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071話 強制かよ!?

 二章開幕です。


「あははっ! キミがちゃんと戦ってる所なんて初めてみた! 世界で一番弱いはずなのに一度も死なずに切り抜けるなんて、やっぱり彼は特殊なのかな?」


 未だ虚空に幽閉され、拘束すら解いてもらえていないテスタ。だが、彼には奏陽の様子がはっきりと見えていた。

 普通であれば拘束されている状態で見ることは出来ない。それでも、彼が奏陽の事を見ることが出来るのは、一重に進化を初めているからだ。

 進化を始めた彼は徐々に従来の神の枠から外れようとしている。それ故に、神々の完全な拘束など彼にってみれば、単に手足を縛られたようなものでそれ以外に制限されたという気はしていない。

 寧ろ彼にしてみればこれから先に神々が大いに進化する可能性がある事を示唆していると感じる事が出来、それだけで彼は心踊るような気分になっていた。


 しかし、そんなテスタとは裏腹に神々はより強固に人間との関わりを制限し始める。テスタが人間に接触したが為に自分達とは違った思考、感情、言動を取っていると考えたからである。


 神々はテスタが言ったように変わること(・・・・・)に関して恐怖を感じていたのだ。


 神々はそれをまだ自覚していない。テスタはそれを神々が自覚したら何が起こるのか、それが楽しみで仕方がなかった。そして、その後にどのような行動を起こすのかを知りたくなっていた。



 全ては彼自信が楽しみたいがために――。



 そんな時、彼の世界に異変が生じた。彼はすぐにその異変がなんなのかを知る。


「――あれれ? ボクが作ったこの世界に知らない人間(・・)が紛れ込んだみたい。でもこの人間……あはっ! さては"哀"の仕業かな?」


 テスタは地球(・・)から紛れ込んできた人間を見てより一層感情を昂らせる。この人間が関わる事でもっと面白い事になりそうだ、と彼は直感で感じている。


「それにしても"哀"は無茶するね。他の神が管理する世界に干渉するのはタダでさえ難しいのに、生きている人間の魂を抜いてボクの世界に送り込むなんて……こんなのすぐ他の神達にバレるよ?」


 テスタは"哀"を心配するような素振りを見せつつも、彼女の大きな変化に嬉しく思わずにはいられず、顔が緩んでいた。

 彼女の変化が如何程のものなのか、実際に進化したものにしか分からない。だから、今この瞬間で彼女の進化(・・)を知る事が出来たのはテスタしかいなかった。

 彼は進化の可能性を見ることが出来てとても満足してる。進化出来るのは自分だけでは無いことの証明にもなった事で、その満足度はかなり高いものだ。


 と、その時。彼の隣に何かが現れた。彼はちらりとそちらを見ると、小さくため息を吐く。


「――あーあ。やっぱりバレちゃったんだ。幽閉される事態は招かないって言ってたのに。ま、話し相手が増えるって考えると良いものだよね!」


「…………」


「"哀"もそう思うよね?」


「…………」


「ちぇー。話し相手が出来って思ったのに黙りこくっちゃうのかー。折角、哀の進化について聞いて見ようと思ったのになぁ」


「進化……? これが進化だと言うのか?」


「あははっ! やっと反応を返してくれたね!」


 テスタは声を上げて笑う。彼にとって嬉しい事が次々に起きており、気分が良くなっているために自然と声が出ているのだろう。


 それを横で聞いている哀はいかにも不快そうな様子でテスタを見る。


「笑っていないで我の質問に答えてはくれぬか」


「――ごめんごめん。……でも、自分自身で気付いているんじゃないの? 他の神とは違うって事をね」


「我は分からぬのだ。何故、拘束されると分かっていてこんな事をしてしまったのか。それなのに何故、これで良いと感じているのか。我は変わってしまったのだろうか……今一度教えてはくれまいか」


