表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/116

058話 俺の武器っ!!


 初めてのデートから二ヶ月弱が過ぎた。この世界に来た時から数えれば一年と三ヶ月程だ。


 この二ヶ月は順調と言えば順調なのだが、一つだけ気にかかることがある。それはフィーの態度がデートをした次の日辺りからよそよそしい感じがすることだ。とは言っても、フィーはいつもの様に話してくれるし、むしろ普段通りすぎてよそよそしいのは俺なんじゃないかと錯覚する程に微々たるものなのだ。

 ただ、フィーと二人っきりになった時や老後について話している時などで、偶に沈黙が苦しい時がある。今まではそんな事なかったし、俺はいつも通り接しているつもりなので、恐らくはフィーに何かしら思うところがあるのだろう。

 もし、フィーに男が出来ていたとしたら――それはちょっと嫌ではあるが――事実俺はおじゃま虫になる訳で、感謝の気持ちと誠意を持ってフィーの元から離れようと思っている。無論、それ以外なら何も考えずフィーと一緒にいる事を選ぶが。


 俺としては、このよそよそしいというかぎこちないというか、そんな感じの空気をどうにかしたいと思っている。よく二人きりの時によそよそしくなるように感じるのだから、原因は多分俺にあるはず。そう思って遠回しに俺の直して欲しいところを色々聞いて見たが、殆ど――というか全くなかった。

 その事もあって、逆に何もなさすぎてこうなってるのではと深く考え過ぎた挙句、一日飯抜きになったのはつい昨日の事のように……というか昨日の事だ。ははっ、死ぬかと思ったぜ。


 と、まあこんな感じで二ヶ月を過ごして来たわけだ。もちろん仕事の方は俺もフィーも順調。階級(ランク)が上がる予定はないが、収入は安定してきた。まあ、辛うじて人一人養えるくらいの収入なのだが。


「カナタさーん! 行きますよー!」


「おーう、今行くー」


『はやくはやくー!』


 さて。ここからが本題なのだが、今日は武器屋に行く。いきなりかもしれないが、これは兼ねてより考えていた事でもある。


 冒険者としての俺のスタイルは、カヤに指示を出して俺は戦わないという卑屈なまでの逃げスタイルだ。

 そういう訳で、今までは街の外に出て何事もなく魔物を倒せていたのだが、俺はふとこう思ったのだ。


『あれ? 今後ろから魔物が来たら俺死ぬくね?』


 それ以降、カヤには俺の近くに常に居てもらい、攻めてくる魔物を迎撃してもらうことにした。

 しかし、前のスタイルと今のスタイルには多少の違いはあれど、根本的なところが全く同じなのだ。


 俺はカヤに護られているだけ。何もせず、ただそこに立っているだけ。これではこれからの冒険者人生が詰んでしまう。

 階級(ランク)が上がれば言わずもがな戦う魔物も強くなる。もちろん俺も例外ではなく、前線に駆り出されるだろう。そんな時、俺だけが自己の防衛すら出来ずみんなの足を引っ張ることになりかねない。

 だから今のスタイルはカヤが魔物をワンパンしてくれて、周りに守るべき人が居ない今だからこそ出来るものであると感じたのだ。


 そこで俺は自分が戦わなければこれからの人生生きていけないなと感じ、まずは形からという事で武器屋に行くことにした。しかし、またしてもここで俺は思ったのだ。


『あれ? 武器ってなんぞや?』


 武器……俺の中で武器らしい武器と言えば、包丁やフライパンなどの台所用品、物干し竿や紐など、様々な鈍器や絞める道具くらいだ。

 だがそれらの攻撃対象は魔物ではなく人間であり、俺がゴブリンに向かって包丁を向けたところでほぼ確実に俺の方が死ぬ。

 現実的に考えれば、武器とは剣や槍の事を言うのだろうが、如何せん俺は何も知らない。剣や槍についてもそうだが、剣や槍の扱い方、体の運び方、その他諸々を含めた何もかもを知らない。

 そんな俺が単身武器屋に行ったところで、扱えもしない武器を買い、ただただお金を浪費するだけでしかない。


 そういう事を考えると、冒険者の先輩に色々聞きながら選んだ方がいいという結論に達した。誰に聞くのが一番いいのか考えたところ、即決でハピネスラビットの人達だったのだが、生憎ハピネスラビットは現在遠征中なようで、ならばとフィーに頼んだ。

