091話 強化合宿
遅くなってしまい大変申し分ないです。年末で実家に帰ってきてから執筆時間が中々取れませんでした……(><)
遊園地へ遊びに行き人間関係が少し変化をしたり、魔法技術の授業で魔力の使い方を習ったり、と幾度の日を跨ぎ、入学から約三ヶ月が経とうとしている今日。
学園や学校ではそうそう珍しいことではないが、今日から二三三期生――俺達の学年――は強化合宿と言うなの研修旅行のようなものが行われる。
マリリン先生曰く、今までの学年も通ってきた道であり、通過儀礼のようなものらしい。
だがしかし。俺の小耳に挟んだ話では、強化合宿は今までにないくらいに過酷で、最悪死人が出る事も有り得るらしい。
ソースはマリリン先生。誰にも言うなと言われたが、即行でフィーに教えた。まあフィーに言いふらすの禁止だと言ってあるから大丈夫だろう。
身内贔屓なのは致し方ない。俺の身内になってくれる数少ない人だからな。
話を戻すが、強化合宿では旅に出るような服装、愛用している武器と予備の武器、必要最低限の道具を準備するようにと言われている。
強化合宿と言うだけあって中々に本格的である。まあ、俺は旅に出た事ないから旅装なんてないし、武器は盾一つだけで予備もないし、ましてや必要最低限の道具なんて、何が必要なのかすら分からないという事実。
俺……強化合宿で死ぬんじゃね……?
「カナタさーん! こっちは準備出来ましたよー。そっちはどうですかー?」
玄関から未だ自室にいる俺へ声をかけるフィー。それに対して出来たと返事を返し、フィーの前へ出ると、フィーが『えっ』と言う顔をする。
「ほ、本当にそれで行くんですか……?」
ちなみに俺の服装は、普段着に盾を装備という強化合宿には向かない格好である。だからと言ってはなんだが、腕についている四色のブレスレットが無駄に気合が入っているように見えて、やけに異色を放っている。
とは言え、ブレスレットは外したくても外せないので仕方がない。なんと言われようがこれが俺の服装。これしかないのだから当然だ。
「これしかなかったからな。まあ何とかなるだろ。今まで何とかなってたし」
「カナタさんはそう言って何度面倒事に巻き込まれてきましたっけ?」
「いやぁ何回だろうなぁ……」
俺は頭を手をやって、ははっ、と笑う。
「もぅ! そういう適当なところが巡りに巡って変な事件に巻き込まれる事になってるんですよ!?」
どうやらフィーは俺を本気で心配しているようだ。いつもの事だけど。
「大丈夫だって。なんてったって俺達には地上最強のカヤが付いてるんだから。な、カヤ?」
『うん! 二人はわたしが絶対に守るよ!』
「そうやってすぐにカヤがカナタさんを甘やかすから……カナタさんもカナタさんですよ?」
フィーは『はぁ』とため息をつく。大半というかほぼ全て俺のせいだが、フィーにはお疲れ様と労ってあげないといけないな。
「まあまあ。時間も迫ってるし、この話はとりあえずここまでにして集合場所に行こうか」
「はぁ……分かりました。本当はもう少しちゃんとしたやつに着替えて欲しいですが……買っとけば良かったです」
フィーはまたため息をついて、集合場所へと歩いていく。俺とカヤもその後をついて行き、集合場所を目指す。
今回の集合場所は第一演習場。そこから強化合宿用の演習場へと飛ぶ事になっている。恐らくゲートか何かを開くのだろう。
「そういえば強化合宿って何をするんでしょうかねー。詳しいことを何も聞いてないような気がします」
「確かに……危険だって事をマリリン先生が一方的に言ってきたこと以外は知らないな」
「何か知らせてはいけない事情でもあるのでしょうか?」
「強化合宿だしそういうのかもしれないな。不測の事態に対処する的な」
「なるほど」
適当な考察に納得したフィーだが、俺はそこまで深く考えていない。ただ、グリム学園の規模でここが冒険者育成機関であると言うならやりかねない。
その後、歩く事数分。時間も余裕に目的地へ着いた。クラスメイトはある程度集まっているが、まだ来ていない人もいる。
その人達を待つ時間で俺達はエド達や双子の元に向かった。
「よ、エド。早いな」
「これくらいは普通だ。早いというのはライトの事を言うのだ」
「ライトはいつ来たんだよ……」
「少なくとも集合時間三〇分前よりもまだ前だな」
「エド……お前三〇分前に来てたのな。充分はえーよ」
