057話 感謝の気持ちを込めて
また投稿が遅れてしまいました。申し訳ないです……。
エレナとザザの闘いはザザが終始優勢だったが、最後の最後でエレナが決死のクロスカウンターを決めた事で双方相打ちの引き分けとなった。
野次馬達は気を失って倒れこんだ二人に惜しみのない拍手を送ると共に、傷の手当と休める場所の確保を迅速に行っていた。そのため、エレナとザザは二人揃って医療所に担ぎ込まれてベッドに寝かされた。
ちなみに俺はエレナが目を覚ますまで、エレナが寝ているベッドのそばにいた。
エレナは昼過ぎても目を覚まさなかったので昼食をどうしようかと悩んでいたところ、ザザのお見舞いに来た店長さんが俺の為にサンドイッチを作って持ってきてくれた。フィーと比べると少々あれではあるが美味かった。
それからエレナが目覚めたのは三時間が経った時だった。外は日が暮れ始め、徐々に仕事を終えて帰宅する人達で溢れかえる。
「よっ、起きたか」
「カナタさん……?」
「どこか痛むところは?」
「いえ、特には……」
「んじゃ、家に帰っても大丈夫そうだな。ザザも一時間くらい前に黙って帰って行ったし、エレナも帰るか?」
「ザザさん……はっ! い、今の時間は!?」
「正確には分からないけど、多分四時頃かな?」
「あぁ……やってしまった……」
明らかに落胆してる様子を見せるエレナ。それもそうだろう。せっかくの休日に三時間も寝てしまい、目一杯遊べなかったのだからな。
本来ならこの三時間程で昼食を食べたり、他の場所に行って遊んだりしてただろう。まあ、たらればを言っても仕方が無い。
「本当にすいません。せっかくの休日を台無しにしていまい……なんとお詫びすればいいか……」
「俺は気にしてないぞ。割と楽しかったし。それに、ここで医療についてちょっとだけ勉強出来たから俺としては結果オーライ。そういう事だからエレナも気にするな」
「カナタさんがそういうなら……」
実際に俺は医療所の先生と話をしながら、人体の仕組みを詳しく聞いた。その中で俺の身になったのは約三割と言ったところだろうが、学ばないよりはマシだろう。
先生から学んだ中で最も感心したのが、回復魔法の仕組みだ。医療所に務める先生達は全員が回復魔法を使えるらしく、暇な時に回復魔法の仕組みを解明していたら、正確なことまで分かってしまったそうだ。
肝心の仕組みだが、回復魔法は肉体の活性化を促して治療しているらしい。だから、擦り傷や捻挫、打撲については元通りに治るが、部位が欠損した場合は元には戻らないとの事。また、風邪や病などは回復魔法では治せず、病人使ったとしても少し元気になる程度らしい。このように、回復魔法は便利だが使い勝手はあまりいいものではないらしい。
また、俺の体について、常時回復魔法がかかっているような感じなのではないかと考えてみた。カヤから引っかかれた傷はものの数秒で塞がるし、転んだときも同様だ。こういう場面だけをみれば確かに回復魔法がかかっているというようにみえる。
がしかし、テスタ曰く、俺は部位欠損も治るし死んでも生き返るので、他に何か秘密があるのではないかと思うのだが、よく分からない。
まあ、それ以上は、何を考えても同じ結論にしかならなかったのでおいおい考えていくことにした。
「で、これからどうする? 大事をとって帰るか?」
「……なんだか体もだるいのでそうします」
「それがいいだろうな。家まで送ろうか?」
「いえ、これ以上迷惑はかけれません。それに私の家はこの近くなので」
「へぇ、そうだったのか」
「はい。ですから、カナタさんは先に帰っても構いませんよ」
「とは言っても、女の子を置いて先に帰るのは男としてどうかと……」
「じゃあ、医療所を出るまで一緒に帰りましょう。それなら大丈夫ですか?」
「おう、大丈夫だ」
俺は医療所を出るまでエレナと一緒にいる事にした。ベッドから降りたエレナは普通に歩けていたし、この様子なら一人でも十分帰れそうだ。
それから医療所を後にした俺は、エレナと二~三言会話を交わしてから別れた。
エレナは終始謝っていたが、俺としては楽しかったので謝られることなどないと思っている。ぶっちゃけデートなんて生まれて初めてだったし、告白されたのだって初めての経験だったので良い思い出になった。
内容は普通とは言い難いが、俺らしいと言えば俺らしい内容だったように思う。帰ったらフィーに話してみよう。多分フィーも同じ事を言うだろうな。