 ぎこちなさを感じていたので心配ではあったが、フィーは快く承諾してくれて、晴れて今日を迎えたのだ。


 ――で、現在。


「着きました」


「んー。ここ武器屋だったのか。てっきり協会の倉庫か何かだと」


 協会の隣に建つ、倉庫っぽい武器屋の目の前に来ていた。


「まあ、鍛治をやっている武器屋ではなくて、武器を卸している武器屋なので、どうしてもそう思ってしまうのも仕方のないことだと思います」


「なるほどな。って事は気難しい職人肌の店主とかではなく普通の武器商人がいて、割と一般的でクセのない普通の武器が適正価格で手に入るわけだ」


「そういうことです。ちなみに、ここは武器商人ではなくて、協会の職員が働いてます」


「ほー。さすが協会の隣なだけあるな」


『とりあえず入ろー』


「そうですね。入りましょうか」


 そうして入った武器屋はいかにも倉庫といった感じで、内装からは武器屋だとは到底思えない造りをしていた。もっとこう配置とかレイアウトとか色々考えればいいのに。


「いらっしゃいませ。お客様、当店は初めてでしょうか」


「え、あ、はい」


「当店は協会と提携している事で、協会に援助していただいているため価格を常に通常の二割引しております。また、武器の種類は多く揃えておりますので、ご自分にあった武器が見つからない場合はなんなりとお申し付けください」


「はい、よろしくお願いします」


 奥から出てきたのはやせ細った長身の男性だった。対応は一応丁寧だったので普通に返す事が出来たが、無言で這い寄られていたら確実に声を上げてビビってた。


「カナタさーん、これどうですか?」


「これは普通のロングソードか。ちょっと持ってみる」


 そう言って俺はフィーからロングソードを受け取った。受け取ったはいいが、重すぎて持てない。柄の部分を持っているがために剣先が床に突き刺さったような状態になっている。


「も、もてねぇ!」


「え? こんなの軽い方じゃないですか?」


「マジかよ……フィーがおかしいだけじゃないのか……」


『おぉ? これなにー?』


「…………バスターソードが何故ここに……というかよく片手で持ち上げられるな……」


「私でもあれは持ち上げれる自信ないですね」


『かるいかるいー! わたしこれ欲しい!』


「軽いって……身の丈くらいあるのにマジかよ……最強は伊達じゃねぇな」


 カヤにはバスターソードはまだ軽いらしい。だというのに俺はロングソードごときで重くて持てないとか色々終わっている。これこそ典型的な不条理だな。


「カヤはおっきいものより、こういった小さい方が合ってると思いますよ。何度か一緒に仕事をしていて、カヤは早い動作が多いのは確認済みですし、あれだけ早く動くなら武器は小さくても大丈夫です」


『なるほどー。じゃあそれにする!』


「はい、早速買ってきますね」


 カヤは即決したようだ。元々は俺が自分のために武器を買いに来たのに、いつの間にかカヤまで武器を買っている事実に内心不思議な気分だ。


 さて、俺もこうしてはいられない。早く何かしら候補を挙げておきたい。

 現在、俺に合う武器はロングソードより軽いダガー系、もしくは柄が軽い木で出来ている槍系の二択。この武器屋には他に、杖やら、メイスやら、斧やら、チャクラムやら多種多様な武器が置いてあるにはあるが、俺には扱いきれないものばかり。槍だって俺には扱いきれない。


 よって、ギリギリ扱えそうな短剣を俺も選ぶことにしたのだが、ふと、俺の目の端に留まった妙な箱が気になった。

 この感覚はあれだ。この右腕に嵌っている腕輪の時と同じだ。ただの興味、ただの好奇心。まあ、男なら何度と言わずあるだろう。


 俺はその好奇心に従ってその箱の方へと向かった。


 箱は少し大きめだが、俺の上半身もないくらいの大きさだ。形的には玉手箱のような感じ。蓋だけでも中々に重そうだ。

 俺が意を決してその箱を開けると、中に入っていたのは『盾』だった。大きさと見た目的にバックラーだろう。


 なぜ武器屋に盾があるのか疑問だが、盾だって見方によれば立派な鈍器だ。それに、バックラーくらいなら俺でも簡単に扱えそうだ。

 俺は試しにそのバックラーを装着してみる事にしたのだが、その時の俺は失念していた。何故他の武器はむき出して置いてあるのにこれだけ箱に入っていたのか。そして箱に入っている事はどういう事なのか。


