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062話 命をかけて命を守る仕事


「何がともあれ、これで穴は全部掘れたな。あとは掘った穴に一本だけ道を作っとけば、そっちにゴブリンを誘導出来るだろうから戦いやすくなるんじゃないかね。主に魔法使いには」


「だと思います。来るところが分かっていれば魔法も当てやすいですからね」


『つくるー?』


「おう。カヤ頼めるか? 土塊を四分の一だけ切り出して、さっきの所に埋めるだけでいいから」


『はーい!』


 一切嫌がらず元気よく返事をして、要求通りの仕事を即座にこなすカヤ。仕事は既に終わってしまった。なんと仕事の早い事か。

 地球にいた時は猫の手も借りたかったところだったのに、今では猫の手でしかしてない。なんとも笑える話だ。


「よし、これで良さそうだ。ありがとうな、これだけ仕事をしてくれたカヤにはゴブリンの進行を止めれた時に何がご褒美をあげよう」


『ほんと!? やったー!』


「私からもご褒美に何かご馳走しますよ」


『わーい!』


 カヤは見た目相応に喜びを体で表現する。ぴょんぴょん跳ねまわったり、走り回ったり、まあそんなものだ。カヤの精神年齢的に言えばもう少し年上の言動、行動をとってもいいはずなのだが、実に子供っぽい。

 これは俺の推測でしかないのだが、カヤが子供っぽいのは人間として生活するのがまだ一年位しか経過してないからなのではないだろうか。そうだとすれば、実年齢は上だとしても人間としての年齢は一歳ということになり、実年齢が人間としての精神に引っ張られているのではないかと考える事が出来る。カヤが猫になっている時は、割と大人の対応なところからそれが分かる。


 まあ要するに、今は子供っぽいが、歳をとっていけば段々大人びてくるんだろう。俺としてはそれもいいが、子供っぽい方が可愛くて好きだ。一生このままでいて欲しいくらい。 


「それでカナタさんはこれからどうするんですか? 何かまた準備を?」


「準備っていう準備じゃないけど、一応空堀が掘れた事をフレッドに報告しに行かないと。空堀があるのとないのとじゃ作戦が全く別物になるだろうからな」


「確かにそうですね。今から行きます?」


「おう、作戦を練るためには、報告は早い方がいいだろうからな」


『じゃあ、またしゅっぱーつ!』


 俺達は来た道を戻って街の中に戻る。

 その途中に、俺達の様子を見ていた兵隊の幾人かが、カヤを恐ろしいものを見るような目で見ていたのだが、それに気付いたカヤが兵隊に向かって、めちゃくちゃ愛おしい笑顔と共にブイサインを作った為、気絶者が多発し、鼻血が止まらなくなるという軽い被害が出てしまったのは仕方のないことだろう。

 ちなみに俺も被害者の一人だ。もちろんフィーも例にもれず被害者の仲間入りを果たしている。そんな俺達が気絶から復帰した時、二人してカヤに米俵を担ぐかのように運ばれていた。なんとも情けない話だ……。

 だがそのおかげで予定通りの時間位に協会へは着いたのでカヤには感謝だ。


 現在、協会には今朝のように冒険者達は群がってはいない。俺達が街の外で空堀を掘っているうちに、協会の職員が捌ききったのだろう。お疲れ様である。


「えーと、色々アクシデントはあったが、とりあえず協会には着いたな。早速話をしたいところなんだが……」


「支部長は今話を聞ける状態なのでしょうか? さっき会った時は疲れてそうでしたけど……」


「多分聞けるだろ。無論聞けない状態だったとしても無理矢理聞かせるけどな」


「イヤンッ……カナタ君てそんなにゴーインだったんだね……失望しちゃうッ! ……シクシク」


「うおっ!? いきなり出てくんじゃねぇーよ! ビビるだろ! それと気持ち悪いからその口調やめろ」


「……私の気分転換にくらい付き合ってくれてもいいじゃないか。それで、君達は何をしに戻って来たんだい?」


 協会に入ってすぐの所で話していた俺達の背後からフレッドがヌルッと話に入って来た。

 ちなみに、俺達は入口に背を向けているので協会の奥からフレッドが来ていない事は確認済み。どうやらフレッドは外に行っていたようだ。


「今すぐお前に話したい事があるんだが…………お前、そんなんで聞けるか? さすがにそれは話してる俺の方がキツいんだが?」


 外から帰って来たと思われるフレッドの顔はいつしかの俺のように、疲れで死人のようになってしまっている。目には隈がびっしり、唇は若干紫っぽくなっていて、肌の色からは覇気が見られないのだ。

