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第四章 紛い物の結末 2

「ほう、君達は関わっていないと?あの小娘が一人で何処かへ消えてしまったと、そう言うのかね君達は!?」


 話は一向に進まない。お互いが原因を知らないから当然だ。向こうはこっちが手引きしたと決めつけてくるし、反対に俺達はこいつが何かしたんだろうと考えている。平行線で交わらない言葉の応酬はいつしか感情のぶつけ合いの様に二人が怒鳴り合うだけになってしまっていた。


「だから最初からそう言ってるじゃん!アタシ達だってあの子が一人で居なくなるなんて完全に予想外なんだし、勝手にそういうことにしてこっちに因縁ふっ掛けてきてるんじゃないかな、ぐらいには考えてるけど。どうなの、リクシーケルン!?」


 不意にリクシーケルンが眉をひそめる。見る見るうちに怒りの表情に変化し拳を握り締めると、その感情のまま思いっきり壁に叩き付けた。


「まったく、いつにも増して失礼な小娘だ!私の名前をわざと間違えて挑発しているつもりかい!?私の名はパーキュリス、『パーキュリス・ランデム』だ!二度と間違えないでくれたまえ!大体何だね、その名前は!聞いたことも……?……リクシーケルン……?」


 誰もが沈黙していた。名乗った本人でさえ困惑の表情を浮かべている。焦りからうっかり間違えたとかそういうものではなさそうだが……


「パーキュリス、それが貴方の名前なのですね?」


 一瞬の隙、リリィクは迷わず剣を引き抜き踏み込むとパーキュリス目掛けて振り下ろした。


「ふんっ、そんなひ弱な剣で!」


 素早く呪文を唱え障壁を展開、剣を弾くとそのままリリィクに向かって手をかざす。


「天上より来たりて我が手に宿れ、選びたるは炎、雷、在るがままに屠れ!」


呪文を唱える、ということはエーテル特異体に至っているわけではないということか?


「ハァッ!!」


 リリィクとパーキュリスの間にカスタードが割って入りかざされた手を弾く!俺も遅れないように続こうとしたがゼオに腕を掴まれた。


「ユウト、君は行くんだ。想定とは全然違う状況だけど、きっと二人がアイツをここに食い止めてくれるはずだよ!」


 俺は迷う。ゼオの言うとおりここで行かなければチャンスはないかもしれない。だが、こいつの強さが未知数だ。全員で力を合わせた方が良い結果に動くような気さえしてくる。


「フハハハッ、遅い遅い遅い!小娘の分際で、私の魔法を止められるとでも思ったのかい!?そら、捕まえた!」


「それはお互い様!」


 お互いの手を握り潰さんばかりに掴み合ってカスタードとパーキュリスが睨み合う。


「カスタード!!」


「来ないで!」


 加勢しようとしたリリィクと俺を一喝すると、カスタードは勢いよく息を吸い込んで全身に更に力を込める。


「リリちゃん、キリくん、障壁を全力で!この辺一帯吹き飛ぶかも!」


「それだけの予測をしていながら、それでも私を抑えておくつもりかい?まあ、この距離だ、君は間違いなく木端微塵だろうね!フフッ、フフハハハハハハハ!!!」


 パーキュリスの腕が左右それぞれに炎と雷を迸らせ始める。しかし、カスタードを守る術が俺達には……!


「キリくん、迷わないで!アタシは大丈夫だから!!」


「……ッ!リリィク、障壁を!」


 迷うな!彼女からも指摘されていたじゃないか。だから、その言葉を信じてここで迷うな!


「噴出する轟炎!蹂躙する轟雷!ハハッ、消し炭だ!!」


 詠唱完了、パーキュリスの両腕から生み出された炎と雷が周囲を物凄い勢いで蠢いて行き、瞬く間に一帯を炎の海に変えた後、力を持て余しているかのように激しい閃光を放ち爆炎と共に一気に全てを吹き飛ばしてしまう。奪われた視界の中で何か金属を弾いているような音が断続的に響いていた。


