092話 これは祠……?
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
これからもよろしくお願いします。
サバイバルが始まってから一日目が終わり、二日目も難なくと過ごすことが出来ていた。
けれども、慣れない環境下にありながら、見張りのために満足な睡眠を得られず、食べ物も魚だけで食のバランスが悪い。このままだと、いずれ体調を崩してしまい取り返しのつかないことになりかねない。
そういう話し合いを二日目の夜に行った結果、三日目は体力のある、俺とフィーとエドで山菜採りと動物狩りに行くことになった。居残り組であるリーンは双子の面倒を見る事で残ってもらい、薪を集めたり、もしもの為の雨風を凌げる場所を作って行くことになった。
俺が狩りに出されるのは謎だが、フィー曰く、何かあった時に俺がいた方が戦いやすいとの事。なんかアドバイスや戦略を立てればいいらしい。
そして狩りを始めてから一時間……
――俺は迷子になっていた!
いや、まあ正式に言えば微妙に違うんだけれども……どこかに歩いていくカヤを追いかけていたらはぐれたってだけだ。
言い訳しても迷子にしか聞えないだろうけども、俺にとって、森の中でカヤを追いかけるのはとても厳しいことなのだ。はぐれるのも無理はないよな。
という事で、俺はひとりカヤの名前を呼びながら森の中を進む。
「カヤー! カヤどこだー! カーヤー!」
俺の呼び声は虚しくも森に吸い込まれて消えていく。
「……なんか前にも似たことあったような気がする。俺とカヤがこの世界に来てからすぐだった」
今と同じでどこかに行くカヤを追いかけて、案の定はぐれて、人混みの中必死に探すが、人々の雑踏に俺の呼び声はかき消され、そして人混みに酔うという……。
まあ、今はあの時の人々が木々に、雑踏が静寂という事違いはあるけども。
「そういえば、カヤがフィーを連れてきたのはその時か。懐かしいなぁ……ハハ……」
――グルゥオォォ!!
思い出に浸って、迷子という現実から逃避してい俺。目を閉じ、息を潜め、あの時を懐かしむ。そして頬には涙が流れる……。
泣いている理由は決して、目の前に現れた大柄の熊が俺を飢えた目で見ているからじゃない。ただただ懐かしんで涙が止まらないだけ。うん、そう。
――グルゥオォォ!!
「ひっ!」
目を瞑っていた所に、熊の雄叫びがすぐ目の前から起こったせいでビビってしまったぜ。足がガクガクし始めたわ。
と、俺が足を竦ませていると熊が前足を上げてそのまま振り下ろしてきた。
熊が前足を上げた時のあまりの迫力に、後ろに尻もちをついてしまったおかげで奇跡的に当たらずに済んだのだが、下から見上げる熊が怖いの何の。本気で死を覚悟した瞬間だった。
けれども、俺は足掻くようにその体制のまま後退するが、熊もじりじりと追いかけてくる。
じりじりと距離が詰まり、詰まりに詰まって終いには熊に転がされて遊ばられる始末。
「うぉ! やめ! カヤッ! 助けっ! あぁぁっ!!」
無意識にカヤに助けを求めているが、その間も熊からゴロゴロと転がされて遊ばれている。一思いに殺ってくれた方が幾分かマシだぜ……。
『……にゃん?』
そんな時、カヤの鳴き声が聞こえてきた。あの時は幻聴だと騒いだが、これは紛れもなく現実で聞こえてきたものだ。
だって目の前に猫になってるカヤの姿が見えるもん。幻覚じゃないのもカヤに舐められて確認済み。紛れもない本物だ。
『遊んでるの?』
「説明は後でするから! とりあえずこの熊をどけてくれぇ!」
『はーい!』
カヤは元気よく返事をすると、熊に向かってロケット頭突きを繰り出した。その軌道は綺麗に熊の顎を直撃し、熊は白目を向いて倒れた。
恐るべしカヤ。これもうポケ〇ンでも大差ない。
そんなことは置いといて……ようやく熊の手から逃れられた。カヤのおかげだ。それにカヤも見つけることが出来たし一石二鳥。不幸ばっかりだったけどな!
『これでいー?』
「あぁ、ありがとう。で、カヤはどこに行ってたんだ?」
『なんかピリピリする方にいってたー』
「ピリピリ?」
『うん。おヒゲがピリピリするの』
カヤは頬のヒゲをピクピクさせて言った。あぁなんて可愛い仕草なのことか。
『それでね。ピリピリする方に行ったら建物があったの』
「建物が? こんな森の中に?」
『うん。そこに一緒に行くためにカナタを呼びにきたの』
「なるほどな。そしたら俺がこんな所で熊に弄ばれてたってことか」
『そういうことなの』
どうやらカヤはまた何かを見つけて来たらしい。前はフィーを連れてきてくれたが、今回は何をもたらすのか謎が深まるばかり。
「にしても、よく俺のいる場所が分かったな? どうやったんだ?」
『カナタの匂いがしたー』
「あぁ……なるほど」
あの時もそうだったが、どんなに離れても俺のところに戻ってきてくれるカヤの仕組みは匂いだったか。でもそんなに匂いを嗅ぎ取れるものなのだろうか?
