っているのを発見したが、あれは一体誰のだろうか?


 トーマの野郎か?ストラーに心酔している奴の事だ。充分にあり得るが、あの野郎が足跡を残せるかどうかが疑問だ。


 機械人形……だとして彼女がそこに行く理由は?良い思い出はないと言っていたが、そうではない?


 もしくは別の勢力が?


 ここにきて新たな疑問が生まれてしまったが後回しにせざるを得なくなった。ようやくロワールを包んでいた謎の現象が解消され、パーキュリスが敗北したと情報が入って来た。余計な事に労力を割く暇はなくなってしまった。


 もう少し……もう少しでこの茶番も終われる。長かったがようやく勇人と面と向かって話せるようになるんだ。今はその時だけを信じてナナと一緒に前に進むしかない。

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