090話 案の定魔力切れ
いっつも遅れてばっかでほんっとにすいませんっ! 年末の忙しさが異常なんです……なんなんですこれ……辛いですよ……
それと前回話が進むと言いましたが、そんな事はありませんでした……泣
エクストラパークで遊んだ日から数日が経過した。
あの日のエクストラパークで各々の関係に様々な変化があった。例えば、俺とフィーで言えば、フィーが少し弱音を吐いてくれるようになった事、エドとリーンで言えば、二人が付き合い始めた事だろうか。
いやぁ、エドとリーンの方は正直驚いた。観覧車から降りたら二人が手を繋いで俺達を待っててくれていたのは良かったのだが、合流してすぐに『付き合い始めました』って言われたからな。
正直、俺達の方も結構深い話をしたような気がするのに一瞬で飛んだ。それくらいの衝撃だった。
だって、あのお堅いエドが顔を真っ赤にして恥ずかしがったんだぞ。天変地異の前触れかと思った。まあ本人にそう言ったら案の定殴られたがな。
ちなみに、カヤはゴンドラから降りる前くらいでお眠になっていて俺がおぶって帰り、エド達と同じゴンドラだった双子は、エドとリーンを見て恋がどうとか恋人がどうとか言っていた。
……子供は子供なりに色々な所で知っていくだろうし、理解出来るようになるのはそれまでの辛抱ってとこだな。
その話はおいおいとして、今日もいつも通りに学園生活が始まる。入学してから大体二週間位が経ってようやく学園に馴染んで来た。
相変わらずマリリン先生は俺を狙ってくるし、勇者を名乗るライトはことある事に絡んでくるしで、心労は絶えないが楽しく過ごせている。
そして今日は魔法技術の授業がある。一度授業を受けているが、その日はガイダンスだけで授業が終わり、実質的にものを教わるのは今日が初めてである。
生活魔法しか使えない俺でも魔法技術が向上すれば、それなりに魔法を使えるようになるのではないかと思うとワクワクする。
――キーンコーンカーンコーン。
チャイムがなるのとほぼ同時くらいに魔法技術の担任の先生が教室へ入ってきた。ちなみに、魔法技術の担任はシーム先生だ。確か、同じ学年の一組の担任をしている先生だ。
「全員、着席するように。それでは授業を始める」
先生はそう言うと、教室へ持ってきていた教材を俺達へ配る。回ってきたものを見てみると、料理などでよく使うボウルによく似ていた。
「全員に行き渡ったな。では、実習を始める前に。魔法技術を高める為にこれからやる事の説明を行う。とは言え、言葉だけで理解が出来るとも思えない。だから私がこれから実演する」
先生は教壇の上に俺達の手元にあるボウルと同じものを置き、その中に水を注ぎ始めた。
「使用する魔法は生活魔法。誰でも使える魔法だが、ひとたび使用法を変えると高度な魔法へと進化を遂げる。見ていたまえ」
先生が小声で呪文を唱えると、ボウルの中に入っていた水が宙に浮き始め、先生の顔の高さまで上昇する。
更にその後、宙に浮いた水は自ら分裂を始め、徐々にその数を増やしていく。それを見ている生徒の中には、その光景に思わず声が漏れるものもいた。
最終的に分裂した水は数えきれない程の無数の水滴となり、先生の周りを漂っていた。
「と、まあこんなものだ。見ているだけだと簡単に感じるだろうが、そう簡単にいくものではない。大体一ヶ月練習して、水滴を一二八粒程に分けることができる程度だ」
確かに、見ているだけなら簡単そうではある。だが、あれと似たような事をフィーが火の玉でやっているのを見たことがある。確か名前は『炎の魔球』だったな。あれも一個が六つに分裂していた気がする。
「今回は水を四つに分ける所までをやってもらう。それだけかと思うかもしれないが、これだけで相当な神経をすり切らせる作業だ。心してかかるように」
そう忠告されてから、実技が始まった。
各々ボウルに水を貯め、呪文を唱えて水を浮き上がらせていく。