それにプレゼントがある事も忘れてはいけない。二人が喜んでくれるかは分からないけど、カヤなら全力で尻尾を振るくらいに喜んでくれるだろう。
尻尾を振るとか犬かよ、とセルフツッコミをしながら俺も家路に着く。道は帰宅ラッシュによってごった返し、走っている人もいればゆっくり歩いてる人もいる。
俺は別に急ぐ必要もないので歩いている。そんな時にふと、一年前の事を思い出す。
この世界に送られて来たその日、俺はカヤを追いかけて商店街まで行き、あまりの人の多さに人酔いを起こして最終的に吐いた。
しかし、外出をしていくうちに人混みに酔う事も無くなっていき、今ではほとんど酔わなくなった。それを考えると、俺も成長してるんだなと感じる。成長の方向性がちょっとあれだが。
そんなこんなで、何事もなく家に辿り着いた。辺りは薄暗くなっており、家々にはぽつぽつと明かりが灯っている。灯っているのは我が家も例外では無い。フィーとカヤは既に帰って来てるようだ。
「ただいまー」
『あ! カナタが帰ってきたー! おかえりー!』
人の姿になっているカヤが奥から走ってきて俺に抱きつく。お風呂に入った後なのか髪が湿ってるがとてもいい匂いだ。
そんなカヤに遅れてフィーが驚いている様子でこちらに来た。
「カナタさん、おかえりなさい。でも帰ってくるなんて思いませんでした」
「なぜに?」
「いや、ほら……夜の営みをする可能性が……」
「ないないないない。さすがにデート初日でそこまでいったら俺でもびっくりだわ」
「そうじゃなくても告白されてるかもしれないですし……」
「あー……それはされたな」
「そそそそうなんですか!? それでどうなったんですか!?」
このフィーはあれか。恋バナを聞きたい女子だ。この興奮の仕方と興味津々なところをみると間違いない。でも、俺の話は特に面白い事なんてないからなあ……。
「最終的に俺がフラれた」
「へっ? 告白されたんじゃないですか?」
「された」
「なのにフラれたんですか?」
「まあ、形だけ見ればそうなるな」
「それは驚きですね……」
「あぁ……俺も驚いたよ……」
告白してきたエレナが最終にはごめんなさいと言って俺に断りを入れてくるなんて、誰が予想出来ただろうか。少なくとも俺は出来なかったな。それに加えて、あの時のザザの俺を見る目が惨めなやつを見る目で悲しくなったな。
『じゃあカナタはまだフィーと一緒にいるの?』
「そうだな。フィーが迷惑じゃなければだけど」
「迷惑だなんてそんなことないですよ。好きなだけいてもらっても構いませんし」
『だってー!』
「じゃあ、これからもフィーと一緒だな!」
「…………ほっ……」
「ほっ? フィー、どうかしたのか?」
「えっ、あー、いや、なんでもないです」
「そうか? ならいいんだが……あ、そうだ! 二人にプレゼントがあるぞ!」
抱き着いているカヤを降ろして、手に持っていたプレゼントを二人に渡す。さて、気になっていた二人の反応はどうだろうか。
『ねぇねぇ! 開けていい!?』
「おう! いいぞ!」
『わーぃ! ……おぉ? 服?』
「そう、カヤには露出多めの服で、上はへそ出し下は短パンの、所謂ボーイッシュスタイルのものを買ってきた。カヤに絶対似合うと思ってな」
『なんか、同じの見たことあるよー?』
「マジか……ってことはあの大量にカヤの服を買った時に?」
「はい……私もカナタさんと同じ事思って、全く同じの買ってます……」
プレゼントとして一番やってはいけない、既に持っているもののプレゼントをやってしまった……既に持っているものをプレゼントされても別に嬉しくないし、最悪要らないと思われる。
まさかこんなことになろうとは思っても見なかったぜ……。
「で、でもほら! 私の方のプレゼントは被ってないですし! 私は嬉しいですよ!」
「そう? そう言ってくれると俺も嬉しいよ……」
フィーはロングスカートを手に取って広げ、嬉しそうにしてる。それを見るだけで俺も少しは買って良かったという気になれる。
ちなみにフィーのロングスカートは冒険者としての仕事をする時にも履いていける割と丈夫な素材で作られている。いつもフィーの服が台無しになったところを見てたので、それをどうにか出来ないかと考えた結果だ。
『ねぇねぇ、カナタが手に持ってるお花はなんなの?』
「あ、忘れるところだった。はい、感謝の気持ちを込めて二人に」
『「感謝?」』
