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078話 どんな顔してます?


「…………これはあれだな。道に迷ったな。まさかこの歳で道に迷うなんて思わなかったぜ……」


 独り言で言ったように、現在絶賛迷子中な俺。


 俺はステラ学園長と良く分からない関係になってすぐに学園長室を後にした。その時はまだ何も考えていなかったので、来た道を戻ろうとしていたのだがどこかで道を間違えたらしい。

 大方、右に曲がるところを左に曲がったって感じだろう。よくやる間違い方だ。洞窟とかでやると死を覚悟した方がいい。


 ……まあ、今の俺も若干死を覚悟しているのだが。


 それはともあれ不味い事になった。マリリン先生曰く、道に迷ったら三日三晩歩き続けなければらないらしい。こんな所で飢え死にとかしたくない。

 だが、今ここがどこでどこに向かえばいいのか全く検討がついていない状態で動くのも、状態が悪化するだけで得策ではない。


 一番はここを誰かが通ってくれる事を願う事なのだが、学園長室を出てから誰一人としてすれ違っていない。誰がが来てくれればというのは望み薄だろう。


 という事で状況を整理すると、誰も助けも呼べない孤立無援の状態での迷子となる。俺、マジで死ぬんじゃね。


「はぁ……入学初日からこれとか幸先悪いわ……」


――…………。


 と、自分の独り言と共に別の何かが聞こえてきた。俺はその音が何なのか、どこから来ているのかを判断するために耳をすませる。


――……ツ…………。


――コツ……コツ……。


――コツコツ。


 どうやら音の正体は誰かの足音のようだ。しかも運のいいことにこちらへ向かって来ている。その人に助けを呼べば助かるかもしれない。


 俺は足音のする方へ歩みを進める。すると、ものの数歩で足音をさせていた人物と対面出来た。


「おや? 見ない顔……となると君は新入生だな?」


 眼鏡をクイッと上げながらそういう男性。背筋がスッと伸び、ほど良い肉付きに、恨めしい程のイケメン。後、一般人とは別の何か軽い威圧的な雰囲気を纏っている。

 そのせいで俺よりも若いはずなのに、上司と話しているかのように緊張してくる。それもあって言葉遣いが丁寧になってしまう。


「は、はい。カナタと言います」


「カナタか。覚えておこう。それで君はここで何をしていた? 場合によっては――」


「み、道に迷ってしまって! 学園長室からの帰りで! その――助けてください!」


 何となく殺気を感じたので、早めに真実を伝える事を忘れない。


 ……俺は一日に何度殺気を受ければいいのだろうか。


「学園長に会ったのか?」


「はい……何というか変わった人でしたけど……」


「…………そうか。学園長が君に……」


 その男は何か納得したように一回だけ頷くと俺を見つめる。眼鏡の奥の瞳に興味津々というような光が見えたような気がしなくもない。


「ちょうど私も学園長室に向かっていた。着いてくるといい」


「あ、ありがとうございます」


 という訳で謎の高圧的な男の後をついて行く。するとものの数分で見覚えのある学園長室の派手な扉が見えた。

 どうやら俺が迷子になっていたのは学園長室の近くだったようだ。もしかしたら同じところをグルグル回っていただけなのかもしれない。


「学園長。お呼びに預かり参上致しました」


「今開ける」


 中から学園長の声が。当然と言えば当然だが、学園長の声を聞くのはまだ先だろうと思ってたので、なんだが恥ずかしい気持ちがある。


――ガチャ。


「よく来た――ん? カナタがどうしてここに?」


「私がこちらへ向かっている際に出会いまして、迷子になっていたようなので連れて参りました。これからのお話に邪魔なようでしたら帰します」


「いや、新入生で迷子になるのは仕方の無い事だろう。ましてやここは入り組んでいるから迷子になりやすいからな。話は聞かれたとしても何ら影響はない。話が終わり次第、私が彼を送ろう」


