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072話 軽く都市じゃん


 手紙が届いてから一週間。この間に、手紙と同封されていたプレートに魔力を流し込んで、ワープゲートを呼び出す事が出来るというのを確認した。


 余談なのだが、このプレートに魔力を流し込む作業は俺にとって見れば地獄でしかなかった。

 人間であれば持っているであろう最低の魔力量を流し込めばいいみたいな事をフィーは言っていたのだが、俺の場合はギリギリまで魔力を込めても全く足りなかった。魔力が回復するのを待ち、ギリギリまで込めること五回。やっと使えるようになった。

 幸い魔力の絶対量が少ない分回復速度は早いので、込め終わるのに二日とかからなかったが、魔力が無くなると死ぬ可能性があるので、死の瀬戸際を経験する羽目になる。というか三回ほど三途の川を見た。

 それ程までに、俺にとっての魔力は危険極まりないものなのだ。マジ世界に嫌われすぎてて泣けるわ。


 閑話休題。


 一週間経った今日はグリム学園の入学式だ。それもあってフィーやカヤ、それと俺は正装に着替えて、女性二人は軽く化粧をしている。

 すっぴんでも目を引く美しさを持っているフィーが化粧をするとどうなるか。それはもう、悪魔的な何かに変貌する。


 フィーはあまり化粧を好まないので、ナチュラルメイクで抑える。この世界にファンデーションなる物はないが、角質を落とす化粧品はあるのでそれを使ったツルツルの肌、あとはほんのり桃色の口紅をサッと塗るだけ。これだけなのに、普段の美しさの何倍も上を行く容姿に変わる。

 さらに髪の毛を少し弄ってウェーブをかければ、道で男とすれ違う度に振り向かせるような存在感を放つ女性に変わる。

 それとカヤだが、フィーに化粧は止められた為に化粧はしていないが、長い髪の毛は弄った。俺の希望でポニーテールにしてもらったが、これがまた似合うのなんのって。


 とりあえず、この二人は他の男の前に出すのが嫌になるくらいは可愛い。


 俺については特筆するもの無し。いつも通り普通のおっさん。というか、見た目だけで言えば二人の保護者だ。


「さて、準備も整ったし、時間もそろそろじゃないか?」


「そうですね。ちょっと緊張してきました」


『わたしは楽しみー!』


「そうですねー。私も緊張してますが、楽しみではありますね。…………でも、一つだけ。カナタさんが何か事件が起こったとき、事件の中心にいるんじゃないかって、心配で心配で」


「それは考えすぎだと思うんだが……俺が中心にいたのなんて脱獄犯に人質に取られた時くらいだろ?」


「今更なんですけど、それって結構大事なんですよ? カナタさんは自覚してますか? 一歩間違えれば命を落としていたかもしれないのに」


 フィーに言われて改めてあの時の状況を思い返す。

 あの時はまだ名前は知らなかったがザザが、突っ込んで来た時にはナイフがその手にあった。もし、人質ていう手段ではなく、殺す為に突っ込んで来ていたら死んでいた。他にも、俺が喋った時に気分を害して殺されたり、態度が悪くてザザの癇に障ったせいで殺されたり。

 ザザがああいう性格だったから良かったものの、そう出なかったら、軽く殺されていた可能性が高い。


「…………うわぁ確かに。俺、何回か死んでたかもしれないのか」


「人間は一回死んだら終わりなんですよ! もう!」


「ごめんごめん。ほら、俺って悪運強いから、そうそう死なないって」


 寧ろ死んでも生き返るから、悪運云々の前に死ぬ事に関してそんなに考えてはいないんだよな。

 そもそも、本当に生き返るのか分からないのだが、テスタが言っていたし大丈夫だろう。あいつ嘘ついてないみたいだし、なんか感覚的に死んでも生き返るような気はしてる。カヤなんて殆ど感覚で出来るような気がするって言ってるし、俺のも同じようなもんだろう。


『カナタはわたしが守るから大丈夫だしね!』


「そうそう。カヤは世界一強いもんなー」


『うん! わたし世界一!』


「世界一強くても辛い時は私に話して下さいね?」


『分かった!』


「それじゃあ、行きましょうか」


 俺とフィーは手に持ったプレートを握り、ワープゲートを開く呪文を唱える。


『――開けゴマ!』


 ちなみにこの呪文は後から届いた手紙に書いてあった。プレートに魔力を流し込み終わると呪文が書いてある手紙が自動的に送られるような仕組みになっていたらしい。

 妙なところでハイテク……いやハイマジックだ。


 開けゴマ、というのがなんともダサいが、子供の時に良く言っていたのを思い出すとこれもいいかなと思ったりする。まあ歳を取れば昔が懐かしくなるものだ。しょうがない。


 そうして、俺達は目の前に出現したワープゲートを潜った。




   ◇◆◇◆◇




 ワープゲートをくぐった先は二段ベッドと二つの机が常備された1LKて広めの部屋。豪華な見た目ではあるが、感じ的にはアパートに近いかもしれない。というか、キッチンがあることにちょっと驚き。

 でもまあ、電気とか火は自分達の魔力で賄うんだし、学園側はそれ程費用がかかる訳でもないのか。一度作ってしまえばあとはメンテナンスする費用くらいしかないのだし、キッチンを作って学生の生活力が向上する考えると、作るほうがいいよな。そこまで深く考えていればだけど。


