表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/116

079話 歓迎会か


 寮に戻って来た俺達はワープゲートを使って、家から服やキッチン用品、その他小物などの生活な必要なものを搬入していた。


 俺にとってはいつも通りで忘れていたのだが、同じ部屋に男女を入れるというのは風紀的にどうなのだろうか。まあ、それがいつも通りの俺に言えたことでは何のだが、この学園には思春期の男女が多く居る様だし少し心配になる。

 とは言え、学園にはパートナー同士で来るし、パートナーか恋人や妻だったりする事もあるから、男女同じ部屋が駄目と言うのは一概には言えないんだけどな。


「フィーの部屋にまだ荷物ある? あるなら入って搬入しようと思うけど――」


「入ったら閃光爆弾(フラッシュボム)打ち込みますよ?」


「そこまで言っちゃうかぁ……俺、一回中見てるし何回見ても同じだと思うんだけど」


「何回見られても恥ずかしいものは恥ずかしいんですっ!」


「別にぬいぐるみぐらい――グハッ!」


 フィーが手に持っていたフライパンが俺の腹にクリーンヒットした。今日は俺の腹に衝撃がよく来るな。そして痛い。正確に言えば痛かった。もう治ったからな。こういう所は本当便利な体だと思う。


「口に出さないでくださいよっ! 反射的に手が出ちゃうじゃないですか!」


「出ちゃうっていうかもう出ちゃったの方が正しいけどね!」


「むっ。部屋を覗いたカナタさんが悪いんですよカナタさんがっ」


「……今思い出しても、女の子っぽくて可愛いらしい部屋だったなぁ」


「――それを誰かに言おうものなら……分かってますね?」


「俺は死に急ぐような真似は決してしません!」


「よろしいです」


 ギャップというものにはある程度の萌え要素があると思う。特に俺とカヤ以外の周り人が、普段ツンツンして印象が刺々しいフィーが、自室には女の子っぽくぬいぐるみと一緒に寝ているって知ったら、ほぼ確実に萌えるだろう。俺だって初めて見た時は萌えた。


 そうなると、確実にフィーへと好意を寄せる者が増えるに違いない。ただでさえ赤い髪をした美人という事で目を引くし、一目惚れや普通に惚れている人が多いというのにそれ以上増えるとなったら、俺なんて道端の小石よりも価値のない人間になってしまう。

 何せ俺は寿命以外で死なないという事以外は、普通以下の人間でしかない。まあ、知識や料理は人並み以上出来るかもしれないが、それでも人に自慢出来る程ではない。


 そんな俺にフィーがいつ愛想を尽かすか分からないし、愛想を尽かされた時点で確実に俺は死ぬ。身体的にではなく精神的に。精神が死んだらさすがに生き返りはしないだろう。

 そうならないように俺は祈るばかりだ。


「そういえば、さっきカナタさんはカヤをおいてどこに行っていたんですか? マリリン先生は直ぐに帰って来ましたけど、カナタさんは帰って来ませんでしたし……」


「あぁそれなら、なんか学園長に呼ばれてるってマリリン先生に聞いたから、学園長に会いに行ってた」


「学園長直々にですか? それはまた大事な話だったみたいですね」


「いや、そうでもなくて、俺が伝説の死神(しのかみ)なんじゃないかって聞かれただけだったんだよ。フィーも知っての通り、俺って一年ちょっとくらいに前にこの世界にきた転生者だし、二千年前の世界にいるわけないだけどな」