 無理矢理聞かせるとは言ったが、こんな状態で話すのはさすがに気が引けるというものだ。


『死にかけ?』


「カヤちゃん、私は大丈夫だよ。今、外に行って活力剤買ってきたから……」


「それでどうにかなるもんなのか?」


「あぁ。この活力剤を飲む事で、体の怠さや疲れを軽減しこれからの仕事に集中出来るようになっているんだ。更に、ストレスや体の怠さや疲れを予防してくれる様な成分も入ってる為、仕事人には最適なのさ……」


「おぉ……なんかCMっぽい。って言うか、それ完全に栄養ドリンクだな。俺もお世話になってた頃が懐かしい……」


「君もお世話になった事があるんだね……何だか君が苦労してる事が実感出来た気がするよ……」


「だろ? 今の一番の苦労の種はお前だけどな」


「ははっ、君の一番を貰えるなんて嬉しいね」


「……ダメだこいつ……早くなんとかしないと」


 疲れのあまり自分でも何を言っているのか分からないのだろう。俺も何度かあった。


 これは地球にいた頃の話になるのだが、納期に間に合わせる為に徹夜を続けていた事があり、疲れとストレスが相当に溜まっていた事があった。それを連日続けてようやく納期に間に合わせる事が出来、その日は疲れて死にそうな俺を佐倉が労ってくれると言うので、お言葉に甘えることにしたのだ。

 だが、事もあろうか佐倉は飲みに連れてきたのである。その日の俺は何をされたとしてもものを言う気力もなかったので、流れるままに酒を浴びるように飲み、疲れを忘れようとしたのだ。


 なのに先に佐倉が潰れてしまい、その佐倉を俺が見守る様な形になってしまって更に疲れる結果となった。それで帰宅となった時、佐倉が『好意を寄せている人はいますか』みたいな事を突然言い出したのだ。

 無論、俺には好意を寄せている人もいないし、好意を寄せられる様な人でもなかったので『いない』と答えるつもりだった。しかし、その時の俺は何を血迷ったか、酔った佐倉を見て胸が高鳴ってしまい、『佐倉かな……』と口を滑らせたのである。

 幸い、佐倉は記憶が残らないタイプだったのでその時の事は覚えていなかったのだが、俺はしっかり覚えているので、数日は佐倉を見るだけで恥ずかしくなったものだ。


 恐らくフレッドも思い返して恥ずかしくなり悶える事だろう。まあ、フレッドだし大いに悶えてもらおう。


「あははっ……なんだか世界が回るぅ……グ〜ルグルグル……せあいがあわるぅ……」


「呂律も回ってないぞ…………って、おい!」


 フレッドはフラフラしながらそのまま前のめりに顔面から倒れていった。俺は倒れるフレッドに対して咄嗟に手を差し伸べたのだが、悲しきかな、届かなかった。

 しかし、ゴンッ、と物凄い音を立て倒れたにも関わらずフレッドは無傷で床にはヒビが入っていた。なんとも恐ろしい石頭だ。


「わわわ! し、支部長っ!?」


『死んじゃったの?』


「いや……脈もあるし、呼吸もちゃんとしてる。多分こいつの状態から見るに過労による気絶だろう。良くもまあここまで働くものだな。フィーこいつを運ぶの手伝ってくれ」


「わ、分かりました……」


『わたしも手伝う?』


「カヤはこいつが起きた時の癒しになってやってくれ。そしたら確実に疲れが飛ぶから」


『はーい!』


 根拠なんてものはないがカヤが癒しに集中したら絶対疲れは飛ぶだろう。なにせカヤだからな。飛ばないはずがない。


 それから、気絶してしまったフレッドの事を職員に話して協会の奥へと連れて行った。そこで分かったのだが、協会の職員もフレッドと似たような状態であった。そりゃあれだけの冒険者を一気に捌いたらこうなるか。

 また、フレッドを運ぶ時にも不思議な事があった。何かと言うと、思ったよりも軽かったのだ。何を当然の事を……と思うかもしれないが、あんなに重そうな剣を振っているのに筋肉が殆どついていないのだ。不思議でならない。一体どこにあれだけの剣を振れる筋肉があるのだろうか。


 フレッドをソファーに寝かせた俺はフィーに何か知っているか聞いてみることにした。


「なあ、フィー。こいつ筋肉全然ないけど、どうやってあの剣振ってるのか分かるか?」


「うーん……私にも分かり――あっ。もしかして魔力を腕に流して補助させてるのかもしれません」


「どゆこと?」


「そうですね……腕に魔力を血液のように張り巡らせて、魔力を筋力を上げるというものに変換すると言ったところでしょうか?」


「それ身体強化の類いっぽいな。ただ俺の場合、魔力自体が少ないからやり方が分かっても何も出来ないという悲しい現実が待ってただけだが」


「そうですね……今、初めてカナタさんの魔力の強さを見てみたんですが確かに少ないですね。常人の十分の一以下です」


「分かってた事だけど実際に言われるとくるものがあるな……」


「でも……何だか変なんですよね。カナタさん以外の人は魔力が渦を巻いているように感じるんですが、カナタさんだけは蝋燭の火みたいに静かに揺らいでいると言うか……それにその火が強くなろうとした途端にそれが抑えられたかのように弱くなってますし……」


