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087話 みんな待ったか?

 遅くてすいません……って言うのも何回目だろうか……本当に申し訳ないです。


 神界の中でも牢獄と呼べる神が神を罰する事を目的とした部屋で、未だ拘束されたままのテスタと"哀"の二柱がそれぞれの地球から連れてきた人間を観察していた。


「はぁ……じっとしてるだけって結構ツマラナイなぁ……」


 長時間拘束されたままのテスタは、やれやれといった様子で呟くように口にする。彼にとって『つまらない』とはこの上ない程の苦痛の表現である。

 気を紛らわそうと奏陽の様子を眺めていても、それは覆ることの無い事実だった。


「哀がもうちょっと構ってくれたらいいんだけどなぁ……ねぇ哀~」


「…………」


「哀ってば~」


「…………」


 テスタはつまならさを誤魔化すために哀に呼び掛ける。少しでもいいから楽しい事が起きないかなという気持ちの現れだ。

 けれども、そんなテスタには目もくれず、哀はただひたすらに自分が連れてきた人間の観察を続けていた。


「ムゥ~……折角、哀が干渉してきた事をお咎めなしにしてあげたのに、ちょっとくらいボクの話を聞いてくれてもいいじゃないか」


「…………はぁ。なんだ。我は忙しいのだ」


「あははっ、話するの久しぶりだね!」


 哀は心底面倒くさそうにテスタの方を向く。いつもならば無表情である顔はその時ばかりは嫌そうなものであった。

 けれども、テスタにはその反応ですら新鮮なものであり、彼の心を満たすのに十分なものだった。彼は、久しぶりの満ち足りた気分で高揚しながら、哀へと言葉を投げる。


「どう? キミが連れてきた人間は。彼女もカナタと違って普通の人間と変わらない運命に翻弄される側の人間でしょ? 何か得られるものはあるの?」


「……それはカナタという人間が特異的な存在であるからだ。通常であれば彼女のような人間がどのように運命を超えていくのかを観察するのが我々の使命だ」


 彼女はさも当然のように言い放つ。それもそのはず。普通ならば神々の使命は哀の言った事で間違いはないのだ。普通(・・)ならば。

 テスタはあまりにありきたりな言葉で少し笑い始める。


「キミはユーモアがあるね。そんなみんなが思ってるような事はどうでもいいんだよ。キミが本当に(・・・)思ってる事を教えて欲しいな」


「…………今はどうにもつまらないな」


 哀はテスタにすべてお見通しであると観念し感じていた事を口にする。


「うんうんだよね! それが本音だよね!」


「――しかし、この先に彼女の数多の未来が見える。それまで彼女がどう過ごすのか見てみたい気もする」


 哀が『ふっ』と口元を綻ばせる。今までの哀なら絶対に有り得なかった表情の変化。それを見たテスタは哀が進化の道を更に前へと進んでいる事を実感した。

 それが彼にとってはどれほど心躍るものなのかは彼自身しか分からない。


「あぁ……キミは凄いよ! 結果だけじゃなくて過程も気にするようになったんだね! もうキミはそこらにいる頭の堅い神達とは全く別の存在だよ!」


――あぁ……会話がとても楽しい!


 テスタはそう感じていた。彼の心を満たせるものは哀か彼の前に映っているカナタだけだが、今、この場所、この空間で満たしてくれるのは哀ただ一人なのだ。


「ボクも……ボクも進化してるのかなぁ!」


 体の奥から湧き出るような高揚感と理性が飛びそうになるほどの興奮がテスタの頭を支配していた。


――カチリ。


 テスタの頭がそう理解した時、彼はパズルのピースがピッタリとハマったような感覚に陥り、そして直感的に理解した。


「あ。そうか、ボクは今とても喜びに満ちてるんだ。楽しむだけじゃなく、それに対する喜びが……あは……あははっ。ボクに概念が生まれたよ。今のボクには概念が二つある……ボクは進化してる……進化してるんだね」


