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082話 おいしいじゃなくておいちい

 一週間ぶりの投稿になります。いつになったら隔日投稿に戻れるのか……


「新入生歓迎会のゲームも終了したので、これより簡単なパーティーを開きたいと思います! 食べ物や飲み物はこちらに用意されているのでバイキング形式で召し上がってください! ゲームで仲良くなったもの同士でも、これから仲良くなりたい人とでもいいのでどんどん友好を広げて下さい!」


 簡単なゲームが終わりパーティーが開かれた事で、大広間がわいわいがやがやと盛り上がり始めた。食べ物や飲み物を取りに行く者や、お喋りに夢中になっている者など様々な人がいる。


 ……で俺はと言うと、パーティーが始まって数秒である人物に捕まった。


「ふん! この俺を差し置いて優勝したくらいでいい気になるなよ! ディーネもなんか言ってやれ!」


「……ライトの方がかっこいい……!」


 ……この二人だ。初日からかなり目立っていた勇者になると意気込んでいるライトと、見るからにライトの事を好いているディーネというクラスメイトだ。

 この二人が何故絡んで来るのかと言うと、先程のゲームで俺達が完璧な勝利をおさめて優勝した事にいちゃもんという程ではないが、それについて突っかかって来ている感じなのだ。


 至極めんどうではあるのだが、俺の経験上こういうのをまともに取り合ってやらないと、これ以上にめんどうな事になるということを知っている。

 それに、俺以外のフィーとクロロ、クララの三人は俺を生贄として自分達は面倒事から上手いこと逃れているのだ。その事に関しては俺はもう慣れているから別にいいのだが、ちょっとくらいは助けてくれてもいいのではと思ってたりして内心泣きそう。


「おい! 聞いているのか!?」


「あーあー、聞いてるぞ。あれだろ? 俺がお前を勇者に相応しいと認めればいいんだろ?」


「そ、そうだ! そもそもお前は今日の自己紹介で俺よりも目立っていただろ!」


「えっ……? マジか……」


「一番目立とうと! 注目を集めて俺の凄さを教えてやろうと思ったのに! お前はなんてことをしてくれたんだ! ディーネもなんか言ってやれ!」


「……ライトの方が凄い……!」


「そうそう、俺の方がどう考えてもお前より凄いんだ!」


「俺から見てもそう思う。それもかなり」


 いやほんとに。お世辞でも何でもなく。


 ライトの戦う姿は素人目に見てもレベルが高いのが分かる。むしろ、俺から見て高すぎるせいで何がどう凄い事になってるのか分からないレベル。よくあるプロの凄さが一般人には分からないっていうあれと同じだ。


「わ、分かっているならいい。だがな! 俺がお前に負けたのは事実だ! 次は負けないからな!」


「次があったらな」


 俺とライトとでは到底力量が釣り合わないし、こういう機会がなければ次なんてないと思うんだよな。まあ、あったとしても俺が困るんだが。


「お前に勇者の称号はあげない! 勇者には俺がなるんだ! 勇者になって俺はと――」


「ライト……ッ!」


「――っ! と、ともかくだ! もうお前には負けない!」


「……? おう?」


「ディーネいくぞ!」


「うん」


 ライト達は言いたいことを言うだけ言って俺の前から去っていった。嵐の様なやつだ。

 それより、途中ディーネがライトの言葉を遮っていたけどなんだんだろうな。……余計な詮索はしない方がいいか。何せ寡黙なディーネが自ら遮るくらいのことだからな。


「はぁ……初日から変な奴に目をつけられてしまった。なんだか平穏な学園生活を送れるのか心配になってきたな……」




  ◇◆◇◆◇




「ライト……大丈夫?」


 普段は自分から口を開くことがないディーネという少女が珍しく口を開く。大切な人、愛しき人を想う気持ちが彼女を動かす。


「負けたことなら大丈夫。まだ挽回できる」


「その事じゃなくて……さっきライトがユージーン様のことを……」


 彼女のあまり変わらない表情が心苦しそうなものへと変化する。まるで彼の痛みが自分のものであるかのように。


「…………それも大丈夫。俺にはディーネがいるからな」


「そう……」


 強気で何にも負けない彼が時たま見せる影を無理矢理封じ込めていることに、彼女は気付いていた。だが、自分に出来る事は彼の傍にいることしかないと言うことを知っている彼女は彼の事を信じることしか出来ない。


