081話 エクストラパーク……
「それでは、まず最初の質問です! 一番最初の質問なので簡単にいきますよー! 『みなさんが冒険者になった理由を教えて下さい!』です! この質問に対する答えをお手元の用紙に記入してください!」
さて……遂に始まったゲームの最初の質問が『みなさんが冒険者になった理由を教えて下さい!』とは。確かに簡単な質問だ。
なぜならば、入学式の時に学園長があんなに言っていたのに忘れるなんて無理な話だからだ。無論、話を全く聞いていなかった奴は何も考えずに書くだろうが、この質問ならある程度回答は揃うだろう。
俺は、これであろう回答を紙に書いていく。
「はーい。それでは、大体かけていると思いますので一斉に開示しましょう! せーの!」
『せーの!』という掛け声と共に、紙を裏返すペラッという音がそこら中から聞こえる。
そして、俺達の組はというと――
俺『平和を守るため』
フィー『魔人と戦うため』
クロロ『お金のため』
クララ『お金のため』
…………。
いやまあうん。十歳の子供が学園長の話を聞いて理解しろという方が酷な話だな。しょうがのないことだ。
で、フィーの『魔人と戦うため』というのは学園長の話にも出ていたし、結果的にはそっちメインなのかもしれない。
だがしかし! 学園長は冒険者とは人々の平和を守るためにあるべきだと言っていたのだ! 人の話を最後までちゃんと聞いていた俺は間違えない。
みんなもちゃんと最後までしっかりと話を聞こうな。
……はてさて。ゲームのルールで言えば、クロロとクララの双子が合っているので勝ち残りではある。周りの組もほぼ勝ち残っているようだ。
結構危なかったが、双子は任せろと言うだけあってピッタリ揃えてきたので万事おっけー。
「えー、脱落者……この場合は脱落組かな? は一組です! 残り九九組! さーてどこの組が勝ち残るのか! どんどんいきますよー! 続いての質問! 『あなたの好きな武器は?』です! よーく考えて下さいね! ではお書き下さい!」
どうやら一組落ちたらしい。まあ相性が悪かったんだろう。
そんなことより次の質問に意識を集中せねば。
次の質問は『好きな武器は?』だな。俺としては『盾』と書きたいところだが、盾を本格的に武器として扱ってるのは世界中探しても俺くらいだろう。
という事で、俺が盾と書くのはなし。であるならば、フィーの好きな武器を書く方が双子の好きな武器を書くよりは無難だろうな。
そういう事で決定し紙に書いていく。
ちなみに、前に書いた文字は指で消せる仕組みになっている。どうやらそういう魔法を魔法陣で発動させてるらしい。消しカスが出ないのは環境にいいね!
「みなさん書けたでしょうか? この質問は私もちょっと合わせるのが難しいと思いますね。一体どれだけの組が勝ち残るのか! では参りましょう! せーの!」
紙の裏返す音と共に、俺達の回答が示される。
俺『杖』
フィー『盾』
クロロ『短剣』
クララ『短剣』
…………。
「あー……もしかしてカナタさんは私の好きな武器に合わせようと?」
「そういうフィーこそ俺の好きな武器に合わせようとしたみたいだな。長いこと同じ時間を過ごすと考える事も似てくるんだな」
「そうですね。ある意味答えを合わせたって事で……」
そう言いつつフィーがちょっと悔しそうにしている。多分、まだ答えが一度も合ってないからだと思う。フィーは負けず嫌いだからな。当然と言えば当然か。
そして、またもや双子は回答を揃えてきた。凄いな。これならいけるかもしれないと、俺の予感が告げている。
「えーっと……今ので二三組が脱落して残りは七六組となりました! 思ったよりも落ちてなくて内心驚いています! さて、次も驚かせてくれるのか! 続いて質問はこちら! 『明日の朝食は何を食べたい?』です! これは難しいですね! それではお書き下さい!」
残り七六組で、次の質問が『明日の朝食は何を食べたい?』とは……へたしたら全滅の危機があるぞ。
さて。ここは一度も合ってないので何としてでも合わせたいところ。となると、簡単に思いつくので真っ先に思い浮かんだもので――
「にゃ〜」
――はっ!