 テスタは進化をしている事に喜び、進化する事を楽しんでいる。そうして概念が二つとなったテスタは、概念が一つしかない今までのありとあらゆる神を凌駕する。


「ボクを縛っていられる神はもう居ない。こんな拘束あってないようなものだよ」


 テスタは神々の強力な拘束を息をするように簡単に解いた。


「――――」


 それを見ていた哀はえも知れぬ感覚に陥っていた。目の前にいるテスタと目を合わせなくない、近付きたくない、触れたくない。そう感じていた。


「どうしたの哀? ……あっ、もしかしてボクが怖いの?」


「……我がそなたを恐れる理由がない」


 哀はテスタにそう答える。が、しかし、テスタはそれを全く取り合わない。


「あははっ、ボクに強がりは通じないよ。キミは怖いんだ。ボクの進化を目の当たりにして恐怖を感じたんだよ」


「我が強がる訳がないだろう……! 恐怖なんぞ感じてはおらぬ……!」


 自分が言ったことに対して、それを強がりと言い恐怖だと決めつけられた事で、哀は声を荒らげて反論した。彼女はそれを無自覚(・・・)自然に(・・・)行動にしていた。

 それを見たテスタは更に口元を綻ばせる。


「あははっ、怒っちゃった(・・・・・・)? 怒っちゃったんだね! キミはたった今怒ったんだよ! それが意味する事分かる? 分かるよね!」


「我が憤怒した……? この我が? そんな……まさか……」


「あははっ、ほらおいでよ。キミもボクと一緒に来るんだ。誰にも邪魔されず、誰にも見つからず、けれど神々と共に存在が出来る場所に」


 テスタは哀に嬉々として手を差し伸べる。その姿はまるで、人間の子供が友達を連れて遊びに行こうと誘っている姿であった。


 そうやって差し出された手に、哀は自分の手を自然に伸ばしていた。普通ならば神々の拘束によって手を伸ばそうとしても拒まれるはずが、今は何の抵抗もなくするりと抜ける。

 それを実感してようやく彼女は自らが進化しているという事を自覚した。そしてそれと同時に彼の手を取る。


「そなたと共に……」


「もちろん! さぁ行こうか! 楽しい事はまだまだ沢山あるんだから!」


 テスタは哀の手を引いて、これから先に更なる進化の道がある事を信じて疑わずに牢獄から抜け出していったのだった。




   ◇◆◇◆◇




「フィー、カヤの準備は出来たかー?」


「あともう少しで完璧になりますよー」


「おーう」


 日が登り外が一層暖かくなろうとしている現在、俺達は自分を着飾って外へ行く準備をしていた。

 と、言うのも今日は学園に来て初めての休日で約束の日なのだ。エド、リーン、双子、俺達合わせて六人と一匹。結構な数で遊びに出かける。


 目的地はエクストラパークで名前的に遊園地か何かだということが分かる。カヤも昨日からうずうずしており、今日はちょっとテンション高めだ。


「はい! 終わりです! どこからどう見てもただの天使にしか見えません」


 カヤの身なりは厚手の白いワンピース。薄ピンク色をした桜の花びらのようなものがヒラヒラと舞っている柄物だ。

 俺は初めて見る服なのだが、いつだったかフィーがめちゃくちゃ服を買ってきた事があったのでその時の服の一つだろうと推測した。


『てんしーっ! パタパタパタ~』


「あぁ……萌え死ぬ……」


『死んじゃいやー!』


――ギュッ。


「はぅ……カヤは紛うことなき天使ですよ……」


 コントかと思うような変な行動を取っているが、これもこれからが楽しみすぎてうずうずしている結果である。


「はぁ……二人とも何やってんだよ……俺も混ぜろー!」


 俺は二人に軽く襲い掛かるような素振りを見せる。


「『キャーッ!』」


「待て待てぇー!」


 キャッキャ言いながら逃げていく二人を『ぐわー』だの『ぐおー』だの言いながら追いかける俺。普段ならしないだろう事をやっているのを見ると、どうやら俺も遊びに行くのが結構楽しみらしい。