「はぁ……どうせここからは抜け出せないんだし答えを急ぐ必要はないよ。ゆっくり自分で考えて、納得のいく答えを探すほうがいい」


「…………そうか。ではそなたの言う様にしてみよう……」


 彼女は目を瞑り思慮に耽ける。表情一つ変えない姿はまるで眠っているかのように見える。

 テスタはそんな彼女に気になっていた一つの質問をする。


「なんであの人間を連れて来たの? もしかして適当?」


「――適当ではない。あの人間ならば我に見せてくれるのではないかと思ったのだ」


「何を?」


「――人間の可能性と言うものを、だ」


「ふーん。キミも面白い事を考えるようになったね。あの人間とカナタが出会った時が楽しみだって哀もそう思ってるんでしょ?」


「…………」


「ま、答えないならそれはそれでいいよ? キミが進化を始めてるのには変わりないんだしね」


 今までの彼女ならば確実に否定していたはずの問いかけ。だが、彼女は黙りこんでなにも言わなかった。彼女の進化は確実に進んでいる。テスタはそう確信出来た。


 今後、彼女がどういう風に進化を遂げるのか楽しみで仕方の無い彼は、心の中でこう叫ぶ。


――さぁ! 人間の可能性をとんと見せてもらうよ! それがボク達の進化へと繋がるのだから!




   ◇◆◇◆◇




「グリム学園か……学園って言うからには学校っぽいところなんだろうが、一体何をする所なんだ?」


「さあ? 私も分からないですね……」


『とりあえず開けてみたら?』


「そうですね。カヤの言う通りです」


 『グリム学園』とかいう知らない所から届いた謎の手紙。見た所、そこまで厚みはないので大した量は入っていないだろう。


 フィーが手紙の封を切ると同封されていたのは三つ折りされていた一枚の紙と二枚の学生証くらいの大きさのプレート。俺の予想通りだ。


「じゃ、読みますね?」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 〜フィー様へ御入学のご案内〜


 この度、フィー様は『グリム学園』への入学条件を満たしたので、御入学のご案内をさせて頂きます。

 『グリム学園』とは、冒険者の質をより良いものにするため、一定の戦果を挙げ、学園の運営側が伸びると感じた冒険者を呼び寄せ、育成していく機関でございます。

 フィー様はスライムやゴブリンの大軍との戦いで目覚しい戦果を挙げ、また無詠唱の使い手という事により学園に相応しい人材であると確信致しました。御入学を拒否する事も出来ますが、学園は全てにおいて高水準であり、学園の生徒であれば何もかもが低価格で手に入ります。また、現在フィー様が一ヶ月で稼いでいるお給金も支給されますので、是非とも御入学をお願い致します。


 御入学を決められましたら、同じく同封されているプレートへご自身の魔力を流してください。それによってフィー様だけの生徒証が出来上がります。

 生徒証が完成すると、学園へ繋がるワープゲートを自由に呼び出す事が出来ます。


 また、プレートが二枚ございますが、本来であれば付き添いの方を自由に一人だけ付ける事が出来る事になっています。勿論、付き添いの方でも学園の生徒であることには違いないので、生徒である恩恵は受ける事が出来ます。


 しかしながら、フィー様の隣にはこちらでもその全貌を把握出来ない謎の『カナタ』と言う男性がいると思います。

 申し訳ございませんが、フィー様が御入学される際には彼を付き添いとして連れてくるようお願い致します。


 入学式がこれから一週間後に開催されますので、それまでに決めて頂き、御入学すると決め下さったのなら、一週間後の八時までにワープゲートをくぐって下さい。その後、案内人が会場までお送り致します。