「学園長の手を煩わせる訳にはいきません。私が責任を持ってお送りします」


「君にはやって貰いたい事があるのでな。それは無理なのだ」


「そうなのですか。ではお話というのは……」


「うむ。その事についてだ」


 ……なんて言うか凄い場違いな所に来てしまった感が凄い。それに、学園長に迷惑かけすぎで本当に申し訳ない。後でしっかりお礼と謝罪をしなければ。


「端的に話す。半年後に開催する最強魔術師決定戦、最強戦士決定戦は全ての学年を同列として開催して欲しい」


「同列というのは、学年の境目を無くし学園の生徒全てが一堂に会する……という事でよろしいのですか?」


「その通りだ。君にはこれからその為のルール設定や会場の設営、運営費の見積もり、更には各クラスへの通達をしてもらう。特に会場は、予定している予選のルールでは今までよりも二倍程大きくしなければならないのでな」


「となると、今から動き始めても遅いかもしれませんね。最良を出せるよう最善を尽くします」


「うむ。予選のルールは確定してから伝える。だが確実に会場は二倍程大きくするので、早急に取り掛かるように」


「かしこまりました。では、私は建設計画を立てるために企業へ連絡をして参ります」


「よろしく頼んだぞ」


「はい」


 ふむふむ。全く訳の分からん事を言っていたな。最強決定戦がどうたらとか、会場がどうたらとか。そもそも半年後に最強決定戦なんてものがあるなんて今初めて聞いた。まあ、俺は参加せんがな。

 というかそもそも、俺は魔術師でもないし戦士でもないから参加出来るか怪しいがな。まあその辺はどうでもいいか。どうせ出ないんだし。


「さて、カナタ。君を約束通り送ろうではないか」


「ご迷惑をお掛けして申し訳ないです……」


「偶にはこういう息抜きも良いものだ。執務だけでは精神的に参って仕方がない」


「そう言って貰えると助かります」


 学園長は本心からそう言っているようなので、とりあえずこれ以上引き下がるような真似はしないでおく。ただまあ、俺としては申し訳なさが物凄いのだが。


 だって学園長に道案内してもらうんだぞ? しかも、執務の途中で。学園長にも相応の仕事があるはずなのに……


「ところで、君は先の話を聞いていたと思うが……」


「先の話というと、最強決定戦がどうとか、会場がどうとかっていう話ですか?」


「その話だ。君には学園長命令で魔術師、戦士両方の最強決定戦に出場してもらおうと思っているのだが……」


「――――へっ?」


 おっと。唐突に不謹慎な言葉が聞こえたような気がしたのだが、聞き間違いだろうか。学園長命令だとか、最強決定戦に出場だとか。


「何もそんな顔する事はないだろう?」


「……どんな顔してます?」


「そうだな……新米冒険者が危険種の魔物と遭遇してしまった時の絶望的な表情といった感じだな」


「ははは……」


 新米冒険者――俺だな。危険種の魔物――最強決定戦と同等だな。絶望的――まさにその通りだな。

 何も間違っちゃいないな。さすが学園長。観察眼が素晴らしい。


「そもそも学年の垣根を越えたルールにしたのは、今年の新入生は粒揃いな上、君が居たからなのだぞ?」


「俺がいたから?」


「ここの卒業生を瞬殺出来る者に学年の垣根は必要であると思うか?」


「……な、ないです」


「そうだろう? だから君だけは強制参加してもらう。最強の名を欲しいがままにするといい」


「俺が勝つのは決定してるんですね……」


「今年の祭りは盛り上がること間違いなしだな。ふふっ」


 少し上機嫌に見える学園長はなんだか見た目相応に可愛らしい。まあ、フィーとカヤにはまだまだ劣るがな。俺の愛は常に大切な人へ向いているのだ。これは揺るがない。


 それから学園長と軽い世間話をしつつ外まで送って貰った。外にはマリリン先生がちょうどこちらへ向かって来ていたので、もう大丈夫だろうと学園長は中に戻って行った。

 その時に『最強決定戦のことよろしく頼んだぞ』と言って肩をぽんと叩かれた時には、『あ、逃げれないな』と感じた。どうやら俺はどうやっても参加せざるを得ないようだ。


「カナタくんの私が迎えに来ましたよ〜」


「先生も懲りずによくやりますね。そんなに必死なら本気で婚活してみればいいのに」


「私が出来ると思いますか〜?」


「…………なんかすいません」


「そういう事なんですよ〜」


 実際は腹黒い人だし、見た目に騙されて一体どれだけの人が地獄を見たのだろうか……想像するだけで悲惨だ。


「カナタくんだってそういう人はいないですよね〜?」


「俺には心に決めた人がいるので付け入る隙はないですよ」


「ちぇっ。私で妥協すれば幸せな家庭が待ってるかもしれないのにな〜」


「妥協っていうのがしっくりきすぎて逆に怖い。まあ、俺は妥協なんてしないですから期待しても無駄ですからね」


 そもそも、何故この人は俺にこんなにも言い寄って来るのか。

 もしかしてあれか? 意図せずして授業を受けてくれる生徒がいないことに傷心していた先生を慰めたところ、惚れられたってやつ。どこぞの少女漫画じゃないんだからそんなことないよな。


