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085話 午後の授業


 なんとかマリリン先生からのアピールを掻い潜り、身体的にも精神的にもダメージそこそこで午前中の授業を終えた。

 ホント、マリリン先生はすぐに手を出してくるからな。俺じゃなかったら全身打撲傷確定だぜ。


 授業終了後は教室でフィーとカヤの二人と合流後、昼食を撮るために学食へと向かった。学食は生徒達に大人気らしく、俺達が向かった時には並んでいる生徒が一〇〇人を優に超え、机の方は半分位が埋まっていた。

 ここで問題となったったのが、この俺だ。どうやら、これくらいの人混みで酔えてしまった。


 自分の貧弱さを嘆き、込み上げるブツを必死で抑えながら学食を受け取り、ものを口にした。すると学食の美味しさで酔いが軽くなり、その上、食が進むではないか。この時ばかりは驚いた。

 伊達に優秀な冒険者だけを集めてる訳じゃないなと思った。


 ちなみにフィーは学食の美味しさに敗北感を感じたようで、『どうすればお肉をこんなに柔らかくできるのでしょうか……』や『この味付け……しっかりしてるのにしつこくない……どんな調味料を……』など、料理の研究に勤しんでいた。


 驚いた俺と研究するフィーに挟まれていたカヤはというと、ただひたすらに幸せそうに食事をしていた。一口食べる度に『おいちぃ〜♪』と顔を蕩けさせ、甘いデザートを食べる度に『ふわぁ〜ぁ♪』と脱力していた。

 無論この時のカヤの顔は俺の脳内にしっかりと焼き付いているから何時でも思い出せる。辛い時にはこの顔を思い出して頑張ろう。


 さて、昼食を取り終えた俺達は午後の授業である歴史のために教室に戻って来ていた。


 今、俺達の周りには、クロロとクララの双子とエド、リーンがいる。俺以外の全員が午前中の授業で応用魔法を受講していたようで、その話で盛り上がっている。


「――それにしてもびっくりしたよね。いきなりフィーさんが無詠唱で魔法を発動させるなんて」


「い、いつもの癖で……」


「いつもの癖って言えることがそもそもおかしい事なんだよ……? 先生の驚き様を見ればフィーさんも何となく分かるんじゃない?」


「あはは……」


 いつものフィーなら余裕を持ってゆったりとしているか、カヤの事で興奮しているかのどちらかが基本スタンスなのだが、たじたじになっているのは珍しい。


 そんなフィーだが、どうやら授業中に無詠唱で魔法を発動させただけで大騒ぎさせてしまったらしい。生活魔法だけしか使えないが、無詠唱なら俺も出来るんだが……。


「無詠唱ってそんなに騒ぐ事なのか?」


「騒ぐも何も、詠唱破棄はありこそすれ無詠唱は二千年前に廃れた技術だが……冒険者をやっててそんな事も知らないのか?」


「大昔って言うのは知ってたけど、無詠唱くらい誰でも出来るようになるし……現に俺も無詠唱使えるけど――」


「「はぁ!?」」


「――うぉ!? びっくりしたぁ……」


 エドとリーンが声を揃えて大きな声を上げた。そのせいでクラスメイトから視線を浴びてしまって居心地が悪い。まあ声を上げてしまう気持ちも分からなくはないけども……。


「フィーお姉ちゃんとカナタお兄さんは」

「無詠唱で魔法使えるの?」


「はい、私はカナタさんに教えてもらいましたよ。確か、一ヶ月位で使えるようになったと思います」


「あの時のフィーの喜びようは凄かったなぁ。懐かしい」


「「…………」」


 なんだろうか。エドとリーンのこっちを見る目が鋭くなった気がする。


「カナタくん。別に疑うわけじゃないんだけど無詠唱で魔法を使って貰えないかな? 確認したいんだよね」


「別にいいが、俺は魔力が圧倒的に少ないせいでそんなに持続出来ないからな」


 俺は目を瞑り、人差し指だけ上に向ける。後は生活魔法のライター程度の炎、魔法名『ファイア』を発動させる。

 指先に魔力を集め、ライターの火をイメージして指先から魔力を放出し火をつける。


 俺は魔法が無事に発動した事を感じて目を開ける。


「ふぅ……魔力が少ないとこれだけの魔法を発動させるのもきついな」


「本当にカナタくんも出来るんだね……」


「――見たところ、この魔法は生活魔法の『ファイア』だな? こんな魔力消費が少ない魔法を発動させるのに苦労するとはどいうことだ?」


「あー……俺、産まれた時から魔力がほぼないんだわ。そのせいで魔法を使うにしても命の危険があってな。まあ生活魔法なら日に数回は使えるから不便はないから心配しないでくれ」


