080話 四人一組を作ろう
――ワイワイ……ガヤガヤ……
新入生歓迎会の会場になっている一階大広間へ着くと、大変多くの生徒で溢れ返っていた。ここに来るまでに気付いたのだが基本的にこの学園は全寮制のようだ。学年がどれほどあるのかは知りえないのだが、三学年以上は軽くあるだろう。
一クラス四十人前後であるため、仮に五学年、一学年に二クラスで計算すると約四百人だ。良くもまあこれだけの冒険者を集めれるものだ。
「うっ……は、吐き気が……」
「そういえばカナタさんは人混みに酔うんでしたね。もう少しで座れると思うので我慢してください」
「おー……」
「……もしもの時はトイレに駆け込んでくださいよ?」
「おー……」
「本当に大丈夫なんでしょうか……」
『カナタの面倒はわたしがみるから大丈夫!』
「そんな過保護にしなくても俺は大丈――うっ……」
もう分かり切っていたことではあるが、何度も言うように俺は貧弱だ。人混みの中にいるとまじでやばい。胃の中から混沌なる暗黒物質が込み上げて来る。
自分では分からないが、多分顔が真っ青になっている事だろう。最悪の場合は真っ青を通り越して白くなってるかもしれないな。
まあそんな事はともかく、気を強く持っていないと暗黒物質を大勢の前でぶちまけてしまうという失態を犯しかねない。入学初日から『ほらあいつ、ゲロ吐いた一年だぜ』とか言われたくない。そうなった日にはまじで死ねる。
……こんな事を考えていないと、気持ち悪いのが誤魔化せないのがまた何とも言えない。この世界には色々万能な魔法はある癖に、酔い止めの魔法はないのかっ……!
『あー! カナタが泣いてるー』
「本当ですね。気分が悪すぎてついに泣くほどまでに……カナタさん。部屋に戻りますか?」
「俺はまだ大丈夫。ただこの涙は俺をいじめてくる世界に対しての悲しみの涙だから気にしないでくれるとありがたい」
「……よく分かりませんが了解しました」
「うんありがとうな……」
本当に世界って理不尽だよな。ちょっとくらい俺に優しくしてくれよ……そしたら俺も世界に対して何か貢献出来ることするから……なんなら世界救っちゃってもいいから……。
ま、俺にそんなことが出来るとは思えないし、それを世界も分かってるから『使えねぇやつを優遇するわけねぇーだろバーカ』みたいな対応をしてるんだろうな。マジ辛辣。こうなりたくてなった訳じゃないのに。
だから恨むならこの世界に連れてきたテスタを恨もう。テスタだし恨んだところで痛くも痒くもなさそうだけどな。
でも、この世界に来てそんなに悪い気もしてないしゲンコツくらいで済ませてやろう。寛大な俺に感謝するんだな。
「カヤー、カナタさーん、こっち空いてますよー」
「おーう」
『わたしフィーのひざの上がいいなー』
「それでも私は大歓迎ですよ。ほら、おいでー」
『わーい♪』
猫の姿になったカヤを膝の上に乗せ、聖母のような微笑みをたたえてカヤの頭を撫でるフィー。何故かそこだけものすごい神聖な場として成り立ってしまっている。周りの人なんて見惚れて足を止めたり、無意識の内に近くの席を遠慮したりする程。
まあこの光景を見る度、確かに拝みたくなってるんだけど俺としてはいつものフィー達だし慣れた。
俺は皆が見惚れて動かない中、フィーの隣の席についた。一瞬『神聖な場を穢しよって……殺すぞ』みたいな視線を受けたが、これも慣れたもの。毎度毎度泣いている。これ慣れたっていうのかよ……。
そんなこんなで、一応暗黒物質を吐く事もなく席に着くことは出来た。気分も悪い事は悪いが少しづつ回復の兆しをみせている。とは言え、歓迎会の間は多分このままだろうな。
「はーい。それでは全員集まったようなのでこれから新入生の歓迎会を始めたいと思いまーす」
俺がフィー達に釘付けになっている間に始まる時間になったようだ。
「司会は生徒会書記のクリスが務めます。では初めに生徒会長のグリフィルから一言お願いします!」