これならもしかしたら合うかもしれない。フィーも同じような顔をしてる。間違いないな。
俺は自信を持って筆を執る。
『どうでしょうか。みなさん悩んだのではないでしょうか。ちなみに私は明日の朝食はヨーグルトがいいですね……はい! それでは開示いきましょう! せーの!』
かけ声と共にみんなが紙をひっくり返すと――
俺『ねこまんま』
フィー『ねこまんま』
クロロ『ねこまんま』
クララ『ねこまんま』
な、なんと! 俺達の組は全員が『ねこまんま』という回答! 完全なる一致! まさに奇跡だ!
フィーならなんとなく分かる。カヤに何度も作ってあげているから。ただ、双子はよく分からない。もしかしたらクロロの方がネコ科の獣人だからだろうか。
「全員が」
「揃った」
「「奇跡」」
「クロロとクララもねこまんましたりするのか?」
「僕達のご飯は」
「ねこまんまが普通」
「その他は」
「あんまり食べない」
「そうだったのか。なんか今度一緒に美味いものでも食べに行くか? ケーキとか」
「「食べたいっ」」
「って事らしいけどフィーも行く?」
「もちろん行きますよ! って言うか私が作りますよ!」
「それでもいいな」
フィーの作るお菓子は大変美味い。中でもアップルパイは俺の好物と化している。二ヶ月に一回くらいのペースで作ってもらっているから、けっこう食べている。もうそろそろその時期だし、双子にはフィーのアップルパイを食してもらう事にしよう。
「あーっと、今回は四七組が脱落してしまいましたね! ということは残り二九組という事になりますか。私が想定していたよりも残ってる感じですねー」
残り二九組とは。俺達も人のこと言えないが、よくもまあ『朝食は何を食べたい?』という質問でそれだけの組が揃うものだ。
「さてさて! 残りの組は四分の一程度ですが、果たして勝ち残るのはどの組なのか結果が楽しみですね! もしかすると次の質問で全ての組が脱落する可能性もありますし、みなさん頑張って下さい! それでは次の質問! 『あなたの嫌いな魔物を教えて下さい!』です! それではお書き下さい!」
俺の嫌いな魔物か……ん? 待てよ……俺、魔物はゴブリンしか見たことないぞ。ゴブリン以外の討伐任務を受けたことないし、見かけのも全部ゴブリンなんだが。そもそも俺は殆ど戦わないし、好きも嫌いもないんだが。
だがまあゴブリンしか知らないし、ゴブリンとだけ紙に書いておこう。
俺は紙にゴブリンと書いていく。
「嫌いな魔物という事でね、みなさん冒険者をしているとそれぞれいると思いますが、私が一番嫌いなのはサハギンですかねー。討伐しようとしたらいつも水の中に逃げるので嫌いなんですよねー。という事でみなさんの回答を見てみましょう! せーの!」
四度目の慣れた手つきで紙をひっくり返し、各々の回答を見てみる。
俺『ゴブリン』
フィー『スモークスパイダー』
クロロ『ビッグスパイダー』
クララ『ビッグスパイダー』
……わぁ。スパイダーは嫌いなのも分かる。虫って言うだけである程度気持ち悪いという人がいるのに、それがビッグになるだけでどれだけ気持ちの悪い事か。
「あー、ビッグスパイダーがいましたね。今にして思えばそっちの方が気持ち悪いですね」
「斬りつけた時に」
「緑色の血が吹き出るのが」
「「とっても気持ち悪い……」」
「分かります分かります! それとあの口の動きとかもぞわぞわしますよね!」
「「うんうん」」
フィーと双子は結構話が盛り上がってるんだが、俺はその存在を知らないのでなんとも言えない気持ちになっている。多分話に入れなくて淋しいんだと思う。わからんけど。
さて。とりあえず俺達は何とか双子のおかげで勝ち残っているが、周りの組はどうなっているのだろうか。
「はい! みなさんお待たせしました! 結果は二十七組脱落で残り二組となりました! 私はもっと残ると思っていたんですけど思いの外嫌いな魔物が多種多様でしたね。それだけみなさんの経験が豊富ということなんでしょう!」
残り二組ということは、俺達の他にもう一組残っているのか。一体どこの組が残ってるのだろうか。
「ま、俺とディーネがいれば勝ち残って当然だよな! その証拠に俺達は今まで全問同じ回答をしてるんだもんな!」
