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出会いは偶然か必然か。コイントスでは示せない可能性

「ヴェント。お前とは、もう共に戦えない。……、パーティを抜けてもらうぞ。いいな?」


 そう告げたのは、幼馴染でありパーティリーダーのリアンだった。


「どうして急に……!」


 僕は訳もわからず酒場のテーブルを思い切り叩いて、立ち上がった。

 急に立ち上がった僕は大いに目立っていたのだろう。

 沢山の客の視線を感じた。


「理由を知りたいのか? ……そんなの一つしかないだろう。お前では力不足だからだ」


 リアンは碧目に侮辱の情を浮かべて僕にそういった。


「それは……!」


 ……確かに、パーティメンバーの実力と、僕の実力の差は分かっている……。

 僕は今、中級魔法までしか使えない。

 それなのに冒険者ギルドからAランクの評価を受けている。

 これは、仲間達のお陰だ。


 僕自身このパーティにいていいのか悩んだこともある。

 パーティランクSになったこのパーティは受ける依頼も難しいものとなってきいて、僕の実力が足りなくなってきていることには気付いている。実際に、以前僕が中級の魔法を詠唱しているときに魔物に狙われて、僕を庇った聖騎士のジェイクが大怪我を負ったことがあった。


 治癒師のシェリーが回復魔法をかけてジェイクは一命を取り留めたが、そのときも力不足だからこのパーティから離れろとリアンに言われた。

 でも、このパーティにいていいのか悩んでいた筈なのに、実際にリアンからそう言われると、「離れたくない」という至極自分勝手な気持ちが湧き上がり、気付けばリアンにここにいさせてくれと拝み倒していた。


 しばらくそうしたら、リアンが折れてくれたので、今もこのパーティにいることが出来ている。


「でも、最近は調子よくなってきてる! だから考え直してくれないか?」


 あの一件があってから、僕は戦い方を模索して、出来ることも増やしてきた。

 最近はまだパーティのみんなの実力に追いつけなくても、だんだんと力もついてきた実感もあって、このまま努力すればいつか追いつくことが出来そうだと自身を付けてきていた所だった。


 だから、急にあんなことを言われて、正直少し困惑もしている。


「調子よくなってきている? ……未だに上級魔法も使えないのに? 相変わらず役立たずじゃないか。

 多少は足を引っ張らなくなった程度で、随分と鼻を高くするのだな」

「鼻を高くなんかーー!」

「黙れ。勇者であるこの俺が話しているところだ」


 リアンが眉間にシワを寄せてそういった。


 幼馴染は変わってしまった。

 以前故郷の仲間と供に4人でパーティを組んでいたのだが、そのうち僕以外の二人をパーティから追放したり、二人の抜けたあとに二人の代わりにやってきた仲間も、しばらくーー上手く連携も取れるようになる頃にはまた不機嫌そうに追い出したりと、なんというか……薄情になった。


