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094話 そういえばあの時も

 今回からリトの台詞は『  』でとなります。


「あらら。死んじゃった。これで二回目(・・・)かぁ。思ったより少ないね。うんうん、いい感じいい感じ!」


 自分の作り上げた世界である一人の人間を観察し続けるテスタと哀。彼等の存在は他神より一つ上の存在となり、誰にも邪魔されず、誰からも認識されない空間の中にいた。

 彼等はその空間の中で、自らを進化させる為に人間を観察しているのだ。


 そして、今。テスタが観察を続けていた人間が二度目の死を迎えた。一度目は本人ですら気付かないような死に方であったが、二度目は一度目とは正反対とも言える惨い死に方をしていた。

 テスタにとって人間の死は進化をする為の材料でしかなかった。人間が死を迎える時の複雑な感情は、神達には到底理解しえないものであるから、それを理解した時に更なる進化を遂げることが出来るからだ。


 けれども、テスタは観察している人間が死ぬことを否定し生きる事に必死になっている今の状態の方が好みであった。だからこそ先程の発言が出るのだ。


「哀。そっちはどう?」


 観察している人間が生き返り、意識を取り戻すまでの間、テスタは隣で同じく人間を観察している哀に話かけた。

 哀はそんなテスタにありのままを報告する。


「死は免れたようだ。しかし、命令によりかの地へ赴くことになった」


「へぇ……かの地ってもしかしてあそこ(・・・)だったりする?」


「そなたが想像しているもので間違いはないだろう」


「そうかぁ! そうなっちゃうか! アハハッ! あぁ楽しみだなぁ! カナタは彼女に出会った時どんな顔をするかな? 楽しみで楽しみで仕方がないよ!」


 テスタは声を張り上げ、両腕を広げ、青空なんてもののないただの空虚な空間を見上げる。それがその時のテスタの精一杯の感情表現だった。

 カナタの不確定な未来に対する期待、不確定だからそこの楽しさ、そして興奮。それを表現するには十分すぎる程だった。


 そのテスタの姿は当然哀の目にもとまっていた。少し前の哀であったならば理解不能だと言っていただろうが、進化を始めた哀は、そのテスタの感じている内側から湧き上がるような何かが何であるかを理解出来ていた。

 理解は出来ているけれども、哀はテスタとは正反対のものを感じていた。


「先の事が不確定とは恐ろしい……」


 そう、恐怖である。


 哀は、己の連れてきた彼女の未来がカナタと出会う事がきっかけで可能性が多岐にわたる事を認識していた。

 その未来が不確定であるという事は、自らの行く末が避けられたはずの最悪な事態に流れ着く可能性もあるということなのだ。


 哀は彼女にそうはなって欲しくないという『情』が生まれていた。だからこそ、彼女の未来が不確定である事を恐れているのだ。


 しかし、テスタはそんな哀の事を笑い飛ばした。


「アハハッ。哀の言っている事ボクも分かるよ! でも、それが人間の可能性さ! 不確定な要素が重なりあって、望まない未来が訪れても、求めた希望が手元に届いても、人間はそれで納得するんだ! それはボク達、高次元生命体には無いものだよ」


「……それは我等に可能性はなく、ただ一つの未来に向けて進んでいる、とそういう事なのだな」


「そ。今のままのボク達が行き着く未来……それは『永遠の静寂』。人間のような生死の区別もなく、個々という存在が消え、ただそこにいるだけの生き物でもない何か。そんなつまらない未来なんてボクは絶対に嫌なんだ。だからこそボクは期待するのさ。いつかボク達をも巻き込んでくれるんじゃないかっていう人間の可能性に……ね」


「…………」


 テスタは遠いどこかを見つめる。哀にはテスタの見つめている先が、つまらない存在に成り下がった己のように感じる事が出来た。なぜなら、哀もまた、同じものを目の前に見たからだ。


「ボクは思うんだ……人間の喜怒哀楽の"楽"を司る神であるボクは、高次元生命体の中で唯一『永遠の静寂』に対して明確な否定が出来る存在なんだって。ボクは他の神達から見れば、確かにおかしいのかもしれない。でも、まだ進化の余地を残しているボク達がそんな未来を認めるのはどこか違うと……つまらないと感じた。だからボクは変えるんだよ」


