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093話 マジですまん


「・・・と言う感じでここに行き着いたんだけど……」


――それは嘘ではあるまいな?


「もちろん嘘はついてないぞ? な、カヤ」


『うん!』


――うーん……


 俺はここに来るまでの経緯をしっかりはっきり事細かく話した。ここに来てしまった話の始まりであるカヤとはぐれた時の事からだ。

 途中、熊に転がされたと言ったら鼻で笑われたが、そこは大人の対応でぐっと堪えた。あくまで俺は訪問者。眠りを妨げてしまった側なのだ。


「俺達には何がなんやらさっぱりなんだよ。何が起こったのか教えてくれ」


『おしえてくれー』


――愚か者! 教えれるならとっくにやっておる!


「そんなに怒る事ないだろ……あんまり怒りすぎると小じわ増えてしまうぞ?」


――怒らせておるのはお前だろう!? 全く無礼にも程があるぞ……そんなお前にはもう教えてやらん!


 などと言いながら、ちゃっかりと考えてくれている炎の女性マジイケメン。キャーほれるー。

 ところで、この炎の女性には何か明確な呼び名か愛称はあるのだろうか? そろそろ炎の女性で済ませるのは悪い気がしてきた。だって四大精霊様なんだぞ?


「なぁ」


――なんだ。妾は今考える事で忙しいのだ。


「じゃあ、考えながらでいいんだけどさ。炎の四大精霊様には何か呼び名とか愛称とかある?」


――そんなもの妾には必要ない。そんな事よりも妾は忙しいのだ。話しかけるでない。


「じゃこれからは便宜上『リト』って呼ぶわ」


『リト、よろしくねー』


――必要ないと言っているのだが……まあよい。どうせお前達に何を言っても無駄なのだろうからな。


 と言いつつも少し頬が緩んでいるのは俺の見間違いだろうか。


――……ふふっ、初めての名前……


 ……どうやら見間違いではなかったようだ。なんだかとても嬉しそう。一人の誕生日に日頃の自分を労う為に少し高めのケーキを買って幸せを感じている俺に似てる。

 なんというか、大はしゃぎとかって言う感じではなく、ほんの少し大きめの幸せを密かに胸の中で感じるというようなものだろう。


 その上、話を聞く限り、リトは外界との接触を絶たれていた様子。その上、四大精霊ともなると俺やカヤのように罰当たりな接し方はしないだろう。特に、適当に名前を付けるとかな。

 しかし、そんなことをしていたとしても当の本人はすこぶる気分が良さそうなので、プラマイゼロと言ったところだろう。良かった良かった。


「それで、リトさん? 何か分かった事あった?」


――……正直に言って、さっぱり分からない。外に言って結界自体を見て見ないことには……


「じゃあ外に行く?」


――妾もそうしたいのは山々なのだが……うーむ……


 リトは出口のある方を物憂げな眼差しで見つめていい吃る。これは何か訳ありのようだ。

 大体こういう時の相場は、外に出る事が出来ないとかそこら辺に限られるはず。ただ、一応何かあるのか尋ねておいた方がいいな。


「なにか気になることでも?」


――妾はこの祠の外には出られないのだ。それこそ妾をこの祠の中に閉じ込める特殊な結界のせいでな。忌々しいものよ。


「ほーん。じゃあ無理だな」


『むりだなー』


 カヤが俺に続いて棒読みした。それのなんと可愛いことか。まるで穢れを知らぬ白い絹のように柔らかく、どこか人懐っこさを覗きみせるような子供だ。

 俺、カヤとなら世界を敵にしても勝てる気がする。物理的にはもちろん、俺の精神的にも。まあ、俺とカヤが世界の敵になったら、俺達の側には確実にフィーも含まれるだろうがな。


 俺に対して『んー?』と見上げるカヤに優しい眼差しを送りながら、絶対に間違いないな、と確信した。


――本当にお前達といると気が抜ける。妾が偉大なる四大精霊である事を忘れてはおらぬか?


「忘れてないぞ? でもほら、同じ世界に生まれて、同じ時を生きているわけだし、長く生きていることに対して尊敬はするけど、変に奉るようなことしなくてもいいかなって。リトだってそっちの方がいいだろ?」


――それはそうだが……なんか釈然としない……


「リトが変人だからじゃない?」


――お前が言うな!


「ハッハッハ。ナイスツッコミ!」


――釈然としない理由が分かった。お前がそういう性格だからだということがな!


