表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/116

083話 それセメントだと

 はい。また一週間遅れました。楽しみにしていただけてる方……ホントすいません。


 学園生活の一日目を無事終えて、今日は二日目。


 今日から通常授業が始まるのだが、時間割は初っ端から選択科目の魔科学で午前中丸々使う。ちなみにフィーの方は応用魔法だ。カヤには魔科学よりは応用魔法の方に行ってもらって、フィーのアシストをしてもらうかと思っている。


「カナタさーん! 行きますよー!」


『いくよー!』


「おーう。今行くー」


 準備を済ませてフィー、カヤと共に寮を出る。昨日の今日で教室までの道のりは大体覚えているので、学園長室から帰る時のような迷子にはならない。


「今日から授業開始ですね。カナタさんは魔科学でしたっけ?」


「おう。魔科学は楽しみなんだがマリリン先生が担当って言うのがなんとも……それに今まで魔科学取った人がいないって聞いたし、マリリン先生と一対一の可能性もあるんだよな」


「いいんじゃないですか? その方が深く内容を理解できると思いますし」


「いやまあそうなんだが、マリリン先生は何かとヤバめな雰囲気があってな……そろそろ三十路を迎える女の人が結婚するためになりふり構わないで突撃してくるみたいな感じの」


「やけに具体的ですね……」


「そりゃあ唐突に『末永くよろしくお願いします』って言ってくる様な人だしな……」


「えっ……」


「もちろん断ったぞ? 俺はカヤがいてフィーが迎えてくれる今の生活が好きだからな」


 と言うよりは、マリリン先生が女性とは思えない程に黒い人だから、仲良くはしても末永くよろしくされたくないんだよな。

 もうちょっと歳を考えて相応の行動を取ればすぐに彼氏くらいできそうなのに……もったいない。


 まあ、だからといって俺が付き合うとはならないが。


「な、なんか改めて言われると照れます。なんでいっつも変なタイミングでこんな事言うんですか……」


「そんなこと言ったって無意識でポロッと言っちゃうんだからしょうがない」


「はぁ……カナタさんがそんなだから女性が寄って来るんじゃないですか……」


「えっ? そんなに寄ってきてる?」


「外に出始めて半年でエレナさんだったり、マリリン先生だったりから好意を寄せられてるじゃないですか」


「マリリン先生はどうかと思うけど……まあ確かになぁ。前の世界じゃ考えられないな」


「どうでしょうね……実はカナタさんが知らないだけで好意を寄せてた人がいる可能性が高いですけど」


 なんかフィーがやけに俺の女性関係について突っついてくるんだが、俺がなにかしただろうか。俺はフィーの質問に対して事実しか言ってないんだけどな。

 フィーは何が気に食わなかったのだろうか……わからん。


 そういえば、女性関係については佐倉も結構聞いてきてた覚えがあるな。確か、俺が死んだ日も『先輩って彼女いないですよね?』的なことを言われた様な気がする。

 その後色々あって最終的に佐倉が拗ねてしまって、その原因も分からずに死んでしまったんだがな。結局あいつはなんで拗ねてたんだろうか。今となっては知る事も出来ないな。


「もしかしてカナタさんって天然の人たらしだったりして……フレッド支部長だったりハピネスラビットのみなさんだったり、その他のみなさんもカナタさんとすぐに打ち解けてるみたいですし」


「いや、この世界で出会った人達がみんないい人だったから打ち解ける事が出来たんだと思うぞ」


 前の世界じゃ俺の方にも非があったかもしれないけれど、会社では同僚との関係に難ありで友好な人間関係なんて結べなかった。高校でも中学でも、それは同じ。

 友達と呼べる人達と仲良くしたかったけれど、俺は意味もなく気味悪がられていたから人なんて寄ってこなかった。それもあって俺は周りから距離を置くことになり、余計に近寄りづらい感じになってしまっていた。


 今思えば、俺が気味悪がられ始めた理由は小学生の時の誰かの悪ふざけからだったような気がする。

 小学生の悪ふざけなんて今の俺からすれば可愛いものだが、小学生達にはそうでもないらしく、本気で気味悪がってたやつもいて、また噂が独り歩きした結果あんな感じになったのかなと今更ながらに思う。


「この世界の人間には色んな種類がいて、それぞれが共存して認めあってるから人に対して優しくなれるのかもな」


「でも、そんな人達でも同じ人間なのに魔人に対してだけは明確な敵対心があります」


「そんなのずっと前からなんだろ? 多分、産まれてきた子供が親の魔人に対する敵対心を見て敵対心を持つっていうのを繰り返して来たんだと思う。こう言っちゃ悪いけど、人間なら仕方の無い事だ」


