075話 よろしくお願いします!
前話の八人五列を五人八列に変更しました。それを踏まえてお話をお読みください。
自己紹介が一人、二人・・・と何事もなく終わっていく。ここで、自己紹介の傾向について分析していこう。
まずは名前と年齢。やはりと言ってはなんだが、みんなが必ず言っている事だ。そもそも自己紹介なのに名前を言わないやつなんて居ないんだけどな。年齢はバラバラなので言っといた方がいいかなって感じでみんなが言っている。
次は種族とパートナーの名前。種族もまちまちなので、言っておいた方がいいとの判断だろう。また、共に学園に来たパートナーの名前を言う事によってその人との関係性をアピール。そして、彼氏彼女の関係だった時は近付くなという警告。まあ、言わない人もいるし理由は人それぞれだ。
最後に、得意な魔法もしくは扱う武器。冒険者として一番重要な事だ。この学園に来たという事は何かでずば抜けた能力があるからだ。それを予め知ってもらい、言うなれば自慢げに話せばいい。
中には、こんな魔法でこんな魔物を倒しました、みたいな話をするやつもいて、俺には到底無理な事なので関心させられる。
そして現在の自己紹介の順番だが、その前にどういう流れで順番が流れているのかおさらいしておこう。
まず机の並びは五行八列。一列五人が八列あると言った方が分かりやすいかもしれない。また、自己紹介の一番初めは窓側の最前列。要するに俺のちょうど反対側。そこから横に流れていき、折り返していくという順番。
そこから辿ってトリを務めるのはこの俺だ。なんともまあ不相応なやつが最後になったものだ。
そうこうしているうちに、また一人の自己紹介が終わってしまった。次はマリリン先生に質問をしていた委員長っぽい男性だ。
「自分はドワーフのエドウェント。親しい者からはエドと呼ばれている。現在二十八歳。パートナーは隣にいるリーン。彼女とは一緒に旅をし見聞を広めていた。得意な魔法は土魔法だ。よろしく願う」
――パチパチパチ!
淡白な感じの自己紹介だったが、まんまお手本のようだった。でもまたそれが型にハマっていていいなと思う。同じ男としてちょっと羨ましい。
「次は私ね。私は龍人のリーン。エドが言ったように私は彼のパートナーです。年齢は伏せてもいいよね。えと、私自身はあんまり強くないけどエドと一緒なら負ける気はしないかな。得意な魔法は水魔法です。みんなよろしくね」
――パチパチパチ!
こちらは硬い自己紹介をしたエドウェントと打って変わって、割とフランクな感じ。言葉の端々からパートナーを信頼していることが伺える。ただ、パートナーと言うだけで男女の関係ではないような感じだ。
そしてそこから何人かを経て、気になる単語を発する少年というか青年というか、まあそんな奴の番が回ってきた。
「俺は人間のライト、十七歳だ! 俺は必ず勇者になり魔人を倒して平和に導く! それが貴族の務めだ! だからそれを邪魔するやつは容赦なく倒す! そうなりたくないやつは邪魔するなよ!」
そう言ってライトという青年は自己紹介を終えて自分の椅子に座った。
今までとは完全に違う自己紹介にクラスメイトは困惑し、拍手がまばらに起こる。だが、そんなまばらな拍手でもライトは誇らしげに鼻高々としている。貴族ということらしいし、褒めて遣わすとか思ってるんじゃなかろうか。でもちゃんと自己紹介はしてたし悪いヤツではなさそう。
で、気になる勇者と言う単語だが俺はよく知った単語だ。地球にいた頃はゲームだのラノベだのアニメだのでよく目にしていた。
しかしながら俺の知る限りこの世界では勇者という者は居らず、どちらかと言うと『死神』の方が親しみが深い。だが彼はあえて勇者と言った。勇者という言葉の重みを知っていてそう言っているのかは定かでは無いが、平和を守るというのは本心だろう。嘘がつけるような感じではないからな。
そして次の番……なのだが。一向に始まらない。
――おい、次はディーネの番だぞ! 早く自己紹介をしろよ。
――ライトが言うなら。
恐らくライトのパートナーだろう。ここからでは会話は聞こえなかったが催促をしたようで、ようやく次が始まった。
「……ディーネ…………よろしく」
ディーネと呼ばれる少女はそれだけ言って席に着いた。あまりの驚きに拍手がライトよりもまばらだ。だが、ディーネはそんな事を一切気にしてない様子で微動だにしない。なんというか、他人に無関心って感じだ。
それとライトとパートナーらしいので多分彼女も貴族の一人だろう。他人に関心がないのは愚民に取り合う必要はないと思っているからかも……いやないな。多分あれは素だ。
それからまた自己紹介の順番が流れ、俺の前の列に入った。そういう事で、目の前にいる双子の自己紹介の番だ。
俺は双子がどんな自己紹介をするのかを見守ることにしていた。見るからにクラス最年少だし、俺は今のところクラス最年長。なんか保護者感覚で見てしまうのだ。致し方のない事だと思う。
双子でも男の子の方が順番は先だ。大丈夫だろうか。
そうやってハラハラしていると、双子二人ともその場に起立した。ちょっと予想外のことに面食らったが、双子なら同時に自己紹介した方が覚えてもらえやすいかもしれないな。
「僕はクロロ、十歳です」
「私はクララ、十歳です」
「僕はネコ科の獣人で、」
「私はイヌ科の獣人です」
「僕達は双子で頑張ってます」
「これからも頑張るので」
「「どうかよろしくお願いします」」
――パチパチパチ!