 魔力切れは命が危険に晒される要因だから、最近はほとんど魔法を使ってないな。魔法でなくても出来る事なら魔法は使わないことにしてるし。


「と、まあ俺はこんなんだけど、もし無詠唱を覚えたいなら原理ぐらいは教えるぞ? どうだ?」


「本当!? じゃあお言葉に甘えて……」


「更に強くなれるなら断る理由もないな」


「僕も」

「私も」


「「教えて欲しい」」


「うっし、任せろ。……って言ってもそんなに難しい事じゃないぞ? ただ、発動する魔法をイメージして体内の魔力をそれに変換するだけだしな。なっ、フィー?」


「そうですね。言うのは簡単ですけど実践するのが結構難しかったのはよく覚えてます」


 魔法を発動させるためにはイメージを明確に持つ必要がある。フィーは、そのイメージを明確にするまでに一ヶ月かかったわけだ。

 あとは一度コツを掴めば、自転車に乗る事同様何も考えずとも体が覚えて勝手に出来るようになる。


「んんっ――っ! …………簡単には出来ないね」


「……………………そうだな。これだけ集中しても到底出来る気がしない」


「「んーっ! …………出来ない……」」


「まあフィーでも一ヶ月はかかったんだし、ゆっくりやってけばいいと思うぞ。それより、ほら。そろそろ午後の授業が始まるぞ」


 昼休みの終わりを告げる予鈴のチャイムと同時に歴史を教えてくれるのであろう女性の先生がクラスに入って来た。俺よりも少し年上だが、いい歳の取り方をしてるなと感じさせるような熟年の朗らかな感じが伝わってくる。それと笑顔がとてもキュート。


 その先生はノートを取り出して教卓の上に広げて授業が始まるまでの間、何かの本を読んでいた。その姿もまた様になる。自然体でいて、まるでそれが当然であるかのような感じ。

 俺も将来はあんな感じに落ち着いた年寄りになりたい。


――キーンコーンカーンコーン……


「……それでは始めましょうか」


 先生が読んでいた本をパタリと閉じてそういうと、日直から号令がかかった。


「これからあなた方の歴史を担当するフェイミーです。よろしくお願いしますね」


「「「よろしくお願いします」」」


 簡単な自己紹介もそこそこに、フェイミー先生はチョークを取り出して授業を始める。

 白のチョークによって黒板に書かれたのは『歴史とは何か』という文言だった。


「みなさんは歴史とは何か分かりますか?」


 フェイミー先生が優しい口調で俺達に問いかけてきた。歴史とは何かとはなんとも哲学的な事を聞いてくるものだ。


 俺は歴史について色々考えて見るが、人の歩んできた過去の時間を表したものとしか思い付かない。


「私は、歴史とは過去の人達が未来の私達へ託した想いであると思っています。過去の大きな出来事は世代を超えて伝えられ、決して失われる事のないものです。その中には伝えた者、伝えられた者の想いが募っているのだと感じませんか」


 なるほど、と俺は思う。フェイミー先生の感じ方も数ある考え方、感じ方の一つだろう。歴史の背景には必ずその物事を起こした誰かがいて、その誰かには何かの想いが働いているに違いない。

 フェイミー先生は歴史とはそんな人達の想いが綴られてきたものだと言っているのだろう。


「分かりやすく例えて感じてみましょう。この世界に生まれてきたのなら誰でも知っている死神(しのかみ)です。彼もしくは彼女は英雄譚として語られる程に影響を及ぼした偉人です。死神(しのかみ)は戦争によって荒廃し滅亡を待つだけだった世界に福音をもたらし、世界に住む全ての人々に祝福を授けました」


 やけに仰々しく言うが、確かに死神(しのかみ)とはそんな風に伝えられてきている。実際に見てきたわけではないから本当の所は分からないが、少なくとも伝えられてきたものに近い事はしてるのだろう。