 けれど、彼女は彼を信じるその心がいつか彼を救う事を信じて、彼の隣を共に歩んでいく。




   ◇◆◇◆◇




「カナタさーん! これおいしいですよー!」


 嵐の様な二人が去って行くのを見計らったようにフィーがちょっとした食事を持ってきた。


「フィーに美味しいと言わせるとは。一体どんな料理なんだ?」


「これですよこれ!」


「こ、これは?」


 どこか見たような特徴的なフォルムをした食べ物がフィーの皿の上に乗っていた。俺の知っている限り、この世界では見たことがなかったが……


「こんなの初めて見ましたよ! 小さなおにぎりみたいな奴に、透き通った何かのお肉が乗ってて、それをお醤油に付けて食べるんですよ!」


 うん。形からだいたい分かっていたが、これはやはり――


「――寿司だな」


「なんでカナタさんがこの料理の名前を!?」


「そりゃあ、この世界に来る前に食ったことあるしな」


「そ、そうなんですか?」


「俺が元々いた世界では寿司は世界的に有名だったんだぞ」


「へぇー! どの世界でもおスシは美味しんですね!」


「そうらしいな。俺もスシを一つ食っていいか?」


「はい! どうぞ」


 俺はフィーの皿からスシを取り、自分の口に運んだ。

 するとあの懐かしい魚の刺身がご飯と絡む味が口の中一杯に広がる。


「……やっぱりうまいなぁ」


「そうですよねぇ」


『わたしもたべてみたい!』


「カヤには上の刺身だけな。さすがに酢飯は食べさせれないから」


『うん!』


 目を輝かせるカヤに刺身の部分だけを食べさせる。すると、体が一度ビクンと跳ねたかと思うとすぐにふにゃふにゃと全身から力が抜けていった。


 俺とフィーは何事かとカヤを抱えたが、カヤの顔を見るとなんとも幸せそうな顔をしていた。どうやら美味しすぎて力が抜けたらしい。なんて可愛い生物なのだろうか。


『おいちい……おいちいよぉ』


「おぉ。おいしいじゃなくておいちいのか。気に入って貰ったようで何より」


「当然ですね! なんてったっておスシですもん!」


「なんでフィーが誇ってるんだよ……いやまぁ、可愛いからいいんだけどね……」



「「フィーお姉ちゃーん」」



 カヤに何故か誇らしげにしているフィーの後ろから双子のフィーを呼ぶ声が聞こえた。

 フィーはその声にはっとしてから、すぐに後ろを向いて、こっちこっちと手招きして双子を招いていた。


 フィーのちょっと焦った顔を見るに、スシのあまりの美味しさに我を忘れて舞い上がった事で双子を置いて俺達の方へ来てしまったのだろう。そして置いていかれたことに気付いた双子がフィーを呼んだ事で、その事に気付いたという感じか。