「けど……」


「そうだな。だからといって魔人達を責めていい訳じゃないよな。魔人だって同じ人間なんだ。本来なら仲良く暮らせても不思議じゃない。俺はそう思う」


「…………」


「……とは言え俺が甘いだけなのかもな。魔人とその他の種族が手を取り合って本当に平和な世界になって欲しいって願うのは」


「私も……私もカナタさんと同じです。いつか和解出来たらいいなって思ってます」


「そっか。……おっ、迷わず着いたな」


 フィーと話ている間に教室に着いた。話ながらで何も考えずに歩いていたのだが、迷わず教室に辿り着けたのは昨日で体が覚えてくれていたからだろう。


 教室には何人かのクラスメイトが話をしていた。内容は分からないが随分親しげな様子だ。昨日の新入生歓迎会で仲良くなったのかもしれない。


「そういえば、教室にあるワープゲートで選択教室に行けるって先生が言ってたよな?」


「確かワープゲートは教室の後ろにあるって言ってましたね。そこから選択教室に行くとも言ってた気がします」


「だよな」


 フィーと二人で教室の後ろの方に視線を向けると、丁度ワープゲートに入って行く人を見かけた。どうやら普通に行けるらしい。


「んじゃ、俺行くからカヤをよろしくな」


「はい! カヤは私が守ります!」


「ははっ、相変わらずカヤのことになると大袈裟だな。ま、そんなフィーだからカヤが一緒にいたいって言うんだろうけど。カヤもあんまり迷惑かけるなよ?」


『はーい!』


「よし!」


 俺はカヤの頭をくしゃくしゃと撫でて、もう一度フィーによろしくと言ってから魔科学の授業教室に繋がるワープゲートをくぐった。


 ワープゲートをくぐるとそこは狭い教室で、よく小・中学校にある準備室的な場所だった。物が雑多に置かれており、机の上はノートなんて開ける様子が全くない。


 こんなのでどう勉強しろと……。


「マリリン先生ー?」


「――――!! あぁ……初めて……初めて私の授業を受けてくれる生徒が来てくれましたぁ〜……」


 何処からかマリリン先生の声が聞こえてきた。こんなに狭い教室なのに、見当たらないとか本当どこにいるんだよ。


「はぁ……マリリン先生。言いたい事が幾つかあるんですけど」


「はいっ! 今、とても良い気分なのでなんでも言ってくださいっ! 全部答えてあげますよぉ!」


「じゃあ遠慮なく。――どうしてこんなに教室が狭いんですか? なんでもっと整理整頓しないんですか? 俺の座る所はどこですか? そもそも先生がどこにいるのか分からないんですけど……帰っていいですか?」


「あああ!! か、帰るのだけはぁ! 帰るのだけは勘弁して下さい〜ぃ!」



――ゴンッ!



「――いったぁい……」


 先生はどうやら机の下に居るようだ。頭か何かをぶつけた音が机から聞こえて来たからほぼ間違いないだろう。

 で、そんなところで先生はいったい何をしているのだろうか。


「カナタくん……ちょっと待ってもらえますかぁ……? 出るのに手間取ってて〜……」


「はぁ……分かりました」


「ありがとうございます〜」


 よいしょよいしょ、と言いながら机の下からのそのそ這い出てきたマリリン先生は土埃まみれだった。何故机の下にいたのにこんなに汚れているのか謎だ。しかも土埃って言うのが謎に拍車をかける。


「ふ〜ぅ。はいっ! カナタくんのマリリン先生ですよ〜」


「帰っていいですか?」


「冗談っ! 冗談ですから帰らないで下さい〜ぃ!」


「はいはい。で、俺の質問に答えてくれるんじゃなかったんですか?」


「もちろんですよ〜。じゃあ一つ目の質問から〜。部屋が狭い理由は生徒が来ないから教室の割り振りで狭い部屋になったって感じです〜。二つ目の質問は、ものが多くてしまえる場所がないから仕方なくって感じですね〜。あ、カナタくんはここに座って貰っていいですか〜?」


 一気に答えてくれたみたいだが、マリリン先生のなんともまあ不憫な事。毎年、生徒が魔科学を受講してくれない事で部屋が小さくなり、そのおかげでものをしまう場所が減って溢れかえった状態になっているらしい。

