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第四章 紛い物の結末 3


「身を隠した?フハッ、いやいやいや、別に何か考えているのかな?今すぐ彼にそんな物は無意味だと思い知らせてあげてもいいが、まずは目の前の君達に無力感を味わわせてあげよう!」


 キリくんが居なくなったことに警戒すらしない。もしかしなくてもアタシの考えは読まれてるんだろうね。でも、たとえ彼の向かった先に罠があったとしてもやるべきことは変わらない!


「ッ!」


「おっと、いくら私でもまともに君の攻撃をくらってはひとたまりもない。さっきの一発だってまだ響いてるんだよ。だから……」


 パーキュリスが地面を蹴り後方に一気に飛び退いていく。


「遅いよ!」


 追えない速度じゃない。充分警戒しながらもう一度距離を詰める。


「集え、光球!」


 小さな光の球?これって初歩的な魔法だよね?属性も何も持たせないただのエーテルの塊、簡単に弾き飛ばせそうだけど……


「カスタード下がってください!」


 やっぱり怪しいよね。気功で脚力を重点的に強化、一気にリリちゃんとゼオくんの所まで後退。その瞬間光球が炸裂してアタシが立っていた場所を吹き飛ばしていた。


「カスタード、呪文に惑わされたら駄目だよ。」


「魔法に重要なのはイメージと精神状態の高揚、だよね。気を付けるよ。」


 パーキュリスの方を見やればニヤニヤと笑いながら新しい呪文を唱え始めている。ホントに余裕綽々って感じで嫌になる。


「カスタード、あの魔法は私が防ぎます。直後に閃光魔法薬で一瞬視界を奪いますからその隙を突いてみてください。」


「魔法、使えるんだよね?詳しく追及なんてしないから思いっきり活用してぶっ飛ばして来たまえよ!」


 まぁ、そりゃバレるよね。ゼオくんには二回も見せてるわけだし。


「うん、任せてよ!」


 今度は一発と言わず喰らわせてやるんだ!


「こそこそと何をするつもりか知らないが、無意味な策ごと消し飛ばしてあげよう!」


「気高き永劫の轟炎よ、炎の城塞を此処に!大いなる灼熱の内に全てを納め守護せよ!!」


 双方の詠唱が同時に終わる。向こうからは大量の水が津波のように押し寄せてきてるけど、リリちゃんの魔法はそれすらもあっさりと防いでいるように見える。流石は防御魔法のプロフェッショナル!


「見惚れてる場合じゃないよ。カスタード、準備は良いかい?」


「うん!」


 アタシが頷くのを確認してゼオくんが魔法薬を取り出す。光に備えて目を閉じて顔を背けて、そして一番得意な呪文を唱えていく。


「陽炎纏いて我が身を隠せ、風前、吹き消えぬ蜃気楼……」


「攻撃が終わります!」


「いくよ!」


 閃光、それに合わせて詠唱を完了させる!


「とこしえの幻、その目を欺きたまえ!」


 強烈な光だけど効果は一瞬。でもその一瞬で充分だ。怯んでいる奴の側面に一気に詰め寄って、体勢を整え、その脇腹に右の拳をめり込ませた!


「ぐえぇッ!な、なに……ッ!?」


 体を折って悶える。状況を確認しようと素早くこっちを向いてくれたのは好都合だ。勢いを殺さずにその顔面を左の掌底で突き飛ばす。そして、無防備になった胴体目掛けて深く踏み込み突き刺すように再び右の拳をめり込ませていく!