「ほほう、これはこれは、これが噂に聞く気功の奥義かな?まさか無傷で防ぎ切られるとは思いもしなかったよ、フハハッ!」


「ゲホッ、煙たいなぁもう……。『硬化』は疲れるからあんまり使いたくないんだよね。使ってる間は動けなくなるし。」


 徐々に晴れていく煙の中でお互いに牽制し合いながら距離を取っていく。リリィクが咄嗟の判断で周囲一帯に障壁を張ってくれたようで、吹き飛んだのは屋敷の玄関部分だけに止まっていた。


「キリくん、準備はいい?」


「ああ、やるしかないからな!」


 カスタードが頷くのを見て、それから目的地の方を見る。洞窟でやったように障壁を攻撃魔法で押して飛んで行くのが早いだろう。加速で街中を駆け抜けるのは流石に危険だからな。


「もう、どちらも危険に変わりはありません……。勇人、気を付けて。」


「ああ、行ってくる!」


 まずは一気に垂直に飛び上がって、すかさず通信施設の方に飛ぶ。そのイメージをしっかり固めて……


「こそこそと何をするつもりだい?」


 カスタードと睨み合っていたパーキュリスがこちらを向いて再び手をかざす。まずいな、もう一度さっきみたいなのが来ると迂闊に動けなくなる。カスタードは……あれ……?


「勇人、詠唱を。ゼオ、タブレットから緑色の魔法薬を。」


「了解だよ。」


 ゼオが手際よくタブレットを操作して緑色の魔法薬を取り出しリリィクに手渡す。それを彼女は躊躇なく俺に振りかけた。いったい何なんだ……。


「潜伏の魔法と同じ効果があります。すぐに効果が表れるはずです。」


「そ、そうか、ありがとう。」


 振りかける前に一言言ってほしかったが……まあ、これで向こうに着いてからも安心だ。


「無駄な足掻きはやめて、ここでまとめてくたばりたまえよ!さあ、天上より来たりて我が手に宿れ……」


 パーキュリスが詠唱を始める。さっきと同じ呪文、当然リリィクの目の前で唱えたのだから中止させる条件は満たしているはずだ。だが……


「……エーテルが止まらない?……キャンセルできない!?」


 止まるはずのエーテルの奔流が止まらない。パーキュリスは構わずに詠唱を続けている。


「選びたるは……フフッ、風、氷、フフフハハハハハハッ!やはりな!少し呪文が違うだけで充分対応できるじゃないか!君のその能力は抜け穴だらけなのだよ!」


 こちらも詠唱はしているが、飛び上がる分と直進する分、合わせて二回だ。間に合うかどうか……


「在るがままに喰い破れ!吹き荒ぶ烈ぷうぐへっ!」


 詠唱が完了する直前、カスタードに思いっきり顔面を殴られて吹っ飛んで行く。いや、それよりも今彼女は何処から現れた?あいつの注意がこちらに向くまでは確実に睨み合っていたはずだ。そのままもう一度取っ組み合って防いでくれればいいなとすら思っていたんだが姿が見えなくて……


「はいはい、一人で盛り上がらないでよね。あと、キリくん、さっきも言ったけど疲れるからあんまり硬化はしたくないの。別の方法が使えそうだったし、更に隙が出来たなら魔法発動前に潰すよ、まったく……。さぁ、早く行って!」


 そう言ってまったく見当違いの方向を指さす。


「カスタード、勇人はこっちです。」


「いや、こっちだよ。」


 二人もまったく見当違いの方向を指さす。何をやってるんだ、いったい……?


「んぁ、リリちゃん、キリくんに振りかけた潜伏薬ってどんだけ強力な物使ったの?ほんの一瞬で完全に気配感じなくなったし声も聞こえないんだけど……」


「タブレットから出しましたし賢者様の調合した物かと……ここまで強力だとは思いませんでしたが……」


「と、ともかくユウト、何処に居るか分からないけどさっさと行きたまえよ!ほら、あいつも起き上がりそうだし!」


「あ、ああ、わかった!」


 ってもしかしてこれも聞こえてないのか?頼むから使う前に効能の強さぐらい確認しておいてくれ……。動いてないのに見失うとか危険すぎないか?


「突風よ!」


 みんなを巻き込まないように少し離れてから魔法を発動させる。行き先は通信施設。目的は発電装置を止めること。もう後には退けない!


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