 ビシッと俺の鼻先に向けて、ユラユラと揺れる炎の人差し指を突きつけてきた。なぜここでリトの顔がしたり顔なのかは俺も分かり兼ねる事ではあるのだが、概ね俺の性格がリトの釈然としない理由になっている事は自覚している。

 だって俺、今までも結構適当な感じだったからな。人質に取られた時とか、武器を選ぶ時とかもそう。それがここでも出ているならそう感じるのも無理はないかもしれない。


 もしそうだったとしても、そこをなんとか我慢してもらって取り敢えず話を進めていこう。


「それで、リト自身理由が分からず、外に出て確認も出来ないとなるとこれは迷宮入りという事に……」


――まあ待て。祠の外に出られないとは言ったがそれは妾が一人だったからだ。が、今ここには三人おるではないか。


「俺達がいる事で外に出ていくことが出来る……と?」


――そういう事。


 リトは腕を組みながら頷いた。どうやらリトには何か考えがあるらしい。それが成功するかしないかはさておき、その考えとは何なのかという事を聞いてみよう。


「その方法って?」


――妾がお前の持ち物に憑依して持ち出して貰う事だ。しかしこれには……


「なんだ。そんなの簡単じゃん」


 俺はリトの話の途中で腕に嵌っている四つの腕輪の内の一つである赤い腕輪に意識を集中して、『リトよ! 宿れ!』と心の中で強く念じた。

 するとどうだろうか。目の前にいるリトの体が徐々に体積を減らし、小さな石ころサイズになったかと思うとそれが宝石へと早変わり。


 宝石の色はもちろん赤。だが、赤は赤でも真っ赤っか。深紅だ。光が当たれば中には炎が渦巻いているのが見えるくらいに透き通った綺麗な深紅。俗に言うルビーが一番近いだろう。


 その宝石は俺の腕輪に空いていた台座へ一直線。最終的にはカポッと簡単に嵌ってそのまま抜けなくなってしまった。


『妾が言い終わる前に恐れていた事をやりりおって! この愚か者め!』


 先程の赤い腕輪から現れるリトらしき女性。その姿は何故か先程までとは打って変わってまんま人間の姿を模していた。


「えーっと……リトで間違いないんだよな?」


『ない! そんな事よりお前は何をしたのか分かっておるのか!?』


「何って、リトをこの赤の腕輪に憑依させようかと思って念じただけだけど……」


『これは憑依ではなく『契約』だ!』


「なんだってぇ!?」


 リトから『契約』と言われたら驚くのも当然だ。なぜなら俺は契約などする気は毛頭なかったのだからな。

 ただ心の中で宿れと念じただけだ。まさかそれが契約の文言になるとは誰が思い至るか。誰も思い至らないだろう。俺は至らなかったから驚いている訳だし。


『お前は精霊との『契約』の意味を知っているのか!?』


「い、いや何も……」


『だと思った……いいか!? 妾が今から言うことをしっかりと聞くのだ!』


 リトが新たな姿で俺に向って人差し指を突き付けてくる。表情が相当に切羽詰まったものになっていることから、相当重要なことなのだということが分かる。


『『契約』した精霊と言うのは契約者の理念に従って行動することになるのだ! 精霊は契約者にその対価として子孫を残す為の行為を行ってもらうのだ! そんなその大切な契約を精霊は生涯に一度しか出来ないのだぞ!?』


「それって人間で言う……結婚……と言うやつでは……」


『その『けっこん』がどういうのかは分からないが、お前は妾の大切な大切な契約をッ! 妾の守ってきた契約をッ!』


 リトからは相当な怒りを感じる。俺としても予期せぬ事態である事は間違いないのだが、何も知らなかったとしても、契約するつもりではなかったとしても、結果、契約してしまった事には変わりはない。