双子は十歳か。そりゃ小さい訳だ。十歳でこの学園に入学出来るくらいだから、恐らくは何か特殊な能力みたいなのを持ってるのかもしれない。
ただまあ……双子って可愛いね。子供なのも相まって保護欲がかき立てられる。まあ双子と接点のない俺が双子に話しかけたら、それはもう声掛け事案。立派な犯罪だな。『知らない人に着いて行ったら行けないって教えられた』みたいなこと言われそう。
そうならないように気を付けないと。ゆっくりじっくり警戒されないように、まずは友達から始めよう……って、これじゃ誘拐犯と思考が変わらないんだが。
いや、誘拐なんてこれっぽっちも考えていないんだが、なんというか思考が犯罪者チックで自分が怖い。俺は真っ当に生きたいだけの平凡な人間です。
とまあ刻々と近付いて来る自分の番にハラハラしながら気を紛らわそうとどうでもいいことを考えているうちに、もうすぐそこまで来ていた。
「私はエルフのティファ。学園長の言っていたことは関心した。これからはこの学園で自分の力を引き上げていけるように努力していこうと思っている。よろしく」
――パチパチパチ!
「えーっと、次は僕だね。ティファのパートナーをしているイスナって言います。よく名前だけで女の子って間違えられますが僕は男です。ですからあんまり自分の名前は好きじゃないですけど、親が付けてくれた名前なので大事にしています。得意な魔法は回復魔法です。みなさんよろしくお願いします」
――パチパチパチ!
今の二人が終わった事で、次はフィーの番になり、最後は俺。最後が俺とか、一番学園に相応しくないのにマジやべぇ。何がやべぇかって、変な目をつけられないか心配しすぎて手汗がやべぇ。
今まで俺の人生を考えると心臓もやべぇことになりそう。
……とりあえず、マジやべぇ。
俺がやべぇやべぇと思っていると、とうとうフィーの自己紹介が始まった。
「私はフィーと言います。歳は大体二十五歳くらいだと思っておいて下さい。パートナーは隣りにいるうちカナタさんとカヤです」
「にゃ〜ぁ」
カヤの名前が出た時、俺の机の上にカヤが出てきてにゃーと鳴いた。するとどうしたものかクラス中が騒がしくなったのだ。
――な、何あの黒いきい物!
――悪魔だ……悪魔がいるっ!
――殺られる前に殺らないとっ!?
「……得意な魔法は炎魔法で、過去にスライムを蒸発させたことがあるのが自分の誇りになってます。もしカヤに何かあったらその時は学園ごと吹っ飛ばします。ですので、みなさんどうかよろしくお願いしますね?」
「「「是非ともよろしくお願いしますっ!」」」
うーん。殺気を出したまま笑うフィーを久しぶりに見たような気がする。まあ、殺られる前に殺らないと、って言われたらフィーが怒るのも無理はないか。若干俺もムカってしたし。
とは言ってもカヤに襲いかかったところで簡単に返り討ちにされるだけだろうな。
と、ここで俺は気付いた。
みんなが俺を見て固まっている事を。
まあ、フィーがあんな事を言った後だし、そんなフィーのパートナーは俺だし、そもそも悪魔だと言われているカヤを傍に寄せてるのは俺だし。
なんと居心地の悪い事か。なんか俺が悪いみたいになってる。何もしてないのに。というか一言も喋ってないのに。
えっ、なに、こんな空気の中で自己紹介しないといけないの? こんなの俺に死ねって言ってるのと同じことだよ? だからこっちをそんなに見ないでっ!