 異例な事もあり、勝手なことではありますが前向きに検討して頂ければと思います。また、グリム学園の事は他言無用でお願い致します。


 〜〜〜グリム学園運営委員会〜〜〜

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「だそうです」


「……一つ言わせて貰っていい?」


「どうぞ?」


「俺、強制かよ!? フィーには選ぶ権利あるのに俺にはないとか、この世界はよっぽど俺が嫌いみたいだな!?」


 はぁはぁ、と息を切らしながら俺はそう言い切った。というか、俺が強制だと知ってから、手紙を読み上げるフィーの手から手紙を奪い取って破り捨てたい気分だった。

 学園からしたら俺が全貌を把握出来ない謎の男のようだが、俺からすれば学園は何をしてくるか分からない危険な場所だ。無理に行く必要もないだろう。


「まあまあ、落ち着いてください。確かに強制なのは意味が分かりませんが、それでもそれ相応の見返りはありそうじゃないですか?」


「いやまあそうなんだが……一人の人間として、こういう人生の別れ道には自由意志を持って自分で決めたいんだよ」


「なるほどです。じゃあその自由意志で入学を希望出来るくらいになればいいってことですね?」


「え、なに? フィーは入学しようと思ってるの?」


「はい、そうですけど?」


 それがどうかしましたか、という顔で俺を見るフィー。辞めてくれ、それ以上見つめられるとうっかり好きですって言ってしまいそうになる。


 って違う違う。フィーは入学する気だったのか。だったら勿論俺も着いて行くに決まってる。何故乗り気じゃなかったのに着いて行くのかって?

 そんなのフィーの隣を他の男に取られたくないからに決まってるだろ。他にも俺はフィーに恩を返さなくちゃならないし、それはフィーの近くじゃないと出来ないからな。


 強制って言うのは納得いかないが、フィーが行くなら俺は喜んで着いて行く。

 ……自分で言っててなんだが、めっちゃ犬っぽいわ。忠犬ハチ公かよ。


「フィーが行くなら俺も行くわ」


「心替わり早いですね」


「まぁな。俺はフィーの隣にずっといた――あぁぁぁ!! なんでもないから気にしないでくれ!」


「? はい……カナタさんがそういうのなら」


 ふぅ。危うく告白をすっ飛ばしてプロポーズをするところだったぜ。いや、別に言ってもいいんだよ? 言ってもいいんだけど、言った後の事を考えるとヘタってしまうんだ……ヘタレだと罵ってくれて構わないが、それだけ俺はフィーのことが好きなのだ。


『ねぇねぇ。それってわたしも行けるのかな?』


「そういえば確かにそれは分かりませんね……」


「……多分大丈夫だと思うぞ? ほらカヤって俺の使い魔で登録してるじゃん? それなら俺の戦いのための生き物って事で俺と一緒に行けると思うんだよな」


「確かにそう考えれば行けそうですね。私が武器を持って行くこと何ら変わりなさそうです」


「そういう事」


『じゃあわたしも行けるの?』


「多分だけどな」


『やったぁー!』


 カヤはバンザイをしながら飛び跳ねてる喜びを表現している。飛ぶ度に髪の毛やワンピースがふわりと浮き上がるのを見てると、なんとも言えぬほっこり感が湧いてくる。

 隣にいるフィーを見てみると、どうやらフィーも同じ様にほっこりしているようだ。


「ところで、学園では何をするんでしょうか?」


「養成って言ってたし、俺達を育てるのが目的じゃないのか? 魔法の使い方とか色々学べると思うぞ」


「うーん。それは嬉しいんですけど……何の為にそんな事をしてるのかなって思いまして」


「確かにそれは分からないな……誰かには聞こうにも他言無用らしいし。でもまあ学園に行けばいつか分かることじゃないか?」


「……そうですね。今は気にしない事にします」


 釈然としていなさそうではあるが、仕方の無いことだ。まあもし、フィーが望まない事を目的としているならその時は、俺とカヤでフィーを連れ帰るけどな。カヤだってフィーが心を傷めているのを見るのは嫌だろうしな。


「じゃあ入学は一週間後らしいですし、アップルパイを焼きましょうか」


『そうだった! アップルパイ!』


「今すぐ作るのでちょっと待ってて下さいね」


「俺も手伝おうか?」


「はい。じゃあそこの・・・」


 この日常は学園に行けばしばらくはないだろう。だから今この瞬間を全力で楽しんでおこう。


 俺はそう思いながら、フィーの隣でリンゴを薄くスライスするのであった。


 少しづつですが、神達の様子も変わっていきます。そして、テスタの扱い辛さがすごいです。もう少し落ち着いて欲しいところです。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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