……カヤなら、もしかしたら嗅覚を鋭くする魔法みたいなのを使ってるかも。
『じゃあ行く?』
「おう、行くか」
俺はカヤの道案内の元、カヤのおヒゲがピリピリする場所へ向かった。今回はおいてけぼりにはならず、カヤがぴったりくっついての移動だ。
――歩くこと数分。
俺は生い茂る木々の中に建つ一つの建物の前へとやってきた。
建物は石造りで大きめの社と言ったところ。何かただならぬ……けれども神聖な感じがひしひしと伝わってくる。
「いかにもヤバそうな雰囲気的なんだが……」
『とりあえず入ってみよーよ』
「あ、あぁ」
俺はカヤの言うがままに体を動かした。とはいえ、俺自信も興味があり中に入ってみたい気持ちはあった。
入ってすぐ建物の中は奥長である事が分かった。そして最奥へと誘うかごとき、火が手前から奥へ、ぽっ、ぽっ、と少しづつ灯り始める。
「これは祠……?」
『ほこら?』
「神様を祀ったところって意味だ」
『じゃあじゃあ、ここに神様がいるの!?』
「俺にも分からん。奥まで行ってみるか」
俺達は歩みを進める。最奥へ辿り着くのはさほど時間はかからなかったが、奥に行くにつれてプレッシャーのようなものを感じるようになった。
最奥には神社にあるような燈籠が一つあり、その中にゆらゆらと揺れる火が灯っていた。なぜなのかは分からないが、その火は流る水のように清らかなはずなのに、火山が噴火した時のような激しさを兼ね備えているように見えた。
そしてそれが俺に嫌な予感をさせる。
『どうしたのー?』
「いや、なんとなく……なんとなくだけどこの後に面倒な――」
――誰だ。妾の眠りを妨げる愚か者は。
「――事に……ほらな」
祠に響く俺のでもカヤのでも無い声に、俺は心底面倒くさくなる。あの言葉もそうだし、シチュエーションもそうだが、この感じはあれだ。ゲームで例えればイベントが始まったのだろう。そしてそれが指し示すことはただ一つ。
ボス戦だ。
こんな俺がボス戦とか頭が悪いとしか考えられない。レベル1の見習いがラスボスに戦いを挑むくらいに頭が悪い。
「あのー! 俺、眠りを妨げるつもりで来たわけじゃないんです!」
そういう事で、俺はありったけの心を込めて言い訳をする。
「ここに来たのは偶々で、なんとなく奥まで来ちゃっただけなんです! なので起こすつもりはなかったんです!」
――愚か者! つもりがなくても起こしてしまったものは事実なのだぞ!
「いやぁ……全くもってその通りです……はい……」
――その責どう取るつもりだ。
「と、言われましても……何分こんな所に誰かが寝ているとは思わないですし、そもそも貴方様の姿が見えないのでどうする事も出来ませんし……」
――えぇい! 妾を馬鹿にしているのか! この女々しい愚か者めが!
そう言って俺とカヤ以外の声の主が姿を現した。
ユラユラと揺れる炎で出来た体。人間の女性を思わせるフォルム。炎なのに熱を感じないというのは不思議な感覚である。
『わぁ! きれーだぁ!』
「そうだな。幻想的で美しさがあるな」
――妾を持ち上げても無駄だぞ!
「いやいや。綺麗だよな?」
『うん! 輝いてみえるよ!』
「それは物理的に輝いてるだけだけどな」
――黙れ!
「にしても、熱くない火って変な感覚だよな。触っても大丈夫なのかね?」
『わたし触りたーい!』
「触るならやけどに注意しないと駄目だぞ」
――黙れと言っておるだろ!
『んー、じゃあやめとく。やけどしたくないもん』
「じゃあ俺が触ってみるか? それで大丈夫だったらカヤも触ってみればいい」
『ほんとー? ありがとー』
――おい……えっと? 妾の声、聞こえてない? あーあー。ダメ?
「ちゃんと聞こえてるから安心して」
――そ、そうか……
「うん。で、触ってもいい?」
『さわるー!』
――よいぞ……って違う! 妾の話を聞かんか!
炎の女性?の話を聞かずにカヤと話していたら怒られた。まあ当然なのだが、ちょっと拍子抜けだ。
手が出ないあたり、思っているよりもこの炎の女性は優しい人なのかも。話せば分かる人なのかもな。あ、人じゃなくて炎か。
「よし。話を聞こう」
――ようやく己の立場が分かったか。この愚か者め!
「そんな事言うなら話を聞くのやめようかなぁ……」
――す、すまん……じゃない! お前と話していると話がずれてしまうではないか!
「それはそれは……で、何の話?」
――お前達は何の為にここへ来たのだという話だ。
「なんでって言われてもなぁ……」
ただそこに建物があったから入ったってだけだが……それを真面目に言っても信じてもらえなさそう。『嘘をつくな愚か者めが!』とか言われてしまいそう。
――ここは外部からの侵入を防ぐ結界が張ってあったはずなのだぞ。それを掻い潜ってここまで来ているということはそれなりの理由があるだろう?
「結界? そんなのなかったけど……」
――嘘をつくな愚か者めが!
あぁ、結局言われてしまった。ただ、一字一句間違っていなかったのは流石俺だな。
――ここは妾を……四大精霊である妾を奉る祠であるぞ。そんな所へ実家に帰ってきたような感じで来れるわけなかろう!
「お、例えが上手い」
――だろう? ……じゃなくて!
「つまり、ここへ来れるわけないのに来れた理由を言えってことか」
――そういうことだ。やっと話が通じた。
ほっとした様子の炎の女性。なんだかんだ言って話が通じない事に焦っていたのかも。まあ、話が通じたと言うだけで、俺の言っていることは本当の事だから意味が分からないままだろうけど。
今はそこをちゃんと説明していかないとまた面倒くさい事になりそう。
俺はそう思い、炎の女性へとここに来るまでの説明をすることにしたのだった。
新キャラ登場です。次回もこのキャラとの絡みになります。
それでは、次回もお会い出来る事を願って。