 まあどちらにせよ、フィーをこうまでするスシ……恐るべし。


「お姉ちゃんが急にいなくなったから」

「ちょっとだけ心細かった……」


「ご、ごめんね!」


「でも、この人達のお陰で」

「ちょっとは大丈夫だった」


「うん?」


 フィーが初めて双子の後ろに立っている二人の存在に気付いた。どこかで見たような気がする顔をしてる。


「えっと、リーンだけど分かるかな? 同じクラスなんだけど……」


「リーンさんと言えば、二人目に自己紹介をした龍人のお方ですよね?」


「うん! 覚えてくれたんだね。嬉しいな」


「二人はリーンさんが?」


「ううん。どっちかって言うとエドの方かな。エドは困ってる子供は見捨てておけないから」


「…………」


 リーンにそう言われて黙り込むエド。


 なんか意外だ。性格を見るからにリーンの方が先に気にかけそうなのに。


「あの、ありがとうございます」


「当然のことをしたまでだ。大人は子供を手助けするのが仕事のようなものだからな」


「「僕(私)達子供じゃないもん。大人だもん」」


「はっはっは、自分のことを自ら大人だというのが子供の印だな」


「「むぅー!」」


 ちょっと堅い感じはするが、エドは思ったよりもいい表情で笑う。ただ堅いだけで無愛想やつではないみたいだ。


「あ、そうだ! さっきのゲームで優勝したのってこの四人だよね?」


「そうですね。景品としてエクストラパークのチケットポートを貰いました」


「私、今度エドを連れてエクストラパークに行こうと思ってたんだ。みんなで一緒に行かない?」


「おっ、いいなそれ。俺も暇な日に行こうかなって思ってたんだよ」


「ちょっと待てリーン。俺はそんな話聞いて――」



「「行きたい!」」



「――うぐっ」


 エドは初めて聞いたみたいで反論があったようだが、双子が行きたいと言った事で断るに断れなくなったみたいだな。

 とことん子供に甘い大人だな。俺も子供には甘いほうだし、いい友人になれそうだ。


「ふふん♪ 今何か言おうとしたよね? エド?」


「……いや……なんでもない」


 ……何となくエドが尻に敷かれているように感じるのだが気の所為だろうか。俺もフィーの尻に敷かれているようなものだし、本当にいい友人になれそうだ。


「行くならいつ行きますか?」


「「次のお休みの日!」」


「……次の休日でいいだろう」


「俺もそれに賛成。カヤのいい息抜きになるしな」


『いきぬきー!』


「じゃあ次の休みの日で決定かな。今から楽しみだね」


「「うん!」」


 ワクワクした感じで喜びの表情を表に出している双子は年相応に楽しそうにしている。子供のこういう姿を見ると微笑ましい気持ちになる。

 これからも双子にはこんな表情でいて欲しいと、親の様な気持ちでついつい見てしまう。まあ、俺って親になった事ないからよく分からないんだけどね。


『たのしみー』


「そうだな。ワクワクするよな」


「……カナタ……だったか?」


「ん? なんだ?」


 エドが思い出したかのように俺へ話をかけて来た。


「自己紹介の時から気になっていたのだが、あの悪魔のような生物は一体なんなのだ? 今は見当たらないようだが……」


「カヤの事か? カヤならここにいるけど」


『うん?』


「…………」


「なんだ? どうし――あっ、そうか」


 そういえば何気にカヤが人間の姿をとっていて忘れていたのだが、この姿のカヤを見せるのはここでは初めてだ。


「なんて言うか、カヤは色々な姿に化ける事ができるって解釈してもらっても……? ほら、魔物をそのまま連れてきてたら騒ぎになるし」


「なるほど。だから人間の姿をしているのか……で、彼女は一体なんなのだ?」


 周りには悪魔だと思われているが実際そうじゃないし、今までみたいに悪魔だと答えるのもどうかと思うし、なんて答えるのが正解なのか分からないため、フィーに救いの手を求める。


「カナタさんの相棒であり、私の相棒でもある存在ですよ。カヤはとっても可愛いんですから」


「そうだな。よく見ると可愛らしい外見をしている」


「一応言っておきますけど、カヤはあげませんからね!」


 何を言ってるんだフィーは……ほんとカヤの事になるとすぐこれなんだから。


「ほら、カヤも自己紹介してみたらどうだ?」


『うーん……えっと、カヤです。好きなのはカナタとフィーです。よろしくお願いします! ……でいいの……?』


「カヤぁ! 私もカヤのこと好きですよぉ!」


 カヤが好きなのは俺とフィーですって言った時から何となく分かってたけど、やっぱりカヤにフィーが抱きついたな。いつもの光景だ。良きかな良きかな。


「カヤちゃんかわいいねー。私、リーンって言うから覚えてくれると嬉しいな」


『……リーン!』


「うっ……名前を呼ばれただけなのにドキドキしてきた……」


 あぁ……ここにも一人カヤの虜になってしまった人が出来てしまったか。カヤは男も女も関係なく虜にするからな。このままカヤが世界に出てしまったら、簡単に世界を征服出来るだろうな。




 その後も、パーティーが終わるまでカヤについての話題や、エクストラパークの話をした。他にも、どんな手料理ができるという話や、それが発展した野宿でもおいしいご飯を食べる為の話など、様々な話をした。

 この新入生歓迎会があったお陰で、元々気になっていた双子や、エドとリーン、あとは変な関係になったライトとディーネと話す機会が出来た。


 なんだかんだいって、新入生歓迎会はやって良かったな、と、一日を振り返りながらその日は終了した。


 とりあえず、想定していたカナタ達の絡みが書けて良かったです( ´ ω ` )

 次の投稿も少々遅れますがご了承ください。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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