三〇前に来てこれくらい普通だと言えるエドは凄いのかただの馬鹿なのかよくわからん。
「実はね、エドは強化合宿が楽しみで夜中々眠れなかったんだよ。私、ちゃんと見てたから知ってるんだ」
「リ、リーンッ!? 余計な事は言わなくても……」
「お前、もう尻に敷かれてるのか……なんて言うか……頑張れ」
「なんだその哀れみの目は! そんな目で見るな!」
エドはこんなはずではなかったのにと小声で呟き、シュンとしてしまった。初めは堅い奴だと思ってたけど、エドはこんなにユーモアがあるやつなのだ。まあリーンを筆頭にからかってるだけなのだが。
俺がエドをからかっている間、フィーとカヤは双子の所に向かっていた。
「二人ともおはようございます」
「「あ、フィーお姉ちゃん。おはよーございます」」
「カナタさんもそうですけど、そんな軽装で大丈夫ですか?」
「「いつもこれで戦ってるから大丈夫」」
フィーは双子の格好を見て心配そうに顔を歪めていた。
双子の服装は色違いなだけで同じデザインの旅装束で、がちがちの戦闘と言うよりは戦闘ごっこのような感じだ。とは言え、普段着の俺よりは幾分かマシである。
『わたしがみんなを守るから大丈夫!』
「カヤは優しいですね~! 私は私を守ってくれるカヤを守りますよ!」
『ありがとー!』
「「僕(私)達も頑張るっ」」
「みなさ~ん。集まってください~」
フィー達の方で気合いが充分に入った時に、ちょうどクラスメイトが集まった用で、マリリン先生から集合の合図がかかった。
「これからみなさんにはこのゲートを潜って貰います~。詳しいことは向こうに着いてから教えますからどんどん潜ってくださ~い」
こっちですよ~、とマリリン先生はゲートに誘導して押し込んでいく。
俺達も流れに乗ってゲートを潜る。
そして飛び出した先の光景は驚くもので、なんと森の中の少し開けた平地だった。俺はてっきりどこかの施設に飛ばされるのかと思ってたのだが、さすがにこれは想像してなかった。
「は~い。みなさんこちらに注目してください~。これからみなさんには今日から一週間ここでサバイバルしてもらいます~」
突然の事にザワザワとなる。それもそうだろう。いきなりサバイバルなどと言われれば仕方のないことだ。
「この森は食べ物は豊富ですし~、水の確保も簡単です~。みなさんなら生き残ることが出来るはずです~。ただ注意してもらいたいのが、この森には魔物が出てくるという事です~。という事で、四~六人でパーティを組んでください~」
俺達は言われるままに臨時のパーティを組む。メンバーはいつもの面子。俺、フィー、カヤ、エド、リーン、クロロとクララだ。
他の所も無事、パーティを組めたみたいだが、それでもやはり戸惑いは隠せないらしい。
「それでは、そのパーティでサバイバルを生き延びてくださいね~。どうか死なない事を願ってます~」
マリリン先生はそれだけを言って帰って行った。しかも帰りのゲートは閉じて。
取り残された俺達は唖然とするしかなかった。むしろそれ以外に何が出来たというのだろうか。
しかし、このままでいる訳にはいかない。サバイバルと言うからには、水や食料の確保、火をおこすための薪の収集などをしなければいけないのだ。
日没まであと七時間程度。それまでにどれだけこなせるか……最悪薪だけでもなんとかしなければ。
と、俺がフィー達に今からやる事を告げようとした時だった。なんと、ライトが俺の前に立ちはだかったのだ。
「おい!」
「な、何か?」
「今度は俺が勝つからな! 勇者の名はお前には譲らない!」
「へ?」
「分かったな! 俺達は先に行く! せいぜい魔物にやられないように逃げるんだな!」
「お、おう……」
ライトはディーネとエルフの二人を連れて森に入って行った。
エルフの二人は確か、ティファとイスナって名前だったような気がする。噂ではティファという女の子もライトに引けを取らないくらいに強いらしい。
さすが勇者を目指すだけあって、強者を誘える程のカリスマ性もあるようだ。しかも森の中に率先して入って行くところなんてもうさすがとしか言えない。
ただ一つ。俺とライトは何の勝負をしているのだろうか。一方的に、勝つからな、と言われても俺が困る。ホント、何の勝負なんだよ……。
「カナタさん。みんなで話したんですけど、まずは水の確保に行きましょう。水は魔力で作ることが出来ますけど、魔物と戦うとなったら魔力を消費する事は避けたいですからね」