 テスタは僅かに首を横に傾け、口角を少しだけ上げて笑った。その笑顔にはテスタの背負っているものの重さが見え隠れしていた。


「ボクは何があろうと、何をされようと絶対に神達を進化に導く。それが"楽"を司るボクが出来る唯一の事だと思うからね」


 テスタはそう言って、くるりと哀に背中を見せる。哀にはテスタの表情は確認できなかった。笑っていたのか、歪んでいたのか、真剣な眼差しをおくっていたのか。直接見ることが出来ない哀は、ただ想像をするしかなかった。


 哀に背中を見せてからほんの僅かな時間が過ぎると、テスタは伸びをして顔だけを哀の方に向ける。


「んーっ。ちょっと話し過ぎたかも。今の話、みんなには内緒だからね?」


「……分かった」


「さて、そろそろカナタが復活する頃じゃないかな。あぁ……これからどうなっていくんだろう! 楽しみだ!」


「…………」


 テスタは胸を踊らせ、哀は胸を痛めて人間を観察する。湧いてくる感情が対照的な二人は何を見て、人間にどのような未来を期待するのか。


 それは彼等にしか分からない。






  ◇◆◇◆◇






『…………せ! 目を……せ! 目を覚ませと言っておろう!』


「…………んっ……」


 誰かが俺を揺すっているような気がしなくもない。誰だ。気持ちよく寝ているというのに起こそうとする不届き者は。俺は眠りたいんだ!


『妾が目を覚ませと言っているのだ! 早く目を覚まさんかっ!』


 次の瞬間。


――バチィーンッ!!


 俺の頬に強烈な衝撃が襲った。


 一瞬にして俺の眠気は吹っ飛び、そして意識も吹っ飛び……とまではいかなかったが、それくらいの衝撃だった。


「ってぇ!! 殺す気か!」


 俺は上体を起こして、引っぱたいた奴に向って俺は精一杯声を上げて言ってやった。


『この非常事態に気持ちよさそうに寝るお前にはちょうど良いくらいだったのではないか?』


 俺を引っぱたいた張本人であるリトは一欠片も悪びれる様子はなくそう言い放った。その時のリトはそんな事本当にどうでも良さそうな態度だった。


「確かに気持ちよく寝てたけど! そこまでする必要はなくね!?」


『するに決まっているだろう!? お前はつい今し方命を落としたのだぞ!? だと言うのにお前は命を吹き返し、あまつさえ気持ち良さそうに眠っているとは驚きを通り越して腹が立つ!』


「えぇ……なんて理不尽な……」


 リトはプンスカと怒りを顕にしている。いやまあ確かに俺は気持ち良く寝ていたけども。


 ……あれ? でもなんで気持ちよく寝てたんだ? 確か俺はカヤを追って……角が生えた人間に出会って……それからの記憶がない。何故?


 ……そういえばリトは俺が命を落としたとかなんとか言っていたな。詳しく話を聞いてみるか。


「いまいち状況が飲み込めていなくてな。何があったのか教えてくれ」


『お前の神経は図太いな……全く呆れるぞ』


「ハッハッハ。そんなに褒められたら照れるじゃないかぁ」


『褒めておらぬわ!』


 クワッ、と目を見開いてリトが怒った。冗談のきかないやつめ。ちょっと場の空気を和まそうとしただけなのに。まあ、いいや。大人しく話を聞こう。


『良いか? お前は魔人(・・)に一度殺されているのだ。身体は潰――』


「待て待て。魔人? 魔人ってあの魔人か?」


『お前の言う魔人がどんなものなのかは妾には分からぬが、あれは確かに魔人だった』


 魔人と言えば、『死神(しのかみ)』の絵本に出てきた、人間と特に争いをしていた種族だ。それがなんでこんな所に……?