俺も負けじとボウルに水を貯めるが、それだけで魔力が三割程持っていかれたような感覚があった。魔力が少なすぎて辛いぜ……。
取り敢えず残っている魔力で次の段階に進むとするか。
「って俺、水を浮き上がらせる呪文知らないんだけど……どうすればいいんだ?」
「カナタさんは無詠唱が使えるんですから呪文は必要ないんじゃないですか?」
隣で俺の独り言を聞いていたらしいフィーにそう言われて俺はハッとした。みんなが呪文を唱えているから無意識的に俺も呪文を唱えなければいけないと言う強迫観念があった。
だがしかし、俺には無詠唱という技術がある。呪文なんて要らないのだ! まぁ、だからといって水を浮かせたり分裂させたり出来るかと言われれば別だが……。
「んんーっ、難しいですね……頑張っても八個までしか作れません」
フィーは既に水の分裂を可能としていて、更に今回のノルマである四個を軽々超えていた。さすがに火の玉を分裂させることができるフィーには簡単すぎたらしい。
で、肝心な俺の方だが、実は水をちょっと持ち上げて滞空させていた所、ものの数十秒で魔力が底を突いた。これ以上魔力を使おうものなら命の危険があるレベル。マジで魔力少なすぎなんだけど……!
「フィーは流石だな」
「これくらいならカナタさんに教わった方法で出来ますよ。イメージすれば簡単ですし。カナタさんの方は……その……」
一度こっちを確認したフィーが、俺のボウルの中を見て『あぁ……』という申し訳なさそうな顔をした。なんて惨め。まぁこういうのには慣れてるしどうでもいいんだけども。
「まぁ察してくれた通り、案の定魔力切れだ」
「本来なら成人男性以上の魔力は生成されているはずなんですけど……カナタさんの場合、なんだか魔力の大半が作られたそばから何かに消費されてるみたいなんですよね」
フィーは俺の方を見ながら、俺ではない何かを見つめる。具体的には俺の腹付近。話の流れから大体何を見ているのかの想像は出来るが、フィーがいった何かに消費されてるというのが謎だ。
と、俺は気づいてしまった。
「もしかして、俺の傷が早く治ったり、いわゆる不死身だったりのために魔力が消費されているのでは……」
「確かにカナタさんは傷の治りが早いですから、そうなのかも知れませんね」
フィーも納得の理由だった。俺、こんな能力要らないのにまさか足を引っ張って来るとは。悲しきかな……。
俺はボウルに張った水に映る自分の顔を恨めしそうに眺める。なんとも不細工な顔だ……自分で言ってて泣きたくなってきた……。
「はい注目ー。同じ質問が何度か来たから全体に説明する」
先生が手を挙げて注目を集める。
「水を貯める時や浮かす時の呪文は自分が想像しやすい単語を並べるだけでいい。そもそも呪文の定型文というのは万人の想像しやすい単語が並べられているだけだ」
その考えならほぼ無詠唱と同じだ。声を出すか出さないかの違い。けど、声を出す方が出さない時よりも圧倒的に想像しやすいのは確かだ。声に出すことによって頭の中できれいに整理され、明確なイメージを持つ事が出来る。
無詠唱が辛いのはイメージを明確にするまでに少し時間がかかることだ。慣れればなんてことないのだが慣れるまでがきつい。
まあ、今の時間は無詠唱同行と言うよりも魔法自体の技術を底上げする時間なので、どうでもいいと言えばどうでもいいのだが。
「ちなみに、フィーのそれは無詠唱?」
「はい。いつも通り無詠唱ですよ」
「一回詠唱ありでやってみたらどうなるのか知りたいが……如何せん俺の魔力は切れてるからな……」
「私がやってみましょうか?」
「じゃあ、お願いしてもいい?」
「もちろんですよ」
フィーはそう言うと宙に浮いている水を凝視して呪文を唱え始める。
「別つのはソナタ。別れに別れ、数多の偽身を作らん……裂けて分かれろ! 『水分身』!」
呪文が『裂けて分かれろ』までなのか『水分身』までなのかは分からないが、フィーは即席でこの呪文を考えついたようだ。