 そして、また二人の代わりに呼んできた人達も、それ以上の実力の人をリアンが見つけ、スカウト出来ると切り捨て、パーティから離れさせたり。

 そんなことが何度も続き、今のパーティがある。


 それもこれもリアンが神剣に選ばれた勇者になってしまったからだ。

 勇者になってからリアンは変わった。


「前にお前を切捨てなかったのは、みっともない懇願が煩わしかったから……というのもあるが、魔術師の変わりが居なかったからだ。だが、今は違う」


 物凄く、嫌な予感はしていた。

 この酒場にはジェイクとシェリーの姿はなく、リアンと共にいたのは見たこともない魔術師の女。

 まるで新しい仲間ですと言わんばかりにリアンの隣にいた。


 今まで仲間を追い出すときも、リアンは仲間の一人を呼び出し、新たなパーティメンバーを隣において、お前は要らない。と切り捨てたそうだ。


 たまたま、街で出会った元仲間がそう言っていた。

 パーティ追放の儀式なのだろう……。


「彼女は特級魔法を使える魔術師だ。中級魔法までしか使えないお前とは比べ物にならない実力を持っている」

「ふふ、私はメイシャ。新しい勇者パーティの一員よ。……残念だけども、中級魔法"程度"しか使えない魔術師は、勇者のパーティに相応しくないわ。

 以前は子供みたいに泣き喚いてみっともなくこのパーティに居座ったそうだけれど、今回はいい加減諦めて離れなさい」


 メイシャは微笑みを浮かべて僕にそういった。

 言うまでもなく僕を侮辱している。

 明らかな悪意に僕はムッとして、メイシャを睨み、


「馬鹿にするな! ーー」

 といった。

「何を行っている? 馬鹿にされる程度の実力しかないから、お前を追い出すんだ」

 更に反論の言葉を紡ごうとしたところでリアンがそう被せた。

 思わずリアンに目を向けると、リアンは先程より鋭く僕を睨みつけていた。


「ジェイクとシェリーには既に話を付けている。二人共お前を追い出すことに快く賛同してくれたよ。お前のお守りは懲り懲りなんだそうだ」

「ぇ……」


 最近、上手く行っていたと思っていたのは、僕の勘違いだったようだ。

 そんなのって……。

 そして、また、


「もう一度言おう。……お前とは、もう共に戦えない。去れ」


 僕は不要なのだと、言ったのだ。

 ……。


「っ……ああ、……。分かったよ」


 なんだ。もう、必要ないのか。


『ジェイク君、いつかここから出て一緒に旅をしない? ……そしたらきっとすごーく楽しいよ!』


 そう言って手を差し出したリアンは、僕が邪魔になったのか。


『ねぇ、ジェイク。この杖使って。王国の宝物庫の武器は幾つか使っていいんだって。わ……俺、ジェイクにはずっと一緒にいて欲しいから。勝手だけど……これからも俺を支えて欲しい』


 僕は悔しくて手を握り締め、以前リアンから渡された聖杖を持ち……、


「ああそうだ。その聖杖は置いていってくれ。お前には分不相応な代物だからな」

「あらあら、いくら本当の事とはいえ可哀想よ。ふふ、でも、自分の実力も分からず支給された聖杖を持ち去る人には、それくらいハッキリ言わないと置いていかないわね」

「……」


 聖杖はリアンに押し付けるようにして、僕は酒場を出た。


・・・


「勇者様に大してなにあの態度……。ハァ、あんなのが勇者パーティの一員だったのね。今までお疲れ様、勇者様」


 ひとしきりそう言ったあとメイシャはクスッと笑った。


「でも、思いの他あっさり抜けたわね。聞き分けのいい子供みたいに」


 出ていったヴェントを思い浮かべてメイシャはそう評する。


「上級魔法も使えない魔術師なんて、Dランクパーティにでも入っていればいいのよ。……ねぇ、勇者様?」


 今度はどこか媚を売るような眼差しでリアンに同意を求める。


「……? 勇者様ーー!?」


 しかし、うんともすんとも言わないリアンに首を傾げながら見ると、そこにあった表情にメイシャは怯えた。

 まるで、憎悪を抱きながら戦う狂戦士のように歯をむき出しに、ヴェントの出ていった扉を睨み続けていた。


 中性的で誰もが見惚れるリアンの顔は、鬼の形相だった。


・・・


 僕は、走る。


 歯を食いしばりながら、一刻も早くリアン達がいる酒場から離れるために。

 道行く街の住人達が何事かと僕を見ている気がするけれど、どう表現していいのか分からないぐちゃぐちゃとした感情から流れる涙がそれをしっかり認識させない。


 僕が不要なのだという悔しさと、僕がパーティで一番の役立たずだという情けなさ、何より、喪失感。

 走っているからか、上手く息が続かない。


 息苦しい。


 ドンッ。


 人のさざめきたつ街中をひたすらに走っていたからか、誰かにぶつかってしまった。


「っ……、いてて」

「す、すみません……!」


 僕は転ばなかったが、僕がぶつかってしまった人は尻もちをついたようだった。

 ぐちゃぐちゃだった感情と、それをぐるぐる考えていた頭は、人とぶつかってしまったことで冷やされ、強制的に現実に戻された。


 ぶつかってしまった人には悪いけど、お陰で正気を取り戻せた気分だ。


 泣いてばかりいたら、きっとぶつかってしまった人が困惑するだろう。

 服の裾で濡れた目を擦り、もしかしたら怪我をしているかもと、僕は気休めにしかならないだろうけど回復魔法を詠唱する。

 

「癒しの泉に立ち込めた光よ ミストヒール」


 その瞬間、優しい水色の光が立ち昇る。

 僕がぶつかってしまった人の体はその光に包まれた。


「え、あのっ、ちょっと! 止めて! ……あれ?」


 どこか慌てた様子の人だったけど、不意にきょとんと目を丸くした。


「……ど、どうして回復魔法が効いているの? 我は……」


 僕がぶつかってしまった人がなにかいっているけど、僕はそれどころじゃなかった。


 ーーなんで僕の回復魔法がこんなに光を発している!?