「そんな死神(しのかみ)に救われた者や心動かされた者が様々な想いをのせて後世へと伝えてきたのです。歴史とは人の想い。それを深く感じて真実を読み解いていくことが重要となるのです」


 中々に良い事を言う。この先生の歴史の授業は楽しく受けれそうだ。


「まずは想いを成す広義的な『人間』の誕生について皆さんに知ってもらいたいと思います。それでは皆さんに聞きます。この世界には何種族の『人間』が存在していますか?」


 フェイミー先生の問いかけは比較的簡単なものだ。一年半ほど前にこの世界に来た俺ですら知っている事だ。


「――はい!」


「では、ライトさん」


「人間、獣人、エルフ、ドワーフ、龍人そして魔人の六種族です!」


「その通りですね。ではどのようにして六種族もの人間が産まれたのか分かりますか?」


「…………神の悪戯?」


「ふふふっ。ライトさんの言う事も見方次第では間違いではないかもしれませんね」


 よくよく考えて見れば、人間以外にも『人間』と呼ばれる種族がいることは異常だ。

 地球では俺と同じ外見の人間しかいなかった。この世界も地球と同じで俺と同じ外見の人間しかいない。もし、生物の進化の過程が地球と同等のものを経るなら、『人間』と呼べる種族は人間だけになっていたはずだ。


「これには諸説あるのですが、一番有説なのは、魔力の発生によって生物の進化が歪んでしまったからだというものです。魔力発生以前は人間しかいなかったと言われています」


 魔力発生によってか……だがそもそも何故魔力が突然発生したのかが謎だ。何か要因があるのだろうか。


「魔力が発生したのは何万年も前の事ですが、丁度その時期と被るように『天より飛来しせし強大な力を持つ石』という文献が見つかっています。つまり、魔力と呼ばれる力を持った隕石が降ってきた事で進化に変化が生じたのです」


 地球に影響を及ぼす程の隕石とは恐れ入る。まるで氷河期に入った原因が隕石だと言わんばかりに似ている。


「文献が見つかったということはそれ以前に人間が生きていた事を表します。そして魔力に触れた生物達は本来とは別の進化を辿ります。獣は更なる知性を持ち始め、恐竜は力そのままに小型になり、そして魔力を得た人間も分岐する。それによって、今の六種族が出来ているのです」


 魔力が進化を歪めた……いや、この場合は別の可能性を引き出したと言うべきかもしれない。それによって伴ったものは他種族への差別であったり偏見であったかもしれないが、一種族を除いて今では手を取り合って生きている。これも人間の可能性の一つなのだろう。

 とは言え、魔人に対してここまで徹底的に抗戦する姿勢を見せている意味が分からない。俺が知っている限り、少なくとも魔人が戦争から逃げただけで人間側からすれば戦う意味などないはずなのだが。


「皆さんが理解出来るか分かりませんが、この進化で様々な負の行動が行われました。日常的だったのは差別や偏見、酷い時には他種族を意味もなく虐殺したり奴隷として死ぬまで酷い扱いをしたりしていました」


 先生は黒板へつらづらと他種族へ行われていた残酷な行動を書き記していく。中には拷問のようなものもあり、想像するだけて顔を歪めてしまう。


「皆さんは、これらが原因で起こった出来事を知っています。なんだと思いますか?」


「――はい」


「ではエドウェントさん」


「自分は二千年前の種族間戦争であると考えます」


「その通りです。二千年前に起こった種族間戦争は他種族から自らの身を守る為に抗戦した事がきっかけとなっているのです。そのきっかけを作ったのが人間族と魔人族なのです。外見的な容姿はほとんど変わらないのにも関わらず、最も嫌悪し合っていた種族です。同族嫌悪と言うものかもしれません」


 やはり歴史の授業として落ち着くのは科学の発達か、もしくは戦争の爪痕くらいなのだろう。忘れる事のないように、その背景の裏側に何があったのかをしっかり伝えていく。それが歴史を知る上で大事な事なのだろう。


「それでは、今から二千年前の戦争を紐解いて行きましょう」


 そして歴史の授業は続いていく。


 歴史を考えるの難しいです。私自身歴史が得意ではないので、何度放り投げようと思ったことか……。ですが、なんとか形になって良かったです(なってなかったらエタってた可能性微レ存)。

 ともあれ次回は二千年前の戦争について軽く触れる予定です。本当にかるーくですので気にしないで下さい。


 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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