もしかすると、『水分身』は『炎の魔球』的なノリでつけたただの技名でフィーの趣味的なやつかもしれない。『閃光爆弾』もそんな感じだったし。
話がそれたが、呪文を唱えた事で八個だった水滴は更にもう一回分裂し、一六個の水滴へと姿を変えた。やはり、呪文を唱える事でイメージが更に明確になったという証拠だろう。
だがやはり、呪文だけに頼っていると、いざ無詠唱をしようとした時にイメージしにくいかもしれない。シーム先生は特に。
先生位のイメージが持てるなら無詠唱は簡単なはずだが、唱えなくても良さそうな場面でも必ずと言っていいほど毎回呪文を唱えている。もしかしたら無詠唱が出来るのかもしれないが、見たことないので本当の事は分からない。
「んー。やっぱり無詠唱だとイメージしにくいんですかね。呪文を唱えればイメージが明瞭になるので魔法の質が上がるみたいです。ですが、無詠唱だと呪文を唱える時間が要らないので早撃ち出来るんですよね……」
「より実践的なのは無詠唱だけど、生活で使っていくなら呪文を唱えた方が効率がいいかもな」
「そうですね。とは言え、日常的に無詠唱使ってないとイメージを明確にする練習にならないので、まだしばらくは無詠唱でいきますよ」
フィーは『よーし』と気合を入れて水の分裂に精を出す。
俺も魔力が少ないのもあり、今の時間で魔力が早々に回復したので、浮かせて分裂させる作業に入るが、やはり浮かせただけで魔力が切れる……全く練習にならないのだが……マジで泣いていい?
とまあ、浮かせると魔力が切れるので、ボウルの中で水を分割することにした。するとどうだろう。ボウルの中で水が二つに分裂させることに成功したのだ。けれども、同時に俺の魔力も切れたのだ。
予想してた通りに出来たのはいいが、無性に泣きたい気分になったのは言うまでもない。
それから幾許かの時間が過ぎ、授業が終わる時間が迫ってきた。
「はい、注目。今日の授業はここまで。各々家や寮で復習しておくように。この訓練は、魔法の精度を上げるだけではなく、慣れれば消費する魔力量も減ってくる。一朝一夕にはいかないだろうが根気よくねばるように」
シーム先生がここで締めて授業は終了した。
締めの言葉の最後の方に、なにやら気になる事があった。消費する魔力が減るという所。
イメージが明確になると、使う魔力も減るという事なのだろうか。もしかすると、魔力は事象を引き起こす事に使うだけでなく、イメージの補完にも使うのかもしれない。
となれば、イメージをより明確に、むしろ目の前にそれがあるかのように想像する事が出来れば、魔力量が少なくても生活魔法くらいは人並みに使えるようになるかもしれない。
なんか希望が見えてきたぜ。あぁ……生きてきた良かった……。
俺が生きている事に感謝しながら心の中で涙を流していると、ライトが俺の目の前にやってきた。
「ふっふっふ。初めてやっても俺は水滴を六個まで分けることが出来たぞ。勇者を名乗るからにはこれくらいは出来なくてはな! ところでお前はどうなんだ? もしや出来てないなんて事はことはないよな?」
勝ち誇ったような顔で言い放つライト。何だか幼子を見ているみたいで親の気分になるのはどうしてなのか。ライトの自己顕示欲が強いからかもしれんな。
「お前すげぇなぁ。俺とか魔力がほぼねぇから二個に分けることすら厳しかったぞ。いやー、お前達が羨ましいわ」
「ふふん、分かればいいんだ。なんてったって俺は勇者になる男だからな!」
ライトは嬉しそうにそれだけを言って去って行った。あいつは俺に一体何を求めているのかよく分からん。だが、悪い奴じゃないってのはわかる。
まあ、ライトはまだ子供だし、これからの成長に期待しよう。
こうして、今日の魔法技術の授業は終了した。
次は多分本当に話が進むはずです。本当に多分です。分かりません。出来れば進ませて欲しい(願望)
それでは、次回もお会い出来る事を願って。