「その話が本当の話ならですけどね」


「えっ、信じて貰えてないの?」


「この世界にない知識を見せてもらってますし一応信じてはいますよ? でも非現実的すぎる話なのでいまいち信じきれないっていう感じです」


「実際、体験しないと信じるのは無理な話だよな。俺もフィーの立場だったら同じように思うだろうし。でもまあ、大事なのは一緒に過ごした時間だから今更関係ないな」


「そうですね。伊達に一年以上も同じ屋根の下で過ごしてませんからね」


 小っ恥ずかしいことを言ったせいでなんとなく恥ずかしい気持ちを抱えながら、せっせと荷物を搬入する。

 死神(しのかみ)の事や今の話もあって、搬入をしている間、俺は"もし"、"IF"の可能性を考えていた。


――もし、あの日佐倉と一緒に帰らなかったら。


――もし、あの日カヤが轢かれるのを見過ごしていたら。


――もし、あの日カヤを助ける事が出来て俺も助かっていたら。


 その"もし"が一つでも現実のものになっていたとしたら、俺はそのままスーパーに寄らず自宅に直行していただろうし、カヤを助けに行って死ぬ事もなかったし、カヤを助けれたとしたら動物病院に連れて行っていただろう。

 そうなっていれば、この世界に来れないという可能性があって、今この瞬間ですら存在しないものだったかもしれない。


 そもそも、スーパーに行こうと言ったのも、カヤを助けに飛び出したのも、轢かれそうになっているのに気付いていながらカヤを助けたのも、全て俺の意思で行ったものだ。

 多分、今記憶を無くしてあの日に戻ったとしても同じ行動を取るだろう。となると、この世界に来たのは必然とも言えるか。


 でも一つだけ。俺をこの世界に連れてきたのはテスタだ。特殊能力を俺やカヤに授けたところを見ると、いわゆるそういうことが出来る『神的存在』であると言える。

 そんな神的存在であるテスタはどういう基準で俺を選び、俺の何を欲しているだろうか。去り際にずっと見ていると言っていたからには俺の何かを観察しているのだろう。


 正直に言って、この世界に来てからの俺は半分がニート同然の生活だった。目を見張るものがあったと言えばゴブリンの大進行くらい。だがそれも俺はほぼ戦わず、あまつさえゴブリンが避けていく始末。観察しても得るものは何もないと思う。


 テスタが一体何者で何を目的にしているのかを知っておきたいというのが正直な話だが、どうせあのマイペースなテスタが馬鹿正直に話すはずがない。期待するだけ無駄だろう。

 いつか時が来たら話をしてくれる事を祈って待つだけだ。それが早ければ早いほどありがたいことなんだけど……まあ無理だろうな。


 それから色々な事を考え、フィーとも話しながら荷物の搬入を無事に終えた。カヤは終始お昼寝をしていた。とても可愛い寝顔に何度も癒されるぜ。


「ふぅ……終わりましたね。こういう搬入とかも魔法で出来るようになったら便利なんですけどねー」


「今でさえ便利なのに、そんな魔法が出来たらそれこそ人の手いらなくなるな」


「私達は寛いでいる中で発動させた魔法が一人でに全部やってくれる……素晴らしいですね。面倒くさい事は全て任せたいです」


「完全に地球で言うロボットと同じ役割りだな。まあ実現しても相当先になると思うぞ」


「その頃には私は死んでるかもしれませんね」


「それを言ったら俺だって。勿論カヤも例外じゃないしな」


「……私、私よりもカヤが先に死んだらショックが大きくてまともに暮らせなく自信があります」


「俺も立ち直るのには時間がいるかもな。でもカヤは猫だし、生きてあと十年って感じだと思う。短いよなぁ」


「あ、あと十年って本当ですかっ!?」


 クワっ! と目を見開いて俺の方に身を乗り出してきたフィー。心做しか泣きそうな雰囲気を漂わせている。

 フィー……というか人間にとって、猫の寿命なんて短いのは当然。それをこの世界の住人は全く知らない。猫という生き物がいないのだからしょうがのないことだ。


 ただその事実を知った時、全く関係ない人からしたら『ふーん』で終わるのかもしれないが、フィーのような深い関わりがある人からすれば妙に寂しい想いをするのは当然の摂理だろう。