『その魔人によって、お前の身体は潰れ、原型を留めていなかった。が、数秒としないうちにお前の身体はまるで時間を戻していくかのように元通りになり、寝息を立て始めた。その証拠に服を見てみろ。お前の血で染められているだろう?』


 俺は自分の着ている服を見下ろす。確かに全身真っ赤になっていて、それが血の匂いを放っていることから、血が染みていることが分かる。


「うわ……これどうやって落とそう……」


『心配するところがおかしいと思うのだが……まあよかろう。して、お前はどんなカラクリを使って生き返ったのだ?』


「ん? あー……実は俺、不死身なんだ」


『……妾を馬鹿にしておるのか?』


「そう思うのも無理はないな。人は一度死んだらそれっきりだ。けれど、俺だけは何度死んでも必ず生き返る。老衰は除くらしいがそれは本当らしい。さっきだって生き返ったみたいだしな」


『なんだその他人から聞いたと言っているような口調は?』


「事実他人から聞いたからなぁ。……あれ? そういえば、なんでテスタは俺の能力の事を知ってたんだ? それにこの世界に連れてきた的な事も言ってた気が……あいつ何者だ?」


 あの時は気が動転していて気にかける暇もなかったが、よくよく考えればテスタの言動は不自然だった気がする。

 どうやってこの世界に来たのかを尋ねた時ははぐらかされたし、特殊能力の事を妙に強調して教えたがっていたし。


 今度テスタに聞いてみる必要があるな。あいつは俺の事を見ていると言った。どうにかすれば話くらいは出来るだろう。


『何を一人で納得をしておる。妾にも分かるように言わんか』


「分かるようにか……それだと話が長くなるからフィーの所に向かいながら話すとしよう」


『そうか。ならばはよ行くぞ』


「おう」


 俺はその場に立ち上がりフィー達がいるであろう方向に歩みを進めたその時だった。いつしか感じたことのある、気持ち良さを感じた。


「そういえばあの時も……」


 あれはたしか……そうだ、無詠唱で魔法を発動させて魔力切れを起こした時の感覚。体の調子がすこぶる良くなったように感じるこの気持ち良さ。


 もしや、一度死んで生き返ったからなのか? だとしたら、俺はあの時一度死んでいたという事に……。


 俺は新たに事実となった出来事に、地面に手をついて項垂れた。


 どうやら俺が死ぬのは二回目らしい。ついさっきまではこれが初めてだと思っていたのに……。いや、あの時は死んだ気がしなかったからノーカンでいこうノーカンで。

 でもそれを言うと、今回も即死すぎて死んだ気がしないんだよな。じゃあ、どっちもノーカンって事で。


『カナタ……お前は地面を見つめて何をしておるのだ。妾がはよ行くと言ったばかりではないか』


「いや、なんて言うか、うん。俺はまだ一度も死んでないって結論が出たから大丈夫」


『それはお前の頭が大丈夫ではないな。ショックは大きいかもしれないが、現実を見るのだぞ』


「はぁ……リトは鬼畜だなぁ。現実逃避してる人に現実を見ろだなんて」


『お前は現実逃避をしていたのでなくて、くだらん事を考えていただけれあろう? 契約を結んだ妾にはお見通しなのだぞ?』


「何それ怖い。精霊と契約したら考えている事がバレるのか……」


 これってマリリン先生の能力とほぼ同じものじゃ……。何それ辛い。常時、マリリン先生と居るようなものじゃないか。俺はなんて事をしてしまったのだ。今更になって事の重大さに気付いたぞ。


『しかしうっすらとでしか見ることは出来ん。まあ考えている事が分からなければ、契約者の理念がどんなものなのか分からぬから仕方のないことだがな』


「確かに。契約者が嘘をつくとも限らないしな。まあ程々にしてくれれば俺は何も言うことはないさ」


『いいだろう。では行くぞ』


「おう、今回はもう大丈夫だ。フィー達の所まで一直線に行こう」


 俺はリトと共に走り出した。その間に俺がこの世界の住人で無かったことや、ここまで来た経緯を話した。


 そして、走る事数分。俺は無事、フィー達の元へと戻る事が出来たのだった。


 少しづつですが、テスタのやりたい事、やらなければ行けない事など、判明していきます。

 また、次回はフィーメインになると思いますのでよろしくお願いします。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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