「…………てれっ」


「うわぁ……俺の思考を読んだ挙句『てれっ』って声に出しちゃったよこの人。自分の歳を――ゲボフォ!?」


 歳の話になるといつもこれだ。俺の腹がいくらタフでもそろそろやばい。何がヤバいって本格的に臓器が破裂しそう。


「歳の話をしたいのなら死ぬ覚悟をしてくださいね〜? これでも私、この学園の教師をするぐらいには強いんですよ〜」


「そ、そういうところが結婚出来ない理由です……よ……」


「ふんっ。そんなの自分でも分かってますよ〜! ただありのままの私を好いてくれる人と共に生きたいだげなんですよ〜だ!」


「だったらなんで俺を……俺は別に先生を好いてるわけじゃないでしょ? 思考を読めば分かると思いますけども」


「だ、だってカナタくんは初めて黒い私を見ても普通に接してくれる男性だったから〜……」


 …………これは本格的に好かれてしまっているやつなのか? だが、この先生なんだか物凄く危険な匂いがする。なんて言うか、このまま行けば確実にヤンデレっぽくなる。

 先生を怒らせたら『あなたを殺して私も死ぬ!』という展開になりかねない。というか、今でさえ怒らせると腹パンされているのだから、ならない訳が無い。


「この度はご縁がなかったという事で……」


「知ってますか〜? 縁なんて何度でも作れるんですよ〜?」


「なぜ引き下がらない!?」


「カナタくんこそなんで妥協しないんですか〜!?」


「「ぐぬぬ……」」


 まあ、相容れぬもの同士仲良くする事くらいは出来るだろう。とは言っても先生と生徒という枠を超える事は一生ないだろうけどな。


 さて、マリリン先生と歩いて向った所は二組の教室。今日はこれで終わりのようだ。

 後ろから教室に入った俺は自分の席に着き、先生は教卓へと向う。


「さ〜て、みんな揃ったので今日はこれで終わりで〜す。初めての事が多くて体は感じているよりも何倍も疲れているはずですからしっかり休んで、また明日元気に登校してくださいね〜」


 あの腹黒い先生からは考えられないくらいまともなこと言ってる。こっちが素なら幾分かマシなのに、そうでないのが残念なところ。今更矯正した所で、矯正が終わった頃には何歳になっている事やら。


 ……睨まれているような気がするけど、目を合わせなければ俺の勝ちだ。


 そうして先生が話している間一切目を向けず、今日の予定は全て終了した。


「カナタさん、帰りましょう」


 隣のフィーが猫の姿のカヤを抱きながら、幸せそうにしている。俺がいない間は恐らくずっとこんな感じなんだろうな。直視出来ないくらいに二人とも可愛い。

 若干、カヤからキラキラとしたエフェクトがたっているのもいいアクセントだな。これは評価が高い。


「そうだな。帰るか!」


「にゃあ〜ぁ……」


「ふふ、カヤが眠そうに欠伸してますね。この調子なら帰り着くまでに眠ってしまいそうです」


「目がトロンってしてるカヤはいつ見ても癒されるな」


「ええ、本当に」


 俺とフィーの架け橋であるカヤの愛らしい様子を見ながら、二人してほっこりとする。この調子なら精神的な疲労は取れていくはず。こんな心労の絶えない俺でもな。


 その後は他愛のない話をしつつ、寮の自室まで帰って来た俺達。案の定、カヤはフィーの腕の中でぐっすり熟睡中だ。カヤも猫ということに加えて初めての経験が多かっただろうし疲れているのも無理はないだろう。


 そうして、長かった学園生活一日目昼の部を終えた俺達は、次の学園生活一日目夜の部を迎えるのであった。


 …………また遅れてしまった。案の定と言ってしまうとあれかもですが、何となく分かってました。はい。

 次は隔日投稿出来るようにしたいです。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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