「マジで? 俺の体どうなっちゃってるの?」


「私に聞かれても分かりません」


「だよなぁ……」


 フィー曰く、俺はおかしいらしい。まあおかしいのは前々からだから気にしたら負けかもしれないが。はっはっはっ。

 と、まあ冗談はここまでで、一応フレッドの筋力の謎はある程度解けた。それと同時に俺の魔力の総量が少ない事も決定的になった。力になりそうな情報は得ることが出来たのにそれを使えないのは泣きたいところであるが、こんなのは日常茶飯事なのでこれくらいじゃ泣かない。


「とりあえず、俺の無能さが証明されたところでこれからどうするよ? 肝心のフレッドはこの状態だし……」


「やぁ、私は今起きたよ」


「うぉい!? いきなり起きるんじゃねぇーよハゲ!」


「はっはっはっ! ――私はハゲてない」


「何お前ハゲ気にしてんの? 年齢的に気にするの早くないか? そういえば最近俺も……って、ちがーうっ!」


 ついさっきまで寝ていたはずのフレッドが突如起き出して、初っ端から飛ばしてくる。ハゲてないと言った時のフレッドは今まで見てきた中でダントツという程に真剣だった。気にしてるみたいだったな。ちなみに俺も少し気にしてる。


 さて、それはさておき、こうしてフレッドが起き上がってくれたのだ。こいつがまた寝ない内に空堀について話しておこう。


「フレッド、お前に話しておきたいことがある」


「あぁ、そういえばそんな事を言っていたね。なんだい?」


「空堀は掘り終わったからその報告と、どんな状態になっているのかの連絡だ」


「ももももう終わったのかい!? それはいくらなんでも早すぎやしないかい!?」


「カヤに不可能はないのだよフレッド君」


『えっへん!』


「支部長。カナタさん達はいつもこんな感じですので気にしないでください。私は慣れました」


「……フィーさんが丸くなった理由が分かった様な気がするね。まあいいや。空堀が出来たのならそれはそれでありがたい。作戦の練り直しになるけど、空堀がなかった時よりは遥かに楽な戦いが出来るはず。この活力剤を飲んで頑張るとしよう!」


 そう言ってフレッドは活力剤を飲み干して、高いテンションのまま支部長室へと戻っていった。

 まだ伝えてないことがあったのに途中で戻るとは思ってもなかった。普段のフレッドならこんなことはなかっただろうに……やっぱりフレッドは疲れでどうにかなっているようだ。


 と、支部長室からこちらにドタドタと向かってくる足音が聞こえ出す。無論フレッドだ。


「私じゃ空堀の場所が分からない! 教えてくれないかい!?」


「気付いたようで何よりだ。地図はあるか? なかったら紙でも構わない。図で示した方が分かりやすいだろ」


 フレッドは職員に頼んで地図を持ってきた。正直地図じゃなかったら色々めんどくさかったところだ。地図で良かった。

 そして俺は、どこにどんな風に空堀が掘られているのかカヤと一緒に説明をした。更に、土塊の上に乗ってゴブリンの方に魔法を撃ちやすくしたということも伝え、また、空堀の一箇所に一本道を作ったことも伝えた。後はフレッドの作戦次第だ。


「・・・なるほど。君達は君達で色々と講じてくれていたのか。ではそれも考慮して作戦を練り直そう。即興で作るので荒さは目立つだろうが、何せ時間がない。冒険者のみんなには苦労をかけてしまうな」


「冒険者は命をかけて命を守る仕事だぞ。この街の冒険者ならどんなに辛くてもやり遂げるだろ」


「そうだといいけど……今回は私も戦いに参加するし、みんなで助け合いながら戦えばきっと勝てる。そう信じよう」


 フレッドは気合十分に支部長室へと戻った。


 俺はフレッドは嫌いだが能力はかっている。あれでも曲がりなりにも支部長をやってきているのだ。それだけの器と能力は持ち合わせている。ただ、俺に対してだけ何故かあんななのがイラッとするだけ。

 だから、あいつならきっとみんなで助け合う事で成功確率が上がるような、そんな作戦を考え付くだろう。


 俺は嫌いなフレッドに期待をしながら、迫り来るゴブリン襲来を具体的にどう乗り切るかを考えるのであった。


 もう二、三話戦いに入るかと思われます。具体的な内容はまだ決まっていませんが、ある程度重要なところは決まっているのでどう持っていくかに苦戦しそうです。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

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