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084話 光魔法を使わなくても

 久しぶりの隔日投稿……何だか嬉しいです。


「うぅぅっ……これじゃ私の面目がたちませんよぉ……」


「今回はたまたまですよ。たまたま」


 マリリン先生は落ち込んでいるが、セメントを発見した事自体は素晴らしいことだ。誇ってもいいと思う。ただ、この授業は魔()学なのに、セメント作りは魔()学なのではないだろうか。

 四種類のものを混ぜ合わせ、なんやかんやする事で新たな性質を生み出すというのは化学に等しい。


 じゃあ本格的な()学はどうなのだろうか。マリリン先生は科学の方も専門でやっているのだろうか。


「先生ちょっと聞きたい事があるんですけど」


「はいぃ……なんですかぁ……?」


「先生って光を人工的に作れるって知ってますか?」


「そんなの常識じゃないですか〜。魔石に魔力を注ぎ込めば、魔法陣を組み込んだ照明がその魔力を必要な分だけ吸い取って光を発する。大人なら知ってる一般的なことですよ〜」


 なるほど。魔力を使った光源はそういう仕組みで成り立っていたのか。ということは、魔法陣は光を発する事と魔力を吸い取る事の二つの事柄を成しているという事でいいのだろうな。

 なかなかに上手い仕組みになっているな。地球と違って消耗品とかないし。


 だがしかし、今は魔科学の時間。地球の科学を魔法に応用出来ないかマリリン先生に考えて貰おう。


魔力を使った(・・・・・・)光はそんな仕組みかもしれません。でも、魔力を使わない(・・・・・・・)光の仕組みはどうですか?」


「…………何を言っているんですか〜? そんなの無理ですよ〜。そもそも魔力を使わないで光を出すなんて光魔法が必要なくなるじゃないですか〜」


「まあまあ。その魔力を使わない光は限定的なものですから光魔法の方が有能性は高いと思いますよ。そんな事より、魔力を使わないで光が出せたら凄いと思いませんか?」


「そうですね〜……本当に出来るなら凄いと思います〜」


「ですよね? じゃあ上手くいくか分かりませんが実際にやってみますか」


「今からですかぁ……?」


「はい。必要なものがここにあればですけど」


 必要な物は電流を作るために棒磁石と太くてしっかりした銅線、あと出来れば固定できる何か。他には光を出すためにフィラメントが必要だが、できれば竹串がいい。

 今回はその竹串を焼くのだが、その時アルミホイルに包む予定だ。だがアルミホイルがなかった場合は竹串を包む位の大きさのコンクリートを用意しよう。

 それと、これらを加工するための道具が必要か。まあそれくらいならここの教室にあるだろう。


 とは言え、発電機の仕組みを分かっていて、何となく簡易的なものが作れるかといった感じなので、本当に作れるのかは未知数なところ。最善は尽くすができなかった時は俺の技量不足だったとマリリン先生に言おう。


 俺はマリリン先生へ必要となる物を告げて準備が出来るか聞いてみたところ、大体はここの教室にあるそうだ。ただ、アルミホイルはないらしいのでコンクリートで代用することになった。丁度、実験で作っていた小さいものがあるらしいので、新たに作る手間が省けていい。


「どこに何があるのか探さないと分からないので準備に手間取るかも知れませんけど大丈夫ですか〜?」


「大丈夫です。あ、でも竹串を焼くのにどれくらいの時間がいるのか分からないんですよね。まあ細ければ一時間もしないうちに焼けると思うので時間的な余裕はある感じですね」


「分かりました〜。なるべく早く準備しますね〜」


 せっせと必要な物を用意していく先生。よくよく考えれば立場が逆転してなくもないが、考えるだけ面倒なので気にしない方向でいこう。


 それから約十分。全ての準備が終わり、ようやく製作ができる様な状態になった。


「ちょっと竹串を探すのに手間取ってしまいましたぁ……思ったより竹串って貴重なんですね〜」


「俺は竹串がここにあった事の方が驚きです。まあそのおかげでスムーズに実験に移れるんですけどね。じゃあ先生。外にいって竹串を焼きましょうか」


「分かりました〜」


 俺と先生は外に出て火を使っても大丈夫な場所まで移動した。演習場は使えないとの事だったので、とりあえず周りに焼ける様なものがない所という事で落ち着いた。


 場所を確保出来た俺は、竹串を焼くためにコンクリートで囲い密閉する。


「カナタく〜ん? なんで竹串を密閉するんですか〜? 焼くだけなら別にそんなことしなくてもいいんじゃないですか〜?」


「えっとですね……ものを焼くと周りの酸素を取り込んで酸化するんですけど、密閉して酸素を遮断する事で、竹串が焼けて炭になった後内部で結晶化するんです。そうすると電気を通した時に抵抗が生じて光エネルギーに変わるんです」