「捕まえたぞー!」


『つかまっちゃったぁー! きゃははー!』


 捕まえたカヤを抱き上げ、フィーの元へと連れていく。本来なら降ろしてそのまま待ち合わせ場所に行った方がいいんだが、フィーが羨ましそうな目でこっちを見るからどうにも。ホント、フィーはカヤのことになったら人が変わったかのように甘えん坊になるんだから。


「よーし。みんな準備万端だし、そろそろ行くか」


「待ち合わせ場所は寮の前ですよね?」


「おう、もしかしたらもうみんな来てるかもしれないな」


『早く行こー!』


 カヤが俺とフィーの手を引いて外へと連れ出して、待ち合わせ場所まで突っ走る。これ程までにテンションが高めのカヤは稀なので、今のうちに脳内にしっかりと保存しておく。


 それから数分もしないうちに待ち合わせ場所に着いた。どうやら俺達が一番最後だったらしい。


「よ、みんな待ったか?」


「僕はリーンお姉さんの五分前に来た」

「私はクロロが来てから一分後に来た」


「俺はクララが来る十分前に来たぞ」


「私が来たのは君達が来る一五分前だったかな?」


『……うぇ?』


「え、えーっと……?」


「なぜにそんな回りくどい言い方をするんだよ……」


 示し合わせていたかのようにするりと言葉にする四人。というか完璧に示し合わせていたとしか思えない。

 ちなみに、早く来た順だとエド、クロロ、クララ、リーンだ。エドは俺達が来るまで約三〇分、正確には二九分待っている計算になる。


「まぁ、取り敢えずみんな結構待ってたんだな。遅れてすまん」


「いや、カナタ達は時間丁度に来たのだ。謝る必要はない。そもそも俺が早くに来たのは双子のためなのだからな」


「エドは朝から双子がちゃんと来れるか心配で気が気じゃなかったみたいだよ?」


「リ、リーン! あ、あることない事吹聴するのはやめてもらおうかっ!」


「でも私にはそう見えたけどなぁ? 長い付き合いだし間違える事ないと思うけど……」


「だ、だとしてもだ――」


「エド……それ以上は傷口を開くだけだ。素直に認めた方が楽になれるぞ」


「――くっ……」


 エドも難儀な奴だな。子供にとても甘いのがバレバレなのに自分のプライドを保たせるために意地をはるなんて。まぁその気持ち分からなくもないけど。



「今日カヤちゃんがきれい」

「フィーお姉ちゃんがやったの?」


「そうですよ。カヤはそのままでも十分すぎるくらいに可愛いですけど、着飾るともっと可愛くなるんです」


『わたしきれいー!』


 カヤのセリフはどこぞの口裂け女さんのものと似ているが、フィーの言っている事は間違っていない。着飾ったカヤは、なんて言うか……もう、可愛いは正義みたいな。なんでも許される的な。そんな感じの可愛さ。


「みんなそろそろどうかな? エクストラパークに行かない?」


「そうですね。遊ぶ時間も限られてますし」


『いくー!』


「「楽しみ」」


 カヤと双子は目をキラキラと輝かせて期待を胸にしているのがよく分かる。


「じゃあ行くか。カヤは俺と手を繋いでいこうなー」


「あっ! カナタさんだけずるいですよ! 私もカヤと手を繋ぎます!」


『二人とつなぐー!』


「僕達も繋ぐ?」

「繋ごっか」


「ねぇエド。双子を挟んで手を繋ぐっていうのはどうかな? 喜ぶと思うんだ」


「……仕方ないな」


「クララちゃんは私と手を繋ごっか」


「うんっ」


「クロロは俺とだ」


「ありがとっ」


 ふむふむ。みんないい関係ではないだろうか。双子とリーン達の仲も悪くない。むしろとても良い関係に見える。これも一重に四人の人間性の良さだろうな。


 そうして俺達はそれぞれ手を繋ぎ、エクストラパークまでの道のりをわいわいと談笑しながら歩いていった。


 偶に神様達の事を忘れそうになります。彼等も割と重要な立ち位置にいるんですけどね……ホントなんで忘れるんだ……。

 と、まあ今後も今回のような感じで神様達も出てくる予定です。見守ってください。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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