 今まで回復魔法を使っても光なんて立ち込めることはなかった。

 もともと回復魔法は苦手だし、治癒師はパーティ内にいないことはほとんどなかったしで、練習もそんなにしていない。

 出来ることを増やそうと、最近少し鍛えていたくらいだ。


 でも、最後に使ったときも光なんて発されなかったし、せいぜい軽い切り傷を30秒くらいかけて塞ぐくらいの効果しかなかった。


「ね、ねぇ、貴様。名前はなんという……でしょうか?」


 どこか、おどおどした様子の僕がぶつかってしまった人。

 いつの間にか立ちあがっていたその人は、僕より2~3歳年下だろうか、16歳くらいの少女だ。

 そして、彼女は独特……いや珍妙な言葉遣いで僕の名前を聞いてきた。

 答えない理由もないので僕は口を開く。


「へ、あ、はい……。ヴェント……といいます」


 ……どうやら僕の頭は思ったよりは冷えていなかったようだ。テンパっている。

 はたまた、相手の動揺でも移ってしまったのだろうか……。


「ヴェント……さん。そうか、そう……なんだ。ヴェント……さん……ですか」

「はい。ヴェントです」

「えーと、ヴェント……さん」

「あ、はい……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 なんだろうか。

 この会話は、沈黙は。


 街の喧騒を感じる程度には、長い沈黙だった。


「あ。ヴェント……さん。名乗るのが遅くなった……ですね。我の名はユーニアである……。……こんにちは?」

「ああ……。はい。こんにちは……? ……あ、そうだ。怪我は大丈夫ですか」

「ふえっ! ……うん。我なんか、大丈夫だ……です」


 ユーニアはぐっ腕に力を入れて控え目な笑顔を僕に見せて言った。

 どうしてそのポーズをとったのかは分からないが、とりあえず怪我はしていないみたいで一安心だ。

 ホッと胸を撫で下ろす。


 しかし、ぶつかったことには変わりない。

 僕は腰を折って謝った。


「今回は、本当にすみませんでした!!」

「わ、わわわ~~っ!! あ、き、貴様……! そこに直らないで! 我は痛みに喘ぐことはなかったのだ……! 怪我の一つもしていないのだ……! 街中で目立つ事、我は望んでいないです……! つまり、気にするなってことです……!」


 慌てた様子のユーニアは、手をあたふたさせながらそういった。


 あ、確かに注目を集めてる。

 頭を上げた僕は、横目でそれを確認した。


「す、すみません……。確かに少し目立ってますね」


 僕は、今度は小声で謝った。


「よいです。我に害を与える気はないと、しかと伝わっておるので」


 そう朗らかな笑顔で言ったところで、ユーニアはあっ。と何か思い出したような声を上げ、突然お尻を抑えだし、叫んだ。


「うくっ……! いたぁ……。お尻、怪我がある……かもです……! 真っ二つに分裂した気配があるな……。きっとさっきヴェント……さんが衝突してきて尻もちをついたから、そのときの怪我だろうな! きっとそうだろう……! そうなのだろう……かと……思います…………。

 …………………あ、いや……違う……。ほ、本当は痛みはない……です。いま、我が言ったことは、興味を注がなくてよい……ことなんです……。すまぬ……」


 突然の大声で、今までの怪我はないという話だったが、ユーニアは実は怪我をしていたらしい。

 だんだんと言葉はしりすぼみに、表情は不安げになってきたユーニア。

 きっと、怪我があるのに余計な気を僕に使わせたくなくて最後、嘯いたのだろう。


 けれど、僕の回復魔法は強くない。

 さっき光が立ち昇っていかにも強力な回復魔法感が出ていたけど、それも見掛け倒しかも知れない。

 現にユーニアのおしりの怪我は治っていない。

 ーーそうだ。さっきのは見掛け倒しだ。自惚れるな。……僕は、役立たずなんだから。


 役立たずの回復魔法だけど、何もしないよりはいいだろう。

 僕は再びユーニアに回復魔法をかけることにする。


「真実を偽った身で、こう願うのはおこがましいことと思うが、聞いて欲しいでーー」

「ユーニアさん、お尻を見せてください!」


 何事か、ユーニアさんが言っていたけど、怪我をさせたままというのも嫌なので、僕は患部……お尻を見せるようにユーニアさんに言う。


 一般的な事実だが、回復魔法は患部に掛けたほうが効力が上がる。

 気休めでしかない回復魔法だけど、だからこそ、こういう小さな事を気を付けないといけないのだと思う。


 しかし、ユーニアはなかなかお尻を出さない。

 なぜだろうかと、気になりユーニアの顔をじっと見つめると、不自然に固まっていた彼女の顔が熟れたりんごのように紅くなって、ついにはアワアワと口を開き叫んだ。


「ふぇっ……!? ふぇぇぇぇ~~~っっっ!!!」


・・・・・・・


 街に響くは少女の絶叫。

「しりを見せろ」と嫌に真剣な顔をした男が、無垢な少女に迫る事案発生。


 衛兵さんここです。

 誰かのそんな声があったとかなかったとか。


 先ほどとは比べ物にならない注目を、ユーニアとヴェントの二人は集めていた。

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