「…………? カナタくんが何語を話しているのかわからないです〜……」


「まあ、こうしないといけないんだー程度に認識してもらえれば結構ですよ。原理的なものは俺が分かっている範囲内で後で教えますから」


「よろしくお願いしますぅ……」


 実際地球では有名な話ではあるのだが、竹は電球のフィラメントに使われたことがある。初めに竹を用いたフィラメントを作ったのがかの有名なエジソンであり、用いた竹は日本の京都に群生していたものだ。

 今回用いた竹はどれほどのものなのかは分からないが、この世界の食料などはほぼ地球と変わらないし、物理的法則も俺が知る限りでは魔法が関与しなければ地球のものと同じだ。


「後は焼くだけなんですけど、炉みたいなのがあればいいですね。後は燃料になる薪とか」


「薪と炉なら『固まる君!』を焼成する時に使ったものがありますよ〜。それを使えばいいんじゃないですか〜?」


「それはどこに?」


「あそこです〜」


 マリリン先生が指をさした先に確かに炉と思わしきものがあった。少し形は違うがあれで十分だろう。


 俺はその炉に火をくべて、炉内の温度を高温に保ち、温度が一定になった位の時間でコンクリートで囲った竹串を放り込んだ。

 この状態で一時間もしないうちに竹串は焼けていい感じになるだろう。それまでは、銅線を使ってコイル作りをしておこう。


「先生、銅線持ってきてますか?」


「これですか〜?」


 俺は気づかなかったのだが、先生は今回必要な物をバッグに入れて持ってきていたらしく、バッグの中から銅線を取り出した。


「そうそれです」


 俺は銅線を先生から受け取った。今回使う銅線はコイルを巻きやすそうな程よい硬さで、長さも申し分なさそうだ。

 後は直径が一様な棒に巻きとってコイルを作るだけなのだが、そんな都合の良いものはあるのだろうか。


「先生、太さが変わらない棒はありますか? それがないとちょっと大変なんですけど……」


「ありますよ〜。えーっとぉ……確かここら辺にぃ……ほらっ!」


 マリリン先生の手に握られていたのは短い鉄の丸棒。何故こんな物が用意されているのか分からないが、まあないよりはましか。


「これは私があったらいいなぁって思って一番最初に実験で作ったものなんですよ〜。感謝してくださいね〜」


「何も言ってないのにそんなことを言うなんて俺の思考読みましたね? まあ今回は特別に不問にしておきます」


「感謝はしてくれないんですか〜……?」


「はぁ……ありがとうございます」


「どういたしまして〜!」


 マリリン先生から変な絡みをされつつ、手元では綺麗にコイルを巻いていく。今回の実験では一〇〇回巻きを四つ重ねた、計四〇〇回巻のコイルを使うつもりだ。この方が生じる電圧が大きくなるだろうからな。


「そういえばまだちゃんと聞いていなかったんですけど、どうやって魔力を使わずに光をつくるんですか〜?」


「一言で言うと電磁誘導を利用するんです。と言っても、マリリン先生でも電磁誘導が何か分からないでしょうから軽く説明します」


「よ、よろしくお願いしますぅ……」


「何か書くものとかありますか?」


「これでいいですか〜?」


 俺はマリリン先生から書くものを受け取り、簡易的なコイルと磁石の図を書く。


「先生、これを見てください。まず磁石には磁界と言うものが生じています。そしてそれを表したこの線を磁力線と言います」


 俺は棒磁石に磁力線を書き込んでいく。まあ説明程度のものなので適当に二~三本といったところだ。


「この磁力線を見るとわかると思いますが、磁力線が密のところと疎のところがあります。密の所は磁束というものが多く、逆に疎の所は磁束ざ少なくなります。ここまでついて来れていますか?」


「はいぃ……一応はぁ……」


「では、この棒磁石をこのコイルの中心に入れます。すると、コイルには電磁誘導というものが生じて電圧が発生して、それに伴って電流が流れます。電圧や電流というものは後々説明しますから、今はそういうものがあるんだと認識して下さい」