 とは言え、しっかり勧誘出来ていないマリリン先生も原因の一つなのだから自業自得と言えばそれまでではある。


「じゃあそろそろ授業始めましょう〜!」


「俺以外の生徒は……」


「愚問ですね〜、いるわけないじゃないですか〜」


 静かな笑いをたたえるマリリン先生。目が笑ってない。というか怖い。これも結婚ができない理由の一つなのだろう。


「さぁ先生初めての授業ですからとっておきの事を教えます〜」


「とっておき?」


「そうですよ〜、私が世界で初めて見つけたもので名付けて『固まる君!』ってものなんですよ〜」


 ネーミングセンスが工作機械に付く名前と大差ないのは、『固まる君!』なるものが工作機械に近いからなのだろうか。

 となると、金属を溶かして型に流し込む鋳造が一番近いかもしれない。


「『固まる君!』の概要を説明すると〜、石灰石、粘土、けい石、鉄粉を混ぜた混合粉に色々な処理を施した特殊な砂のことなんです〜」


「…………ん?」


「口頭では分からないと思うので今回処理を施したものを持ってきました〜」


 そう言ってマリリン先生は机の下から何かを取り出し、俺を手招きする。どうやらこっちに来て間近で見て欲しいらしい。

 俺は手招きに応じて先生の言う特殊な砂を見てみたのだが、なんというか案の定灰色をしていた。


 しかもこれが固まるということはこれに水、砂や砂利を入れる作業を見せられるのだろう。


「…………な、なんで分かるんですかぁ……?」


「あっ、俺の考えてた事を見たんですか?」


「私の功績でこの街の居住区は発展して、特にレンガ造りの家は強度が増してより安全に暮らせるようになったんですよぉ……? でも、それを知ってる人は建築家の匠って言われる人達だけなんですよぉ……? なのになんでカナタくんは……」


「あはは……いやなんていうか、多分それセメントだと思うんですよね」


「セメントとか変な名前じゃないですっ! 『固まる君!』は『固まる君!』なんですっ!」


「まあこの際名前はいいとして……あれじゃないですか? 処理の仕方とかをちょっと変えると道路の舗装とかできるようの『固まる君!』ができるんじゃないですか?」


「ななな、なんでそんなことまでぇ……」


 確定だな。道路舗装と言えば大体アスファルトだ。アスファルトはセメントの一部と捉えられてるし、ほぼ間違いない。まあアスファルトだけじゃなくて、セメントに水や砂利を加えてつくるコンクリートもみんなか知ってるやつだな。


「き、今日の授業がぁ……たった五分で終わってしまいましたぁ……」


 嘆くマリリン先生を見ながら『この人、本当はすごい人なんじゃないだろうか?』と思っていた。

 そもそも科学が進んでおらず、数学に関しても良くて四則演算までだ。微分積分はないし、色々な物理の公式はこの世界にはない。


 そんな中マリリン先生はセメントを作るために色々な粉を配合し、様々な処理を施すことで物質の特性が変わることを発見したのだ。それは本当にすごい事だと思う。

 とはいえ相手がマリリン先生だから、そんなこと口に出さないけどな。


「うふふっ。カナタくんそんな事思ってくれていたんですね〜! やっぱり私と末永く――」


「しません。というか、俺の思考読むのやめてもらえます? 学園長に直訴しますよ?」


「ごごごごめんなさいぃぃ!! それだけはっ! それだけは勘弁してくださいっ! そんな事されたら私路頭に迷う事になるんですっ! お願いしますっ!」


「じゃあ、今後そうならないように気を付けて下さいね?」


「……カナタくんも大概黒い人ですよね」


「ははは。やだなぁ、マリリン先生にだけに決まってるじゃないですかぁ」


「私はカナタくんの中で特別な存在なんですねっ!」


「もちろん。俺の中で変人の枠に括られる珍しい人ですからね」


「そ、そんなぁ……」


 フレッドと並んでの変人。でもまあフレッドには変人さでは適わないな。あいつはやる時はやるくせに、無駄に変人さを極めてたからな。


 さて、無駄話はここまでにして。これから午前中の授業、時間余りすぎて何をすればいいのだろうか。まあ、それはマリリン先生が考えてくれるだろう。俺の興味を引くようなものが出てくることに期待してまっていよう。


 一応忙しさのピークを終え、隔日投稿できる位の時間の余裕も持てるようになりました。また、隔日投稿目指して頑張りますが、諸事情により無理な時もあります。その辺はご了承ください。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