「……一年は初めてとなるだろうが、生徒会長のグリフィルだ。今後はこういう場でよく目にする事になるだろうからよろしく。さて、これから毎年恒例の新入生歓迎会を開催する。今君達の前には紙と鉛筆、消しゴム、それと軽食が配られていると思う。今日はそれを使った親睦を深める為のゲームを行う。それぞれが楽しんでくれたらと思っている。……以上だ」
――パチパチパチ。
生徒会長のグリフィル――どこかで見たような顔だと思ったら、俺が学園長室から帰ろうとして迷子になった時に会った高圧的な生徒だ。学園長に呼び出されるくらいなのだから、それなりの人物だとは思っていたがまさか生徒会長だとは想像してなかった。
よく考えて欲しい。冒険者だけのこの学園で、冒険者を束ねるだけのカリスマ性と力がどれだけ必要な事なのか。それを兼ね備えているのがどれだけ凄いことなのか。
それを踏まえると、生徒会長なんてエリート中のエリート。将来的に冒険者協会の支部長になれる程の力量はあるということなのだ。
グリフィルは若そうなのによくやる。俺には到底無理だろうな。
「えー……では! ゲームに必要なものが行き渡ったみたいなので、早速ゲームを始めたいと思います! ではみなさん、四人一組を作って下さい! どなたでも構いません。パートナーと組みたい人はパートナー同士、バラバラで組みたい人はバラバラで。取り敢えず学年もパートナーも関係なしに四人一組になって下さい!」
四人一組か……なんて言うか、学校の『二人組になってくださーい』のノリに近いな。俺とかいつも先生と組んでた。体育の先生マジで運動出来るから、バトミントンとか卓球とかミスすると本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
でも今はフィーがいるから大丈夫!
「フィー、取り敢えず組もう。あとはパートナー同士で組んでるところ見つけてから四人一組を作ろうぜ」
「あ、私そのつもりでもうパートナー同士で組んでる人達見つけてます」
「あっそうなの?」
「はい。この子達です」
フィーが連れてきたのはなんと予想外の人物。
「こんにちは? クロロです」
「こんばんは? クララです」
そう。クラスメイトである獣人の双子だ。なんとなく気になってた子達だからここで関係を持てるのは嬉しいところだ。
「今の時間だと『こんばんは』ですね。それより、カナタさん。この子達で良いですよね?」
「うん。バッチリだ。クロロ君とクララちゃんもよろしくな」
「「よろしくお願いします」」
二人で手を繋いで頭を下げる姿は何とも愛くるしい。フィーなんて無意識に二人の頭を撫でようと手を伸ばしていたところだ。
さてさて。周りも大体四人一組のグループが出来てきた感じだ。そろそろ、本格的なゲーム説明が始まるだろう。
「そろそろゲームの説明始めるけどいいかな? ――うん。大丈夫そうだね。じゃあ、早速ゲーム説明を始めまーす。一度しか言わないからよーく聞いて下さいね」
書記のクリスがそう言うと、壁に大きな紙が一人でに張り付いた。多分生徒会の誰かの能力なのだろう。
「まず、今回は四人一組のチーム戦になります。この場には一学年八十人が五学年分の約四百人、百チーム程の数になってます。その中で勝ち残るのは一チームのみ。みなさん協力して最後まで勝ち残って下さい」
人が書かれた紙を使っての説明で大変分かりやすい。と言うか、そもそものシステムからして分かりやすいけどな。
「それではゲームの中身を説明します。今回のゲームは、題して『あれ? だんだん君達のこと分かってきた!』でーす! あ、今名前ダサいって思った人。後で会長にしばかれないようにしてくださいね」
あー……題は会長が考えたのか。そりゃ、会長は堅そうな人だしこういうのを考えるのは酷だろうな。もしかしたら自信満々にこの題名にしたのかもしれないけど。
だけど、それにしてもあの題はちょっと……。
「さてさて今、みなさんの手元には配られた紙と鉛筆があると思います。今回はこれを使ったゲームになってます。ルールは簡単。私達生徒会から出題される質問に対し、四人が一斉に解答を紙に書き同時に開示。二人以上が同じ回答ならば勝ち残り、同じ回答がなければ敗退となります。回答中は口を開いたり、答えを教えるような行為以外ならなんでも可ですよ!」
