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第二章 束の間の休息に 6

「はあ、私はなんということを……」


 広い湯船にカスタードと二人、先程までここに勇人達が入っていたと聞いて宴会での失態を思い出してしまいます……。


「んぇ、可愛かったからいいんじゃない?キリくんも満更ではなさそうだったし、物凄く慈愛に満ち溢れた顔でリリちゃん撫でてたし。」


 それを聞いて更に恥ずかしさが溢れて来てしまいます……。そもそも私、今までお酒は会食等の際に最初の一口ぐらいしか飲んだことがなったのですが、それでもあそこまで乱れたことはなかったと記憶しています。いったい何が原因でああなってしまったのでしょう?


「カスタード、お酒に何か変な物とか入ってなかったですよね?」


「リリちゃん、残念ながらあれは普通のお酒だよ。他にも種類はいっぱい用意してたけど、ゼオくんがほとんど全種類を水のように飲んでしまったから他のも全部大丈夫。」


 だとすると、単にアルコール濃度が高かったとか、そういうことなのでしょうか?それでも納得したくはないですね……。


「うう、次に勇人に会う時にどんな顔をして会ったらいいのでしょう……。」


 駄目です、どんどん恥ずかしさだけが増してきてしまいます。顔から火が出そうとはまさにこのことですね……。


「ん~、リリちゃん、もしかしてキリくんともっと思いっきり触れ合いたかったのかな?町で見かけた時には手を引いたりしてたから、結構深い仲なのかな?とか思ってたけど、ホントのところはどのぐらいの仲なのかな、聞いてもいい?」


 私と勇人の関係……どう説明すればいいのでしょう。幼い頃に会っているのは間違いない思い出ですが、勇人にはその記憶がありません。そして、確かにその時に彼に強く惹かれて以来ずっと想い続けているのが私……ですが、これが私の本当の想いなのか自信はありません。制約で抑え込んでいるものが私にある限り、私の本心なんてきっと誰にも解らないでしょう。……森でのことのように抑えがきかなくなる可能性もあります。そうなれば本当に私なんて言うものはなくなってしまうでしょう。私はそれが怖い。勇人に会えなくなるのは怖い。


「……大切な人ですよ。いつも一緒にいて、たくさん話をして、たまには手合わせをしたり、一緒に調べ物をしたり、辛い時には抱き締めてくれたり、寝る時に寄り添ってみたり……」


「ちょ、ちょっと待って待って!後半ものすごく気になるじゃん!も、もしかして、キスしたりとか!?」


「そ、それはまだです……」


 まだ……きっとそれは確実に想いを伝えることに該当してしまうから……。


「あ、そっか、制約なんてのがあったね。……でも、それってもしかして酔っ払ったまま寝落ちしなかったら危なかったんじゃ……。」


「うっ、その可能性は無きにしも非ずですね……。しばらくお酒は何があっても控えましょう……。」


 自分で思い出してみても大層な甘えぶりだったと思います。たしかにあのままだと想いを告げてしまっていたかもしれません。でも、正直なところ甘えることが出来たのはとても気分が良かったです……。ふ、二人きりの時ならあそこまでとは言わずとももう少し甘えてみてもいいのではないでしょうか……?駄目でしょうか……?


「リリちゃん、顔真っ赤だよ?」


「はっ!いえ、大丈夫です。少々考え事をしていたものですから。」


 いけません、私としたことが……


「もしかしてだけどさ、アタシがゼオくんにベタベタしてるの見て少し羨ましくなっちゃったとか?」


「うっ、それもあるのかもしれません。」


 ですが、私が勇人にああいうことをするとなると、流石に今まで頑張ってなるべく抑え気味に接してきたことが無為になるようで……


「んぅ、乙女心は複雑だねぇ。」


「その言葉、そっくりそのままお返ししましょうか?」


「いやいや、アタシは単純明快だよ?」


「はあ、そうですか……。」


 肩まで浸かって夜空を見上げる。奇麗な星空……勇人もこうやって星を眺めたのでしょうか?


「ねぇ、リリちゃんってさ、肌とか髪とか結構気合い入れて手入れしてるよね?」


「それはそうですね。城に居る間は王族としてあらゆる面で恥ずかしくないようにしなくてはいけませんでしたので。」


 もちろん、それだけではありませんが。


「そのおかげでキリくんが撫で続けても飽きないほどの髪を手に入れたんだね!」


「カ、カスタード、貴女だってゼオの為に頑張っているんでしょう?先程だって念入りに色々やっていたじゃないですか。それに、その、これは関係ないかもしれないですけど、胸だってすごく大きいですし……。」


 ……はい、大きいです。私もないわけではないですが、あれほどのものを見せつけられては落ち込みもします。


「ふふふ~、愛ですよ、愛。」


「はあ、そうですね。よかったですね。」


「まぁ、アタシって結構たくさん食べる方だし、毎日ゴロゴロして過ごしてるから余計な肉が付いちゃうんだろうね。はぁ、やだやだ……。」


 それは嘘でしょう。彼女は私の知っている限りでは日々の鍛錬を欠かすことがないですから。その証拠に、確かに肉付きの良い身体をしてはいますが、しっかりと引き締まっていて弛んだりはしていないのです。


「あれ?でもリリちゃんって相当食べるよね?間違いなくアタシよりも遙かに……。あの栄養達はどこに……。」


「あまり言いたくはないのですが、制約の維持にほぼ全て消費されていますよ。」


「んぇ、あれってそんなにヤバい代物なの!?」


「ええ、ですがそこまでしてでも維持しなければならないものです。」


「……ということは、制約がなくなるとリリちゃんはブクブクと太っていっちゃうんじゃ……。」


「お、恐ろしい事を言わないでください!流石にそうならないように気を付けられるはずですから……。」


 制約が解けて想いが通じ合っても、太って勇人に嫌われるようなことになったら絶望しかないですからね。そこは気を付けていきましょう。


「はぁ~あ、もうこのままずっとここに居た~い。……けど継承戦の話し合いとかあるからもうそろそろ上がって寝ないとね。」


「そうですね。上がりましょう。」


 その後、それぞれの部屋に戻って床に就きはしたのですが、やはり宴会のことが思い出されて眠れません……。制約、あの時はあれを掛けなければならない状況でした。それは間違いありません。ですが今、勇人が一緒に居てくれる状況ではその選択自体が間違いだったのではないかと思ってしまいます。……まったく、私もまだまだ未熟ですね……。


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