「――カナタさん。次はカナタさんですよ!」
「あ、あぁ分かってるよ。ちょっと緊張しててな」
「カナタさんでも緊張するんですね」
緊張させるようなことになった発端のフィーさんが何か言っているようだが、俺には緊張で全く聞こえていませんね。
まあ、何がどうなろうと知ったこっちゃない。とりあえず、みんなの頭をじゃがいもかかぼちゃだと思って自己紹介をしよう。
そして俺は意を決してその場に起立をする。
「どっどうも! おっ、俺はカナタですっ」
あぁーっ! 上擦って変な声が出たぁー! 死にたい! 死にたいよぉ!
「そ、それとこの黒いのは、おおお俺の相棒の、カカカっカヤです! わ、悪い子じゃ無いので仲良く――ひぃっ」
仲良くと言った途端、クラスメイトの何人かに殺気を飛ばされたっ! 殺気を飛ばすなら事前に言っといてくれませんか!? じゃないと貧弱な俺は殺気だけで死んでしまいますから!
そしてフィーも殺気を飛ばし返さないで下さい。そのせいでさらにカヤが怖がられる羽目になって、間接的に俺が死にかけるんです。
これはもはやフィーに殺されそうになってると言っても過言ではないな。うん。もう死んでいいかな。いいよね。死にまーす。
「――ほらカナタさん続き続き!」
――はっ!
危うく死ぬところだった。とりあえず続き言ってみよう。
「え、えっと、俺は魔物使いって言って……簡単に言えば魔物を使役して戦っています。カヤはそんな俺の大切なパートナーで、俺がいる限りは何もしないので……あのぉ、仲良く――ひぃっ」
やっぱり仲良くって言っただけでどこからとも無く殺気が……マジで俺死んじゃうからやめて!
「と、とりあえず、カヤはないもしないいい子なので、それだけは分かって欲しいなぁなんて……ま、まぁ! それだけです! 後、俺は盾を武器として扱ってます! よろしくお願いします!」
「にゃ!」
――ひぃ!
――ここ殺されるっ!
――逃げないと逃げないと!
自己紹介が終わったのに、俺だけみんなと違って拍手がない……俺ってやっぱり嫌われてるな……世界に。
よろしくしたいのにしてもらえない俺の悲しみを分かってくれる人はいるのだろうか……。
「は〜い。みなさんちゃんと自己紹介出来たみたいですね〜。ちょっと最後の方で先生も面食らっちゃいましたけど、みなさん仲良く学園生活を送って下さいね〜。それがこの学園のルールです〜」
先生は生徒の扱いを良く分かっていらっしゃる。
この学園のルールだと言えば、冒険者としての使命感が働き何か不祥事を起こす事は減る。いじめとかな。マリリン先生の生徒の扱い方はよく慣れたものだ。多分この学園に来てから結構長いのではないだろうか。
だとすると結構なお歳に――ひっ! に、睨まれてる! 何あの人エスパーかよ!
「カナタく〜ん。言うの忘れてましたけど、あなたの思った通り人の思考が読めるんですよね〜。それと後でお話があるので、HR終了後私の所に来なさい」
「は、はい。分かりました」
いつも延ばしている語尾を延ばさなかったという事はめちゃくちゃお怒りになっているのだろう。まさか思考が読めるなんて思ってもないですよ。読めるなら読めると先に言って欲しいものだ。
それと! 思考を勝手に読むなんてプライバシーの侵害なので極力控えてもらっていいですか。
「カナタさん何かしたんですか? マリリン先生から名指しを受けていましたが……」
「い、いやなんでもないから気にしないでくれ。それよりこれから何があると思う?」
「さっき配られたプリントの最後に、HRの後に適正テストが実施されると書いてありますよ?」
「マジか。見てなかった……でも適正テストって何するんだ?」
「先生の話を聞いていれば分かると思いますよ」
「それもそうか」
という事で、先生の話を聞くことに。
「それではみなさ〜ん。プリントに書いてある通り今から適正テストが行われますので、第一演習場に行きましょうね〜。場所が分からないと思うのでしっかり着いてきて下さ〜い。迷子になっても知りませんよ〜?」
はい。まあマリリン先生だし期待はしてなかったさ。大事な事はあとから言うもんなこういう人。それがサラッと流しで言うか。どちらにせよ質悪い人だわ。
俺は愚痴を零しながらカヤを連れて先を行くマリリン先生のあとを追うのだった。
HR終わったのに先生の所に行かなくていいのだろうか。まあおいおいでいいか。おいおいで。
えー、大変お待たせしまい申し訳ございません。なるべく書こうと思っているものの良いものが書けず、悩みに悩んでます。前みたいに書けるようになるまで今しばらくお待ちいただければ幸いです。
それでは、次回もお会い出来る事を願って。