ウェーイ
若さとは、時として強さがあり、かけがえのないものである。そんな若さを兼ね備えた数人の男女が、辺り深緑豊かな山奥の河川敷でバーベキューに興じていた。
誰か一人が「ウェーイ」と言い、また別の誰かが「ウェーイ」と言った。きっと、「ウェーイ」ではなく、ひょっとしたならハッキリとした言葉だったのかもしれないが、他者からすれば、それは何故か「ウェーイ」としてでしか捉える事が出来なかった。
しばらく経ち、ポツリポツリと雨が降りだした。雨脚は次第に強くなり、強風が木々の枝を揺らした。
しかし、若者達は楽しいバーベキューを止める事はない。そこへ、パトロールにやって来た巡視員が言った。
「おい、君達。雨風が強くなってきた。ここは危険だからバーベキューはやめて避難しなさい」
「ウェーイ」
若者達は誰一人として巡視員の警告を聞き入れる様子もなく、ビールを飲んでいる。
「いいね、早くここを立ち去るんだよ」
巡視員は若者達に念を押すと、その場を去っていった。巡視員が去った数時間後、上流で決壊したダムの水が若者達を襲い、若者達は帰らぬ人となった。
「ウェーイ」
あの世で、最近閻魔になったばかりの若閻魔と、水害で亡くなった若者達がビールで乾杯をしている。そんな様子を見ていた地獄の鬼達は、「これも時代の流れなのだろう」と思った。