「あ、もうみんなで話終わったのね。俺もそれ言おうと思ってた。いいと思うぞ」
「はい! ありがとうございます!」
と、言うことで俺達は水を探しに行くことになった。周りのパーティもすることを決めたようで、ライトのあとに続くように森の中に入っていく。
三ヶ月共に過ごしたクラスメイトなので、出来るだけ生き残って欲しいの願いながら俺はそれを見送った。
そして、それに続くように俺達も一塊になって水の確保へ向かう。俺達はライト達が向かった方とは反対の方へ進むことにした。
「でもなんでこっち方面に?」
「それはリーンがこの先に水の気配を感じたからだ」
「そうなのか?」
エドがそういうので俺は確かめるためにリーンへ聞いてみたところ、うんと言う返事が返ってきた。
「私、水魔法が得意で、自慢じゃないけど結構な使い手だと思ってるんだ。それもあって、いつからか水がある場所とか水の気配とかを感じることが出来るようになったんだよね。多分、一定の基準を超えたらそういうのが出来るようになるんじゃないかな?」
「それって意識すれば出来る感じなのか?」
「うん、そうだね。旅をしてた身としては結構有用だったよ」
感心して『ほぉー』という声が自然と出てきた。なくても困らないが、あると便利だ。俺も習得出来るなら習得したいくらい。まあ、リーンが言うような一定の基準以上が必要であるなら不可能なんだが。
それからちょっと歩いた所でリーン急に止まって『あそこ』と言って指を指した。その先にあったのは水が湧いている湖畔だった。
そこへ向うと、キラキラと輝く綺麗な湖畔だった。湖の水は飲水にしてもなんら心配無さそうで、魚が泳いでいるのも分かるので、取れれば食べられるかもしれない。
リーンの能力様々であった。
「「きれい」」
「ですね~。あっ、ほら! 魚泳いでますよ」
『お魚、取ってきていい?』
「カヤって水大丈夫なのか?」
『人間の姿なら大丈夫だよー』
「じゃあよし!」
『わーい!』
双子とフィーはゆったりと鑑賞、カヤは魚を取りに湖の中に、俺はそれを眺めていた。
それを見ていたエドは頭を抱えている。
「はぁ。今のところ、サバイバルと言うよりピクニックという言葉がピッタリだな。もっと緊張感を持たなければならないというのに」
「いいんじゃないかな? 今くらいはね」
「そうは言うがな……いつ危険が迫って来るか――」
――ドバシャーンッ!!
湖から大きな水柱の飛沫が飛び散った。その中からクジラかと言うほどの魚が一匹ポーンと飛んできた。多分、このクジラらしき魚は湖の主だ。それをカヤが仕留めたようだ。
さすがカヤ。魚取ってくると言って主を狩るとは恐るべき無邪気さだ。
この一部始終を見ていた双子は大はしゃぎ。フィーは『さすがカヤですね』と誇らしげだ。けれども、エドとリーンは空いた口が塞がらない様子でぽかんとしていた。
「――どう、エド? これ見ても危険あると思う?」
「カナタもフィーさんもカヤちゃんもどこかおかしいと思うのは俺だけか……? 俺だけなのか……?」
「大丈夫だよエド。私は夢を見てるだけだから。これ夢だから」
「リーン。お前までおかしくなってるぞ。帰ってこい」
「私達、とんでもない人達と親しくなっちゃったね」
「あぁ全くだ」
エドとリーンはお互いをみて苦笑する。このまま、完成が麻痺してしまったら二人はどうなるんだろうか。見てみたいな。
「何がともあれ。カヤのおかげで三日分くらいの食料は確保出来た。カヤ、偉いぞぉ!」
『えへへー』
「よし! じゃあ、あとは薪を集めて飯の準備をしよう! 今日はそれで乗り切れるな」
そうしてみんなで薪を集めて回り、その薪で火をおこして魚を焼いた。意外と肉質が固めで歯ごたえがあり、油ものっていたので、まるで動物の肉を食べているかのような感じだった。味も申し分なくとても美味しかった。
夜になると、焚き火の火を消さないように薪を足しながら、見張りを大人で順番に変えて過ごす。
そうして、サバイバル一日目は何事もなく終えたのだった。
ようやく書きたかった強化合宿に入りました。当初の予定だともう少し早目に入ってるのですが、なんやかんやでこんな感じに……。
まあ、これからも楽しく書いていくのでみなさんにも楽しんでいけたらいいなと思います。
次の更新は新年開けてからとなります。よいお年をお迎えください。
それでは、次回もお会い出来る事を願って!