なるほど。ここでのミソは出題されるのが問題ではなく質問という所にある。問題であるならば答えは一つであるため比較的回答は揃うだろうが、質問となれば別。
例を挙げるとすれば、問題は『会長の得意な魔法はなんでしょう?』という回答が一つしかないもの。質問は『世界で代表的な魔法と言えばなに?』という人によって感じ方の違いによって答えの変わるもの。という感じだ。
「しかし、このゲーム。知っている人同士ならいざ知らず、知らない人達と即興で四人一組を作り相手の事をよく知らない状態で挑むのは無理がある……そこでこれからの五分間、自分を相手に知ってもらうためなら何をしても構いません。出来るだけ相手に自分の事を紹介してください!」
「ちなみにこの五分間の事は冒険者同士が偶然戦場で出くわし共闘する時、特徴を伝える為の最長の時間とされている。それを忘れるな」
「会長からのありがたい言葉を貰ったこの瞬間からスタートです!」
――ワイワイガヤガヤ……。
さて。俺達も自己アピールをしますか。なんて言うか、就職活動みたいで懐かしい気もするがあまり得意ではないので出来るならしたくないところだ。日本の学校では大体そんな感じだろう。
「じゃ、俺達も自己アピール的なことしようか」
「そんな事しなくても大丈夫」
「私とクロロがいれば絶対に勝てる」
「ん? そうなの?」
「「そうなの」」
「なんでか聞いてもいいか?」
「「双子だから」」
「……なるほど。双子だから互いに考えている事を感じられると」
「「うん」」
「じゃあ、二人共任せたぜ!」
「「――っ! うん……!」」
本当に任せられるとは思ってなかったみたいで、最初の方はびっくりした様子で目をまん丸にしてたけど、すぐに元気な返事が返ってきた。
「カナタさん。カナタさん」
「ん? どうしたフィー?」
頑張るぞ、と意気込んでいるように見える双子には聞こえないようにフィーが俺の名前を呼ぶ。何か気になる事があるようだ。
「あのー、双子だからで任せちゃって大丈夫なんですか? 私も双子は思考回路が似るっていうのは聞いた事ありますけど、完全に一致するなんて聞いたことないですよ?」
「正直に言うと俺もない……が、大人が子供を信じないで、子供が大人を信じることなんて出来ないだろ? それに俺はこの子達に頼られる嬉しさを感じて欲しいんだ。この子達の歳で冒険者をやるとなると、周りから頼られるなんて事は少なかっただろうしな」
「カナタさんはそんなところまで考えていたんですか……凄いですね……」
「まあなんだ。俺流の新人研修の仕方的なものだ。頼られれば嬉しいし気合いも入る。それはみんな同じだろうしな」
「そうですね。私も頼られると嬉しくなりますね。あまり度を過ぎると辛いですけど……」
「それを前の世界じゃパワハラって言ったりするんだけどな。まぁ、程よく頼る事で健やかな成長を促すことになる訳だ」
人にもよるが、佐倉も新人研修で俺の下に来た時は何も出来ない奴だったが、佐倉が出来そうな所は頼り、出来たら褒めるという方式を取ったら見る見る内に使える部下になったからな。
それからは、佐倉に結構頼っていた事もあったような気がする。それでも俺が自分でやった方が早いやつもあったが。まあそんなのは人を成長させるためならなんでもないことだ。
「――五分間経ちました! 終了です! 今からみなさんは一言も話してはいけません! 口を開いた組から失格にします!」
失格になると聞いて全員が黙る。元々冒険者は勝ちに飢えている者が多いためこういう時はいつになく真剣味を増す。
「それではこれより『あれ? だんだん君達のこと分かってきた!』ゲームを始めまーす!」
そして俺は謎の題を持ったゲームへと参加をするのであった……。
……遅くて本当に申し訳ないです。忙しいのは変わりないのでまた遅れるかもしれませんが多めに見てくださるとありがたいです。
それでは、次回もお会い出来る事を願って。