「とはいえ、広めのアパートって感じだし家にいる時より狭く感じるかもしれないな」


「――わぁ! カナタさん、ちょっとこっちに来てみてください!」


 フィーが窓の外を望みながら俺を手招きする。ここまで興奮しているフィーを見るのはカヤに対してのフィーを除けば、初めてに近い。


「いきなり声を上げてどうしたんだ?」


「これ見てくださいよ! これ!」


「――これは……驚嘆の一言に尽きるな」


 フィーが見て欲しいと言ったのは、窓の外の世界。俺達の部屋は高い所にあったようで、学園が一望出来た。


 外の世界は、優しい造りをした高い木造の建物が所狭しと建ち並び、宙に浮いて移動する人達や馬車に揺られながら移動する人達がいた。

 また、そこから少し離れた所には、高貴な者だけが入れると言わんばかりの豪邸が存在感を放つ。

 ここまで言えば察しがつくと思うが、学園はとてつもなく大きく、そして広かった。人もアイゼンブルクと同じかそれ以上に多いし、一気に近未来感が増した。


 高い建物なんて木造で優しめの造りにはなっているが、地球で何度も見てきたビルにそっくりだ。木造では強度的に問題があるのか地球のほど高くはないが、それでもこの世界に来て見たどの建物より大きい。

 それに加え、貴族の豪邸は白基調で神秘的な見た目をしており、これぞ金持ちという印象を受ける。


 なんかもう色々やばい。しかもこれは学園の半分程度。窓からは見えない所にも同じようなところがあるのだろう。


「思ったんだけどさ。これ……学園っていうより軽く都市じゃん……」


「はい……そうですね」


「何これ、どこぞの上条さんが在籍する学園都市なの?」


「か、かみじょうさん?」


「あ、いや。こっちの話。それにしてもまあよくやるよこの学園。もしかしたら科学も発展してきてる可能性があるしな」


 この学園、結構楽しめそうな雰囲気をしている。建築技術もだが、色々実験をしてきてるのではないかと思える箇所がいくつかあって期待が高い。

 それに、科学が発展してきてるならいつか魔法と科学が組み合わさった新しいものが生まれてきそうだ。現に、フィーの青い炎は科学を組み合わせて出来たものだし、これから先にそういうのが増えてくると思えば、いつか俺でも扱える魔法が出てくるんじゃないだろうか。

 というか、そうなってくれ。俺も思う存分魔法を扱ってみたい。


「で、学園に対する評価はいい感じなんだけど、もうそろ迎えが来る時間のはず……」


「確かに……ちょっと遅れ気味なんでしょうか?」


『今来たよー』


 カヤがドアを指差してそう言った。多分耳がいいから足音とかをキャッチしたんだと思う。

 そういえば、学園の想像を超える都市加減に若干忘れていたんだが、懸念していたカヤのワープゲート通りは簡単にいった。やはり、俺の使い魔的な存在の為、通り抜けられたんだろう。


――コンコンコン。


「はーい!」


 ノックされたドアを開けにフィーが向かう。そしてドアを開けた先にいたのは、超絶イケメンだった。歳は俺と同じか少し下くらいだと思う。

 だが、俺はこう言いたい。こういう奴がいるから俺みたいな普通かそれ以下の存在はゴミを見るみたいな目で見られることになるんだ。いっぺんイケメンを辞めてみろ。世界が敵に回るぞ。


「――お初にお目にかかります。お二人の案内人をさせて頂く、カーチと申します。どうぞよろしくお願い致します」


「御丁寧にありがとうございます。私の名前はフィー、こっちがカナタさんでこの子がカナタさんの使い魔のカヤです」


「カナタです。よろしく」


『よろしくー』


「フィー様にカナタ様、それとカヤ様ですね。以後、そのようにお呼びします。では、早速ですが式場までご案内させて頂こうと思います。私の後を着いてきて下さい」


 イケメンのカーチはそう言うと目の前の廊下を歩き出した。俺達はその後を着いて行く。

 廊下は地球のホテルのような感じで、他の部屋を一定間隔ごとに見ることが出来る。また、所々にカーチのような案内人が立っている部屋があり、結構な数の人が入学するらしい。具体的な人数はどれくらいなのだろうか。


「カーチさん。入学者ってどれくらいいるんですか?」


 俺が入学者の数を気にしているとフィーも気になっていたようだ。


「そうですね……正確な人数は分かりませんが、およそ四十組八十人くらいでしょうか。カナタさんのような特別な人や一人で来ている人もいるので」


「そうなんですね。ありがとうございます」


 八十人と言うと高校の二クラス分くらい。この学園にクラスがあるのか分からないが、大体それくらいの人数だと考えておけばいいだろう。


 それからは長い廊下を歩き、宙を浮いているリフトに乗り込むとそのまま下へと降りていく。簡単に言えばエレベーター。ただ、動力が魔法によって賄われているところが相違点だ。

 下へと降りると、今度は大きなホールのような建物を目指してまた歩き出す。下から周りを見てみると、上から眺めた景色とはまた違った発見があった。


 一番は俺達がいた建物が思いの外、横に広く縦に長かった。そして、外観がめちゃくちゃ綺麗で見栄えがとてもいい。周りの環境としっかりマッチしているし、製作者の力量が伺える。


 またしばらく歩くと目的地の建物にたどり着いた。ここまで来るのに結構な時間がかかっていて、それだけで学園の大きさが分かる。寮とホールだけでこれだけ大きいのだから、校舎を含むとどれだけ大きいのかなんて想像出来ない。今までと全然規模が違いすぎる。


「到着しました。あとは中に入ればまた別の案内人がいますので、そちらの指示に従って頂ければ大丈夫でございます」


「ありがとうございました」


 ではまた、と言ってカーチは来た道を戻っていった。『また』と言ったと言う事は、後で会うことになるのだろう。


「んじゃ、行くか」


「はい」


 そして、俺達は様々な期待を胸にホールへと足を踏み入れた。


 最近少し忙しくなってきたので、投稿が遅くなるかもしれません。楽しみにしている方は申し訳ないです。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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