「は、はいぃ……」


「この電磁誘導というものは、コイルの断面積の磁束の変化によって生じます。磁束の変化が大きくなると電圧が大きくなって流れる電流も大きくなります。この磁束の変化によって電圧が生じることを誘導起電力と言います」


「…………」


「コイルの中にある磁石を素早く出し入れする事で誘導起電力が大きくなり、電磁誘導によって生じる電流が強くなるんです。そして、十分な強さの電流が流れるようになれば、コイルの先を焼いたあとの竹串に繋ぐことで、竹串に電流が流れ、その電流に対して抵抗が生じて光エネルギーに変わることで、竹串が光るという感じです」


「…………」


「まあ、どの程度の電流が必要なのか分からないので実際に光るのかはやってみないと分かりませんけどね」


「…………」


「……なんかすいません」


「私、教師としての自信がなくなりましたぁ……」


 呆然とした先生をみてやってしまったと感じた俺。フィーの場合だと分からない事をバンバン質問して来るので、そのノリでやってしまった感がある。まあ、やってしまったものはしょうがない。


「えっと、とりあえず簡単ですけどこんな感じの仕組みになってます。詳しいことはまた今度でお願いします」


「分かりましたぁ……」


 説明中にコイルも巻き終わり、後は竹串がいい感じになるのを待つだけだ。ちなみにコイルと竹串を繋ぐ時は洗濯バサミでお互いをしっかり固定すればいいだろう。


 その後は竹串を待つ間に、マリリン先生がこれまでに一人でどんなことをして来たのかをずっと聞いていた。なんというか、とても哀れみの目で見てしまいたくなる様なエピソードだったのでとてもじゃないが人には言えなかった。


「もういい頃合いですかね。熱すぎるので水冷してから竹串を取り出しましょう」


 俺は高温になったコンクリートを専用の取り出し器具で取り出して、予め用意していた水の中へ付け込んだ。しっかり撹拌しながら十秒以上付けておけば表面は手で触れる位の温度になっている。

 コンクリートを水から取り上げ、中身を取り出すと真っ黒になった竹串が出てきた。


 炉に軽く叩きつけると金属音に似た音がするので、上手く成功しているみたいだ。


「後は、少し組み立てて固定すれば……」


 とりあえず想定していた形までは持ってこれた。だが、こんな簡易的なもので竹串が光るかどうか……


「じゃあやってみますよ?」


 俺は全力で棒磁石をコイルから出し入れする。


「――やっぱり……」


 けれども、竹串が光らずに俺が諦めかけたその時だった。


 竹串が一瞬だけポっと赤く光った。


 それ以降も偶にポっと光る時があり、連続的に光る事はなかった。恐らく原因は電圧が低いからだと考えられる。

 まあ簡易的なもので光っただけ奇跡みたいなものだ。贅沢は言うまい。


「どうですか? こんな感じで光魔法を使わなくても光源は自分で作れるんですよ」


「本当にこんな事出来るんですねぇ……カナタくんが何者なのか分からなくなります〜……」


「俺は何者でもなく俺ですよ。まあ多少他の人とは異なるところがあるかもしれませんけど」


「そうですね〜。私も私ですし、そんな私をちゃんと見てくれるのがカナタくんですからね〜」


 マリリン先生はそう言って俺の方にチラチラと視線を送ってくる。若い子がやれば可愛いのだろうが、マリリン先生の歳じゃ――


「――グボフォッ!?」


 恐らく俺の思考を読んでいたマリリン先生に腹を殴られた。なんて理不尽なのだろうか。日本の学校だったら体罰で即懲戒免職だぞ。


「あらあらまぁまぁ。カナタくんは何度教えても理解しないんですね〜? 女性に歳の話をするなんて駄目なんですよ〜?」


「マリリン先生だって何度言っても思考読むじゃないですか……おあいこですよ……」


「ふんっ! そんなの知りませんよ〜だっ!」


「だから歳を――グハッ!?」


 また腹を殴られた。今回はさっきの倍の威力があったのではないかと体感的に感じている。やはり言葉に出したのがまずかったか……。


 それからは午前中の授業が終わるまで何もすることがなかったので、ひたすらマリリン先生からの熱烈なアピールをかわしながら暴力を受けていた。

 ホント、こんなんじゃマリリン先生結婚出来ませんよ……。


 実際に同じ条件で実験をやっても、竹串は光りません。電圧が足りませんし電流が流れるのは一瞬なので、そもそも光るかどうか怪しいです。

 言わば今回光ったのは物語の中だったからです。ご都合主義ですいません。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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