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第一章 強襲 2

【バーゼッタ城・龍弥の部屋】




「龍弥様、読書中失礼します。彼らはロワールへ向かう洞窟へと入ったようです。」


「そうか、御苦労。下がっていいぜ。」


 ナナからの報告を受けながら、この部屋をトーマが監視している可能性を考慮して下がらせる。彼女もそれを理解しているからこそ黙って去ってくれる。少し悲しげな表情を見せるのが心に刺さる。


『語部七美』、それが俺達の幼馴染である彼女の本名ではあるが、この世界に来てからはその名を名乗ってはいないし姿も変えてしまっている。まだ全容を語ってくれる機会は得られてないが、彼女自身並々ならぬ決意を持って動いているようだ。迂闊に話せばトーマに聞かれてしまうかもしれない現状で彼女の判断は正しい。そもそもがあの野郎を倒すために動いているのだから警戒して当然だ。


 勇人のやつがナナの正体に気付いていないのは分かっている。もちろんそうするようにしたのも彼女自身だ。中と外から崩す為、オレはナナを気に入ってトーマに付いた道化みたいになっているようだがそこは問題じゃないだろう。あの野郎にはそういう認識でいてもらった方が動きやすい。


 さて、俺だってここでずっと手をこまねいているわけではない。あいつが来る少し前だったか、少々苦労したがラトラの隠密集団キサラギの者と接触することが出来た。当初はトーマの動きを探るために依頼をしていたわけだが、徐々に調査を進めるうちにどうもあの野郎には実体がなく、この世界のどこかに身を潜めてあの幻像を動かしているらしい事が分かってきた。どうやらガルオム王もそのことには感付いていたらしく、先日の騒乱以降ワイズマン隊がその居場所を探っている。


 そうなればこちらの出る幕じゃない。国外から忍び込んで秘密裏に探らせるよりは、あちらに任せた方が遙かに効率がいいはずだ。そこで依頼内容を変更、勇人や姫様の動きを追うことにした。依頼を受けてくれていたのは一人の青年だったのだが存外判断が早く、騒乱の中でワイズマン隊が姿を消していたことに気付くと即座に報告と依頼内容の変更を提案してくれたのには少々驚いたが、正直なところそのおかげで勇人達の情報が入ってくるのだから感謝しかない。


 その情報の中で一つだけ気になる点があった。伽の守人だ。勇人が話していた内容のようだが、どうもオレと七美をここに召喚したのは彼女ではないらしい。勇人自身彼女と接触して詳しく話をしているようだが、夢の中?謎の精神空間?そんな発言が出ている以上は判断に困る情報だ。


 彼女の姿を模してオレ達を召喚することに何の意義があるのか?その人物とは如何なる者なのか?ガルオム王もトーマも賢者様ですらそこには気付いていないようだったし、何かオレ達が触れてはいけない存在が動いているような嫌な感じがするな。


「おやおや、龍弥殿は勤勉でいらっしゃるようだ、ウククククク……」


 突然、気配もなくすうっとトーマが背後に現れる。


「この世界についてもっと理解を深めたいからな。その為には本を読むのが一番だと思うが、何か変か?」


 この本は送られてくる情報を見るためのものだが慌てる必要はない。ラトラの技術で作られたこれは、歴史書の体を整えた文章が書き連ねてあり誰がどう見てもこの世界の成り立ちを示すものだ。この本を見るときに特殊なレンズを装着している者だけが情報を見ることができ、また、ちょっとした手の動きで必要な情報のピックアップや重点的に調査して欲しい点の指示などが出来る。特殊レンズはコンタクトレンズ型になっていて余程の事がない限り誰かに気付かれるということはない。


「ウククク、いやいや勤勉なのは良い事だ。だが、そろそろ動いてもらうぞ?」


 姫さま御一行の始末、こいつの復讐の手助けのことだな。


「ああ、だがロワールにはもうお前が手を出してるんだろ?」


「当然、抜かりなどない。だが、万が一ということもある。」


「今はナナに動いてもらってる。それでも駄目なら動くさ。」


「まあ、結果的に目的を達成できるのなら貴様達が好きに動いても問題はないか。だが……いや、きっと相手が友人であってもやってくれるのだなぁ?ウククククク!」


「あんまり挑発すんなよ。気が変わっちまうかもしれないぜ?」


 人の返答なんか聞かずに気味の悪い笑いを残してトーマが去っていく。部下、というか自分が使う奴らに対して関心は強くないようだ。たまにこうやって抜き打ち検査みたいに様子を見に来る以外は言葉を交わすこともない。正直なところ、監視もしていない可能性が高い。霧四肢が倒されたと聞いた時も特に動揺することはなかったのを見るに、結局の所あの野郎にとって重要なのはストラーとやらの事よりも自分の復讐なんだろう。ガルオム王を如何に苦しめるかが重要であって、それ以外の事は瑣末なことにすぎない。


「それよりも……」


 トーマが連れてきたストラーを名乗る少年、あの子は一体どういう存在なんだろうか?全く情報がない。王様や姫様は何か知っているようだが……。


 その時、考え事を中断させるかのように緊急の報告が表示された。



 対象に危険が迫っている。こちらも場合によっては任務を放棄し帰還する。



 目を疑うような報告だが、同時に添付されていた画像を見て得心せざるをえなかった。


「これは……勇人、無事切り抜けてくれよ……」


 おそらく彼女は刺客の中でも最も厄介な人物。トーマがこのタイミングで動かすとは思えない。さては勝手に動き回っているな。厄介だ。七美も下がらせておかないとな……


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