 泣きそうなフィーを見るのは心苦しいが、遅かれ早かれ知られていたことなので、ここはちゃんと話ておくとしよう。


「俺の居た世界では、飼い猫は約十五年程しか生きられないんだ。見た所カヤはまだ産まれて二年と少しだから、長くても十三年程でお別れだ」


「そ、そんな……」


「とは言えこの世界はなんでもありだし、カヤ自身が最強とかいう現実的じゃない能力を持ってるから、実際にそれ通りになるかは分からないけどな」


「そそそそうですよねっ! カヤがそんな早く死んじゃうわけないですよねっ! カヤには私の子供とか孫を見せてあげたいですしっ!」


 誰との子供なのかは気になるところだが、それはさておき、フィーの気も少しは落ち着いたようで良かった良かった。


 で、一体誰との子供を……


「あっ、もうこんな時間! 夕飯の支度をしないとっ」


「もうそんな時間なのか。昼ご飯食べてないのに全然気が付かなかった」


「カナタさんは今日何が食べたいですか?」


「そうだなぁ……今は肉じゃがの気分かな」


「肉じゃがですね。ちょうど材料もありますしそれにします」


『ねこまんまがいいっ!』


「あら、起きたんですね」


『うん! わたしのはねこまんまにして!』


「じゃあ、カヤには特製のねこまんまをご馳走しますね」


『やったぁ!』


 カヤは喜びを表現するのにフィーの足元へテトテトと寄っていき、体をフィーの足にスリスリと擦る。それに加えて『みゃ〜ん♪』と鳴くものだから、フィーの顔が幸せに満ちた満足そうな顔をしている。

 二人とも幸せそうで何よりだ。無論俺も、そんな二人の光景を目にしてほんわかとした気分になっている。大変いい眺めだ。


 それから三十分程で夕飯の支度が出来た。とてもいい匂いが部屋に広がる。


「はーい、カヤにはご希望通りの特製ねこまんまですよ」


『ありがとー!』


「こっちも配膳終わったぞー」


「じゃあ食べましょうか」



「「『いただきます』」」



 三人で合唱をして食前の挨拶を済ませる。


 俺は箸を持ち、早速肉じゃがに手を付けた。一口サイズのじゃがいもを箸でつかみ、二、三度息を吹きかけて冷ましてから口に含む。

 すると、じゃがいもは歯なんて要らないんじゃないかという程に柔らかく崩れていく。味の方も甘さ控えめで、体に優しい味をしている。


「うん美味い。さすがフィー。俺じゃこうはいかんわ」


「今度細かい作り方教えましょうか?」


「おっ、それいいな。暇な日にでも教えてくれ」


「はい! 喜んで!」


『わたしにもこのねこまんまの作り方教えて!』


「勿論良いですよ! 一緒に作って作り方を覚えましょうね」


『うん!』


 程なくして夕飯も食べ終わり、ゆったりとした時間が訪れる。各々が何をする訳でもなく、ただただゆったりと過ごす。

 割とこの時間が好きだったりする。偶に三人でゲームをする事もあるが本当に偶にしかやらない。


 とそんな時、廊下から『ピンポンパンポーン』という俺には聞き馴染んだ音が聞こえてきた。


「「ん?」」


 俺とフィーは何事かと同時に廊下の方を向く。


『生徒会からのお知らせです。これから新入生歓迎会を行います。生徒の皆さんは一階大広間へ集合してください。繰り返します。生徒会からの――』


 生徒会からのお知らせだったらしい。廊下からは何人かの人の声が聞こえてくる。みんな一階の大広間へ向かっているのだろう。


「歓迎会か。そんなのするんだ」


「何をするんでしょうか?」


「まあ軽く顔合わせくらいだと思うぞ? 同じ寮に住むからそれくらいはしておいた方が良いしな」


「そうですね。じゃあ行きましょうか」


「おう。カヤも行くぞー」


『はーい』


 そうして、俺達は一階の大広間を目指すのだった。


 ゴメンなさい。過去最高に遅れました。キャラの名前を考えるのに手間取ってしまって……言い訳ですね。ごめんなさい。

 それとリアルが立て込んで来たので隔日投稿は厳しくなってきました。本当に申し訳ないです。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