「そう、フィーにはこの一年とちょっとの間めちゃくちゃお世話になったし、カヤにはいつも楽しませてもらってるからな。そのお礼」
「……ありがとうございます」
「ちなみに、二人にプレゼントした花の花言葉はどっちも感謝だから。それだけで俺がどれだけ感謝してるか、分かってもらえると思うぞ」
『これ、食べれる?』
「んー! 食べれないんじゃないかな! というか食べないで! 俺の感謝の気持ちが!」
『そっかー……残念……』
花を食べれなくて本気で残念そうにしているのは猫の性なのか。はたまたカヤの性格なのか。俺にはさっぱり分からん。
俺はカヤにはちょっと早かったかもしれないと思いつつカヤの頭を撫で、フィーはどうなのかと目線をそっちへ向けた。すると意外なことに、フィーの目から涙が零れていた。
「フィー? 涙、大丈夫?」
フィーの涙にちょっと面食らってしまい、カタコタになってしまった。まあそのへんは、女性の涙に耐性のない男だということで気にしないで欲しい。
「だ、大丈夫です……ただ、感謝の気持ちをこんな感じで受け取ったのが初めてで……なんか凄く嬉しいのに涙が……こう……溢れてきてしまって……」
「俺もそこまで喜んでもらえるとは予想外ではあったけど、いい方向に予想外で俺も嬉しいぞ」
『わたしも泣いたほうがいい?』
「いや、カヤはいつも通りそのままが一番可愛いから泣かなくても大丈夫だぞ」
『分かったー!』
いつも通り元気一杯のカヤに、泣いていつもよりしおらしくなったフィーをみて、一応俺のプレゼントはこれで良かったなと思えた。またいつか、今度はもっと違う何かを贈れるようにしよう。
「さて、二人は夕飯もう食べたのか?」
「いえ……私達もさっき帰って来てお風呂に入った後なのでまだ……」
「じゃあ、今日は外に食べにいくか! あ、でもお風呂入った後なら外には出たくないか……」
「お風呂にはまた入れますから。外食しましょうか」
『外食! ってなに……?』
「お店で料理を食べることだぞ。割と美味しい料理が出てくるんだぞー」
『ホントに!? 行く行くー!』
「よし、ちょっと準備をしてから行くか!」
そうして、準備を済ませた俺達は外食をするため、再び外へと繰り出した。
◇◆◇◆◇
「ふぅー、割と美味かったなー」
『でも、フィーの料理の方が美味しかったなー』
「それは間違いないな。なんてったってフィーの料理は世界一だからな!」
「もう、大袈裟ですよ」
私達はカヤを真ん中にして手を繋いで歩いている。
私達三人での外食は初めてだったけれど、とても楽しく食べる事が出来た。それもこれも、全部カナタさんとカヤのおかげだ。二人に出会ってなればこんな気持ちになることもなかったのだから。
今日の昼にはカヤの気持ちを聞いて、そして自分の気持ちに気がついた。
カナタさんが家に帰って来て、これからも私と一緒だ、と言ってくれた時に安心した。花を受け取った時に思わず泣いてしまう程に嬉しかった。それだけカナタさんの存在は私の中で大きなものになっていたのだと気付いた。
「そう言えば、こんな時間に外にいるのは初めてかもしれん」
「そうなんですか?」
「日が暮れる前には家に戻ってたし、夜に外出てたら何に巻き込まれるか分かったもんじゃないからな」
「カナタさんですもんね」
「そうそう、俺だから」
カナタさんはそう言って私に笑いかける。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに。そんなことを思ってしまう。カヤとじゃれ合ったり、カナタさんとゆったりとした時間を過ごしたり。そんな幸せがいつまでも続けばどれだけ幸せだろうか。
『みてみてー! 星がいっぱい!』
「おぉ。これは凄いな」
「えぇ……本当に」
「…………月が綺麗ですね」
「本当に綺麗な満月です……」
「……こうなる事は分かってたけどね!」
『いきなりどうしたの?』
「いや、なんでもないんだ。本当に……なんでも……」
カナタさんは今、どんなことを思っているのだろうか。私と同じような事を思っているのだろうか。もしそうだとしたら、どれだけ幸せなことだろう。
私はカナタさんの笑っている横顔を眺め、夜空に流れる一つの星に願いをこめたのだった。
最近、スランプ気味です。以前より筆が進みません。今後も投稿が遅れる可能性がありますのでご了承ください。
それでは、次回もお会い出来る事を願って。