 つまり、俺は同じ過ちを繰り返したのだ。


「これ、いい感じにフィットするな。扱いやすそうだし」


「申し忘れておりましたがお客様ぁぁ!?」


「おっ!? びっくりした……な、なんだよ」


「いえ……少し驚いただけですのでお気になさらず。それとお客様。落ち着いて聞いて下さい」


「ん?」


「その盾は、装備したものを支配し殺そうとする呪いの盾でございます。装備を外しても次の日には何故かその手に帰ってきて殺すまで付きまとってくるのです。ですから、その盾を装備したが最後、その方の人生は終わったも同然なのです」


「…………マジ?」


「マジです。私は十年ほどこの盾を見守ってきましたが、武器屋に来て盾を装備しようとして実際に装備した方はあなたが初めてですよ」


「呪いを解く方法は?」


「…………」


「ないんだな。よーく分かった」


 よく分かったさ。俺の死が確定したことは。だが、呪いを解く方法についてはあるともないとも言われていない。

 もしかしたら何かしら方法があるのかもしれない。


「随分と落ち着いていらっしゃいますね」


「まあ、こういう突飛な事には慣れてますから。とは言え、こういうのは勘弁して欲しいんですけどね」


「装備したのはあなたの意思ですけどね」


「フゥー! 辛辣ゥー!」


「ですが、ここに置いていた私の不徳もありますので、どうにかして呪いを解くお手伝いをしたいのですが、如何せん確証がないというかなんというか……」


「まあまあ、今は一筋の光に縋りたい一心ですから話してください」


「では、簡単に。この盾を持っているものだけが辿り着けるという境地に呪いを解く巫女がいるそうです。その巫女に会えたならば呪いは解け、更なる力の解放がなされるそうなのですよ」


「へぇ。それって伝承?」


「まあそうなりますね」


 ほらな。呪いを解く方法は確かにあったんだ。ただ、伝承という事で若干の不安はあるが、こういうのが残っているということは、実際にこの伝承に近いことがあるという事だ。

 まあ、巫女くらいならどこにでもいそうだし、探せば見つかるかもな。


「なのですが、この世界に巫女なるものは存在しません」


 フラグ回収お疲れ様です。

 じゃあもう呪いを解くとか無理やん。どうしろと。


 …………こうなったらヤケだ。巫女がやりそうな事を俺がやってやる。


「……真なる盾よ。その身に宿す邪悪を斥け、天なる力を授けよ」


「な、何をしているのですか?」


「うるさい! ちょっとヤケを起こしただけ――だぁ……」


「お客様!?」


 巫女の真似をした後に、急に全身の力が抜けた。何だか俺の魔力の九割が抜かれた気分だ。

 ……というか実際に抜かれているのだが。これは一体どういうことだ?


 すると、俺の手の中にあった盾が白い光を放ち始めた。そして時間が経つにつれて、時たま、黒い靄のようなものを出しながら、徐々にその光を弱めていく。

 この様子だと、俺がした巫女の真似事が上手くいったようだ。さすが適当な世界。適当にやればとりあえず何かしら結果は出るぜ。


 盾の光が完全に収まった時、俺の手の中にあった盾は普通の盾から、純白に輝く盾に大変身を遂げていた。


「おおおおお客様!? これは一体!?」


「俺も分からん。が、結果オーライだ」


「…………お客様。この盾の事ですが……」


「返せって事か? 心配せずとも返すぞ?」


「いいえ、そういう事ではなく……私、鑑定が出来る魔法を持っているのですが、この盾の効果で解放させた者以外が装備すると呪われるとあるのですよ……」


「……ということは何か? 元々解放されてはいたが、そいつが死んで誰かが装備したせいで呪われた盾になった……みたいな?」


「えぇ。恐らくは」


「何そのはた迷惑な話」


「ですので、この盾はお客様に差し上げます。大切にお使い下さい」


「まあ、置いておくだけ危険だしな。有難く使わせてもらうことにする」


 そういう事で、俺の武器が決まった。ただ盾なので武器とは言わないかもしれないが、俺の初めて武器屋で買ったものという事で、これは武器という事にしておこう。


「カナタさん、これは?」


『なんか凄い光ってたけどなんだったの?』


「あー、それはなんでもない。だけど決まったぞ。これが、俺の武器っ!!」


『「盾?」』


「武器とは言えないかもしれないが、俺が立派な武器に仕上げてやるぜ!」


 こうして俺の魔力を犠牲にした武器決めは終わった。これからこの盾とは長い付き合いになりそうだ。


 そういえば武器まだ持ってなかったなと思って書いた話です。武器決めも奏陽らしさが出てて良かったのではと思っています。

 それでは、次回もお会い出来る事を願って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