 その上、精霊にとっての契約というものは、人間界で言う結婚と同義であり、生涯に一度しか出来ない。


 これは極めて申し訳無いことをしてしまった。


「知らなかった事とはいえマジですまん。こんなことになるとは思ってなかった」


『……はぁ、まあよい。やってしまったものはどうしようもないのだ。これからお前は妾の契約者である自覚を持って行動するようにするのだぞ』


「分かった。世界平和の為にリトの力を使う」


『本当に分かっておるのか心配なのだが……っと、いつまでもお前ではこれから付き合って行く上で不便だ。名は何と言う?』


「俺はカナタ。こっちがカヤ。俺達は一心同体、二人で一人だ」


『カナタにカヤだな。確かに覚えた』


 契約についてはやってしまったものだからしょうがないと言ってくれたリトは心の器が大きいな。

 これが地球にいる頃だったら違ってた。絶対に慰謝料請求されてた。『何してくれたんだ』、『絶対に許さねえ』、『お前なんか死ね』って言われているのが脳裏に浮かぶ。


「改めて。これからどうする? 外に出てみるか?」


『お前は元よりそのつもりで妾を腕輪に宿らせたのだろう?』


「まあな。んじゃ、結界を確かめる為にも外に出てみるか……」


 と、外へと向かおうとした瞬間。ズーン、と低く鈍い音と共に地鳴りが響いた。祠は小刻みに揺れ、天井から埃が舞い降りてくる。


「な、なんだ?」


『ゆれたー!』


『外で何やら起きているのだろう。妾がいる間でこの辺りで何かが起こったことはこれが初めてだ』


「じゃあ、結構非常事態な感じ……?」


『そういう事だな』


「マジかよ! こんな所に突っ立ってる場合じゃねぇ! カヤ、急いでフィーの元に行くぞ!」


『うん!』


「フィーのいる場所分かるか?」


『分かるよ! ついてきて!』


 俺とカヤは外へ向けて走り出し、リトはその間に依り代となった腕輪へと戻ってきた。


 祠の外に出ると、遠くに三方向から煙が一本づつ立ち昇っていた。そして、その内の一つは俺達が拠点を置いていたとこの極近辺から昇っていることがカヤの進行方向から分かった。

 他二つの煙も心配ではあるが、まずは、フィーや双子、エドとリーンの無事を確認しに行かねばならない。無事が確認でき次第、全員で他のクラスメイトがどうなっているのかを確認しに行こう。


『こっちだよー!』


「おう!」


 俺とカヤはフィー達の方を目掛けて走り出す。


 ……がしかし、悲しきかな。俺の身体能力とカヤの身体能力の差は歴然として大きかった。カヤはどんどん先へ先へと進むのだが、俺は置いてけぼりに。

 このままではまた迷子になってしまうと思って焦った結果、俺の足はもつれ、そのまま地面を抱いた。


 カヤは今の俺の状態には気付かず先に進んで行く。その上、倒れた拍子に何処からか鉄というか何か生臭いような何の匂いがしたのだ。


「いたた……」


『お前は何をやっているんだ……』


 腕輪の中からリトが呆れた様子でそう言ってくる。しかし、このままでは俺は迷子になるのは確実であり、生臭い匂いの正体が血である事に気付いたのだから、俺はそれどころではない。


 森の中で迷子になる恐ろしさと、血の匂いから感じる異様な雰囲気が俺の精神を蝕んでいく。



――パキッ。



 近くから、誰かが足で枝を踏んだ音がした。びびった俺は堪らず声を上げ、カヤに助けを求めた。


「ちょ! 俺を置いて行かないで! 死んじゃうから! カヤ! カヤーッ!!!」


『全く……妾がいるという事を忘れておるな』


「リ、リトォ……」


『情けない声を出すな。本意ではないとはいえ、お前は今や妾の契約者なのだ。どしっと構えていれば良いのだ』


 リトは腕輪から出てきて地面を抱いている俺の頭をコツコツと叩きながら言った。

 確かに俺は焦るあまりリトが精霊である事を忘れていた。こういう時の四大精霊は戦闘力的にも俺の精神的にも物凄い役に立つ。


 今なら契約者になって良かったと、しみじみ思える。


『……誰かが来る。……これは人間か!』


 リトがそう言ったのも束の間、森の奥から今まで見た事のない(・・・・・・・・・)人間が現れた。


「あっ!? もしかして君等が冒険者? ……んー、まぁ……違っててもいっか。姿を見られたら殺せって言われてるし、冒険者かなんて確認しても関係ないもんね」


 その人間は俺達と体の作りはほぼ変わらない。ただ一点、明らかに今まで見てきた人間とは異なる部分がある。それが、額に生えた、まるで牛にあるような太くて大きな角だった。


「だ、誰なんだ……? なんなんだお前は……?」


「そんな事聞いてもすぐに死ぬんだから教えるだけ無駄じゃん。じゃあ早速死んでね」


『させん!』


 リトが俺を庇うような形で前に躍り出た。がしかし――


「ハハ。遅いよー。そこの男ならもう死んでるんじゃない? まあ僕が殺したんだけど」


――そんなリトの行動も虚しく、遂に俺は、この世界では初めて死と言うものを体験してしまったのだった。


 仲間が増えましたぁ! 仲間に関して、ここでもうお分かりになった人もいるかもしれません。

 四つの腕輪……四大精霊……まあ全て繋がっていたりいなかったり。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。


(2019/1/19 契約後のリトのセリフを『  』にしました)

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