「……凄いのはライト……私は何も」
「あは、あはは……なんかすっごい見られてて恥ずかしいんだけど……ティファはそうでもないみたいだね。凄いなぁ」
「それはイスナが小心者だからだろう?」
「うん……そうなんだけど、改めて言われるとへこむねこれ」
……同じクラスのやつが残ってた。しかも、なんかまた面倒くさそうなやつがいるし。勇者は運もいいのか。俺にもその運を分けてくれ。
「えっと、残った二組は前へお越しくださーい」
勝ち残った俺達の組とライトがいる組がみんなに見られながら前へと移動する。
「それでは残った二組のデスマッチを行います! とはいえ名ばかりでやる事は今までと変わりません! ではでは、みなさんも待っている事なので早速質問にいきましょう! 今回の質問は『大切なもの・ひとを教えて下さい!』です! それではお書き下さい!」
最後になるかもしれない質問が『大切なもの・ひと』か……俺としては当然ながらフィーとカヤなんだが、それを書くとほぼ答えが合うことはないはず。
ただ、フィーも俺と同じような考えをしていると仮定すると、確実に『カヤ』という選択肢が含まれているだろう。だからここはカヤと書けばいいはず。
だがしかし。仮定が外れてしまった場合はカヤになる可能性はない。そうなってしまうと俺でも同じ回答をするのは困難を極める。となると、双子の回答に合わせるべきなのだが、これまた難しい。
双子は互いに大切な人だという認識をしているはずなので、お互いの事を書くはずだが名前を書いてしまうと同じ回答にはならない。
ではどのような回答をすべきか。恐らくだが『家族』ではないだろうか。まあ俺とフィー、カヤも家族みたいなものだし、家族と書けば無難ではないだろうか。
俺は家族と紙に書く。
「どうやら全員が書き終わったようです! それでは一斉に回答を見てみましょう! せーの!」
俺『家族』
フィー『家族』
クロロ『家族』
クララ『家族』
ライト『平和』
ディーネ『ライト』
ティファ『信念』
イスナ『心』
やはり俺の読みは正しかった。ただ、フィーも家族と書いていた事に少々驚いているが、多分俺と同じような事を考えた上で、やはり家族という単語に行き着いたのだろう。さすがだ。
ちなみに、勇者達の組は全員がバラバラだがこれだけは絶対に譲れないみたいな顔をしているから、そもそも周りに合わせて変える気はなかったんじゃないかと思われる。
一人だけは愛の告白チックな感じだが、言われてる当の本人が全く気に掛けていないのが鈍感系と言わざるを得ないな。ライトよ、その子の気持ちに気付いてやれよな。
「まさかまさかの四人同じ回答が出ました! 四人の回答は『家族』! いやー、家族は大切ですよね。家族の大切さを分かっている人は強い人だと私は思います。もちろん、自分の中に折れない支柱がある人もです」
――ヒューヒュー!
――おめでとー!
――パチパチパチ!
最後まで勝ち残った俺達に大きな拍手やおめでとうなどの祝いの言葉を掛けてくれる。まさか勝てるとは思ってなかった。一重に双子のおかげだな。
双子がいなければとっくの昔に敗退していた。
「勝ち残った四人には、こちらの『エクストラパーク』のチケットをプレゼントいたします! 四人で行くもよし、一人で行くもよしですよ!」
「エクストラパーク……初めて聞いたんだけど……」
「新入生は知らないと思うのでエクストラパークについて少しだけ説明します! エクストラパークというのは、魔法によって高速で動く乗り物があったり、ゆっくりと円を描きながら回る乗り物があったりと、生徒の中ではデートするのに最適だと言われている場所です! もちろん普通に遊ぶのも楽しいですよ」
所謂『遊園地』で間違いないな。話を聞く限りジェットコースターや観覧車があるみたいなので、地球にいた頃とはほとんど変わらない内容になっているのだろう。結構楽しめそうではある。
「では、以上で『あれ? だんだん君達のことが分かってきた!』ゲームを終了します!」
変な名を冠したゲームは俺達の終了で幕を閉じた。また暇な日にエクストラパークへ行ってみよう。
あと一週間程でひと段落着くのでそれまで投稿が遅れます。ご了承ください。
それでは、次回もお会い出来る事を願って。