「フゥッ!」


 さらに力を込めて拳を捻り体内のより深くまでダメージを浸透させていく。ホントの敵じゃない限りここまでのことは出来ないからね。もう少し念入りに……


「うっ……」


 不意に寒気がした。同時にパーキュリスと目が合う。


「障壁!?防がれた!」


 掴み掛かろうとしてくるのが見えた瞬間飛び退いていた。


「ちぃっ!ゲホッ……何かしてくるだろうと思ったからこそ強めの障壁を貼っておいたというのに、なんて威力をしているんだい……。」


「んぅ、結構いいのが入ったと思ったんだけど障壁は破れなかったね、残念。」


 ふと、リリちゃんが後方から奇襲をかけようとしているのが見えた。ここで手を止めるわけにはいかない、もう一度構えて同時に攻撃を繰り出す。


「フフフハハハハッ!!甘い甘い甘い!!」


 あっさりと障壁で受け止められ二人とも弾き飛ばされてしまった。さっきまで結構手を抜いてくれたんだね、困ったな……


「さて、リカステドラータ、リリィク姫、そしてゼオ君、君達に質問だ。私はこれから彼の向かった先に行こうと思うんだが、君達は私を足止めし続けられると本気で思っているのかい?」


 そんな質問、答えは決まってる。


「当たり前じゃん。」


「ええ、当然のことですね。」


「それが僕達のやるべきことだからね。」


 キリくんが一人で頑張ってくれてるんだからアタシ達も……あれ……?


「良い答えだね。だけどもう、君達はここから動けないよ。」


 体が動かない……。どうやらアタシだけじゃないみたい、まずいかな……


「そうだね、時間にして五分ぐらいかな?果たして君達は間に合うかな?フフッ、そうそう、小娘の分際でなかなか良いステルスだったよ。君は魔法が使えるんだね。ということはあの時のあの感覚、もしかして施設を探索でもしていたのかい?だとしたらあの扉を開けなかったのは正解だったと言っておこうか。あそこには私のペットが放してあってね、彼はそこに行くんだろう?かわいそうに、あの忌まわしい小娘を解放すれば確かに私には勝てたかもしれないが、その前に死んでしまうかな?フッ、フフフ、フフフハハハハハハッ!」


 駄目だ、微動だに出来ない。いつの間に魔法をかけられてたのかも全く分からないな……


「さて、私は一足先に彼の死に様でも見に行ってくるとしようかな。君達も動けるようになったら来るといい。……おっと、君の部下は優秀だね、ちゃんと周辺住民の避難誘導をしていたようだよ。相手をしてあげてもいいが、煩わしいからね。転移魔法で行かせてもらうよ。」


 少し長めの呪文を悠々と唱えて地面に現れた陣の中に消えていく。皆こっちに駆け付けてくれたけど間に合わなかった……


「リカステドラータ様!……硬化?」


「いや、違うぞ!リリィク様もゼオ様も動かない!」


「ふん、行動制限でも掛けられたか?まったく手を焼かせる……エーテル、解除方法を出せ。」


 皆に混じっている偉そうな態度のこの子はいったい……。漆黒の髪に真紅の瞳……まさか、伽の守人!?


「ようやく中に入れたと思えば中々に面倒なことになっているな。動けるようになったら手を貸してやる。」


 彼女が触れるとその場所から血が巡るような感覚がして身体が自由を取り戻していく。


「あ、ありがとう。」


「事が終わるまで礼はいい。勇人はどこだ?」


「通信施設にココを解放しに行っています。」


「でも、そこにパーキュリスが向かってしまって……」


「ふん、天上の意思もそこだな。……ん?転送魔法を使った形跡があるな、これの行き先は分かるか?」


 不意に真紅の瞳に見つめられてドキッとしてしまう。とても力強い意志が宿った瞳だな……


「んぇ、アタシ?う、うん、あいつが施設に向かうって言って使ったやつだよ。」


 好都合、そう呟いて地面に手を当てるとさっき現れた魔法陣が再び姿を現す。


「行くぞ、飛び込め!」


 そう言いながらアタシとリリちゃんを引き摺りこんでいく。強引すぎるよこの子!


「カスタード!姫様!」


 ゼオくんも慌てて魔法陣に飛び込んでくる。


「他人が使った物の使い回しだ、転送には少し時間が掛かる。それに敵がいるなら出た瞬間襲われる可能性もある。覚悟だけはしておけ。」


「はい!……勇人、どうか無事で……」


 うまくいくとは思ってなかったけど、予想外に混乱してしまって皆に無理させてしまってるな……。

 ホント、キリくん、どうか無事でいてね。じゃないとリリちゃんが後で怖いから……


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